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免疫チェックポイント阻害薬アベルマブ(バベンチオ)がメルケル細胞がん患者の約3割に持続奏効 Lancet Oncol

目次

FDA画期的治療薬、優先審査指定の根拠となる第2相試験 Lancet Oncology Online

プログラム細胞死受容体リガンド(PD-L1)を標的とする完全ヒト型モノクローナル抗体アベルマブ(バベンチオ)(MSB0010718C)が、悪性度の高いメルケル細胞がん患者集団を対象とする単剤治療で31.8%の奏効率をもたらした。その効果は持続的で、奏効例の82%が解析時点でも奏効が維持されていた。これは第2相試験(JAVELIN Merkel 200、 NCT02155647)の結果で、米国ニュージャージーRutgersがん研究所のHaward L Kaufman氏を筆頭著者とする論文がLancet Oncol Online(2016年9月1日)に掲載された。過去の臨床試験データに照らして臨床的意義の高い結果とされ、米国食品医薬品局(FDA)により画期的治療薬に指定された。

試験概要~奏効率31.8%、完全奏効率9.1%~

2014年7月25日から2015年9月3日、北米、欧州、オーストラリア、日本を含むアジアの35施設で、病期ステージIVで細胞障害性の化学療法で進行した転移性メルケル細胞がん患者88人を登録し、アベルマブ(バベンチオ)10mg/kgを2週毎に1時間かけて静注した。主要エンドポイントは、独立評価委員会がRECIST基準により判定する奏効率(完全寛解(CR)+部分寛解(PR)の患者割合)であった。

その結果、主要エンドポイントを達成した。追跡期間中央値10.4カ月で、奏効率は31.8%(28/88人)、うち完全寛解(CR)は8人、部分寛解(PR)は20人であった。奏効の28人中23人(82%)は解析時も奏効状態が継続していた。加えて9人(10%)は病勢安定SD)が認められた。

治療との因果関係が否定できないグレード3の有害事象は4人(5%)に5件発現し、白血球減少症(2件)、血中クレアチンホスホキナーゼ上昇(1件)、アミノトランスフェラーゼ上昇(1件)、および血中コレステロール上昇(1件)といった臨床検査値異常であった。グレード4は認められず、治療関連死もなかった。治療との因果関係が否定できない重篤な有害事象は5人(6%)に6件認められ、腸炎、静注関連反応、アミノトランスフェラーゼ上昇、軟骨石灰化症、滑膜炎、間質性腎炎(各1件)であった。

→要するに、抗がん剤治療を行ったことがある転移性メルケル細胞がん対象の日本を含む第2相国際共同試験が行われた。結果、奏効率は約30%と良好。副作用もグレード3以上で4人しか発現しなかった。ということ。

アンメットメディカルニーズの最も高い患者集団でも抗腫瘍効果が持続

メルケル細胞がんは悪性度の高い皮膚がんで、まれながんではあるが、化学療法に一旦は反応しても40%を超える患者は再発し、病勢の進行による死亡率は悪性黒色腫の3倍にのぼる。化学療法での奏効は持続性に乏しく、転移がある患者で二次化学療法に奏効する患者割合は23%、その奏効が6カ月持続する患者割合はわずか6.7%と報告されている。

本試験に参加した患者は全て遠隔転移があり、その転移巣を標的とした少なくとも1種以上の治療歴があった。メルケル細胞がんの中では最も予後が悪いタイプに入る患者集団である。アンメットメディカルニーズが極めて高いこの患者集団で、カプラン-マイヤー法に基づく解析では、奏効持続の患者割合が高いため無増悪生存(PFS)の曲線がプラトー、高止まりに達している。治療期間を6カ月で区切った場合、奏効持続の患者割合は全解析対象の29%、無増悪生存(PFS)の患者割合は40%となる。完全寛解(CR)が得られた患者の中には、内臓転移があり腫瘍量も大きく、治療歴も重い患者も含まれ、また別の患者では、アベルマブ(バベンチオ)の治療を終了後9.5カ月経過してもCRが持続している。

希少がんの臨床試験は登録患者数を確保するのが困難だが、本試験の対象としたステージIVの転移性メルケル細胞がんで88人の登録数は大規模試験といっても差し支えない極めて貴重な臨床試験となった。筆者らが2010年から2015年に公表された文献や学会抄録を検索したところ、遠隔転移のあるメルケル細胞がん患者を対象としたコホートスタディを5件発見したが、ステージIVと確定診断された患者を対象とする報告はわずか1件。やはり化学療法で奏効しても一時的で、5年生存率は0%から18%であった。

→要するに、既存抗がん剤抵抗性となった非常に予後の悪い集団においても、アベルマブ(バベンチオ)初回投与から6か月後にも効果が持続している割合は40%にも上る。中には多発遠隔転移から完全奏効した患者がおり、その患者は9.5カ月経過しても完全走行状態が続いている。ということ。

メルケル細胞がんの治療薬は登場するか

アベルマブ(バベンチオ)の効果は、腫瘍組織のPD-L1発現量、またはメルケル細胞ポリオーマウイルス陽性・陰性に関連しなかったことから、現在までに認知されているのとは異なるメカニズムを考察せざるを得ない。腫瘍微小環境におけるウイルス抗原、紫外線による変異原性、およびPD-L1の発現の相互作用に関わるメカニズムについては不明な点が多いが、ポリオーマウイルス陽性の腫瘍はウイルス依存性の遺伝的符号を示すサブタイプ、ポリオーマウイルス陰性の腫瘍は紫外線誘発性の遺伝的符号を示すサブタイプであるとの解析結果もある。また、ウイルス陰性の腫瘍の場合、PD-L1の発現は免疫回避のメカニズムにより左右され、あるいは変異原性と新生抗原の発現亢進により変動する可能性も示されている。アベルマブ(バベンチオ)による奏効のメカニズムを特定するには至っていないが、これまでの報告と本試験の結果を踏まえ、多様な側面からの解析がメルケル細胞がんの治療の道を拓き、治療成績の向上や選択肢を増加させる研究・開発につながると期待される。

メルケル細胞がんの発症の要因として、ポリオーマウイルス、紫外線曝露、免疫抑制状態、高齢などが挙げられるが、まだ確定的な見解はなく、前向き臨床試験もほとんど実施されてこなかった。切除不能で再発、または転移性のメルケル細胞がんを適応として承認されている治療法はない。人口10万人あたりの年間罹患者数は、米国で0.79人、欧州で0.2から0.4人、オーストラリアで1.6人とされる。アベルマブ(バベンチオ)は米国、欧州、およびオーストラリアでメルケル細胞がんを適応とする希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)に指定されている。

→要するに、アベルマブ(バベンチオ)の効果は、ポリオーマウイルス陽性・陰性に関連せず、さらにはPD-L1発現量にも関しなかった。よって、奏効メカニズムを特定するに至っていないが、少なくともアベルマブ(バベンチオ)がメルケル細胞がんの治療の道を切り開く可能性を見出した臨床試験結果である。ということ。

記事:川又 総江 & 可知 健太

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