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中東呼吸器症候群コロナウイルス感染症に罹患したがん患者の治療アウトカム

この記事の3つのポイント
・中東呼吸器症候群コロナウイルス感染症に罹患したがん患者が対象の試験
・がん患者19人の内、早期がんの患者3人が生存
・ウイルスへの曝露を回避する効果的な予防方法を実施することが不可欠

2020年3月20日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にて中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染症に罹患したがん患者の治療アウトカムを検証した試験の結果がKing Saud bin Abdulaziz University for Health SciencesのAbdul-Rahman Jazieh氏らにより公表された。

本試験は、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染症に罹患した19人のがん患者(血液悪性腫瘍47.4%、大腸がん21%、肺がん15.8%)の死亡率を検証した試験である。なお、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)は鼻咽頭における検体採取方法により診断されている。

本試験が実施された背景として、多くのがん患者は感染症に罹患しやすく、主な死因として感染症が知られている。がん患者が脆弱である理由は複数あるが、外科手術、放射線治療化学療法などによる免疫システム機能の低下が感染症の発症リスクを高めている。また、がんを発症する危険因子として考えられる年齢、合併症、喫煙などは中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)による死亡率の危険因子でもある。以上の背景より、がん患者における中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)による死亡率を検証する目的で本試験が開始された。

本試験に登録された19人の患者は背景は下記の通りである。性別は男性63.2%(N=12人)、女性36.8%(N=7人)。年齢中央値は66歳(16‐88歳)。がんの進行病期ステージIが10.0%(N=1人)、ステージIIが20.0%(N=2人)、ステージIVが50.0%(N=5人)、不明が20.0%(N=2人)。

併存合併症はなし21.1%(N=4人)、高血圧57.9%(N=11人)、糖尿病52.6%(N=10人)、心障害47.4%(N=9人)、腎障害15.8%(N=3人)、脂質異常症15.8%(N=3人)、その他21.1%(N=4人)である。

がん治療の種類は化学療法68.4%(N=13人)、放射線治療21.1%(N=4人)、外科手術15.8%(N=3人)。中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)発症時の治療ステータスは完全奏効(CR)11.0%(N=2人)、病勢安定SD)5.0%(N=1人)、病勢進行(PD)11.0%(N=2人)、測定不能74.0%(N=14人)。

以上の患者における症状の経過は下記の通りである。集中治療室へ入院した患者が80%(N=16人)、その内81%(N=13人)の患者が急性呼吸窮迫症候群を発症、気管挿管した患者が68.75%(N=11人)、56.25%(N=9人)の患者が急性腎障害を発症、透析が必要だった患者が18.75%(N=3人)であった。なお、19人のがん患者の内、早期がんの患者15.8%(N=3人)だけが生存しており、血液悪性腫瘍、進行性固形がん患者の致死率は100%を示した。

生存した3人の患者背景は下記の通りである。性別は男性33.3%(N=1人)、女性66.7%(N=2人)。年齢中央値は64歳(61‐82歳)。がんの種類は大腸がんが66.7%(N=2人)、子宮内膜腺がんが33.3%(N=1人)。がんの進行病期はステージIが33.3%(N=1人)、ステージIIが66.7%(N=2人)。併存合併症は高血圧100%(N=3人)、糖尿病100%(N=3人)、心障害100%(N=3人)。治療ステータスは完全奏効(CR)66.7%(N=2人)、病勢安定(SD)33.3%(N=1人)。

以上の試験の結果よりAbdul-Rahman Jazieh氏らは以下のように結論を述べている。”中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染症に罹患したがん患者の致死率は非常に高くなります。 したがって、がん患者に対してウイルスへの曝露を回避する効果的な予防方法を実施することは不可欠です。”

Outcome of Oncology Patients Infected With Coronavirus(JCO Glob Oncol. 2020 Mar;6:471-475. doi: 10.1200/GO.20.00064.)

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