※本記事はEvaluate社の許可のもと、オンコロが翻訳したものです。内容および解釈については英語の原文を優先します。正確な内容については原文をお読みください。
来週のバーチャルミーティングで、Ox40アゴニストは復活の時を迎える可能性がある一方、失望に終わる可能性もはらんでいる。
米国がん学会(AACR 2020)で発表される演題リストが公表されたが、その演題リストの中には2つサプライズがあった。1つ目は、Roche社が開発中の抗TIGITヒトモノクローナル抗体であるtiragolumabの臨床試験に関する演題が見当たらなかった点。2つ目は、免疫腫瘍学の分野ではその有効性が否定されたOx40を標的にした抗体薬に関する演題が3つも掲載された点である。
後者のOx40に関する演題とは、Glaxosmithkline社の主要ながん治療薬として期待されている薬剤(GSK3174998)と、Alligator Bioscience社の二重特異性抗体(CTLA-4 x OX40)の第1相試験の結果、そしてModerna社のOx40リガンドmRNA(mRNA-2416)の初期データに関するものである。これら3つの演題以外にも、投資家を魅了する新規作用機序に関する演題は複数あったものの、抗TIGIT抗体に関する演題が掲載されなかったことは投資家を失望させたであろう。
TIGITを標的にした抗TIGIT抗体薬はRoche社が開発するtiragolumab以外にも、Arcus Biosciences社、Compugen社、iTeos Therapeutics社など複数のバイオベンチャーが開発をしている。これらバイオベンチャーの投資家は1,060例の被験者を対象とするtiragolumabの第2/3相試験(3部構成のSKYSCRAPER試験)の実施というRoche社の決断を後押しする当薬剤の早期臨床データを待ち望んでいたからである。
なお、tiragolumabの最有力競合薬であるMK-7684を開発するMerck社は4つの臨床試験を新たに開始している。しかしながら、AACR 2020の演題リストの中にはtiragolumabに関する臨床データだけでなく、tiragolumab以外の抗TIGIT抗体に関する臨床データの演題も掲載されていなかった。
(この記事が発表された後、Roche社はVantageに対し、tiragolumabのデータは6月22-24日に開催されるAACR IIで発表予定であると伝えた)
当初、AACR 2020は2020年4月24日(金)から開始される予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、主催者は2つのバーチャルミーティング形式での開催へ変更した。
初回のAACR 2020であるAACR Iは来週の月曜から火曜日に開催される。AACR Iでは、AACRが適宜公開したいとしている臨床発表のほとんどが取り上げられ、その演題は公開されている。また、2回目のAACR IIは6月に3日間開催され、同セッションのアブストラクトは2020年5月15日に公開される予定である。
AACR Iにおける新規作用機序の注目演題は、Celgene社との間でオプション契約がなされ、その後Bristol-Myers Squibb社の下では先行きが不透明なNorthern Biologics社の抗LIF-1モノクローナル抗体(MSC-1)、Abbvie社が開発中の抗CLDN6/9抗体薬物複合体(SC-004)、Immutep社が開発中の可溶性タンパク質LAG3(Eftilagimod alpha)に関するものなどが含まれる。
また、Ox40を標的にした抗体薬が注目演題として選出されたことは驚くべきことである。なぜなら、Pfizer社が開発していたOx40アゴニスト抗体であるPF-04518600、Astrazeneca社が開発したMEDI0562の単剤療法としての寛解率はどちらも期待値以下であったことが欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2016)で発表されていたからだ。
基礎研究の注目演題としては、Astrazeneca社とRoche社がそれぞれ開発中の選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレータ(SERD)(AZD9833とRG6171)、Novartis社が開発中のSHP2阻害薬(TNO155)、Boehringer Ingelheim社が開発中のKRAS、SOS1阻害薬(BI-3406 & BI 1701963)が挙げられる。特に、KRAS阻害薬に関する演題は、同作用機序の新薬を開発中であり、昨日(4月21日付)公表されたKerrisdale Capital社のリサーチレポートによって株価が急落したMariti社にとって興味深いものであろう。
AACR 2020が製薬会社の株価に与える影響力に関していえば、既に恩恵を受けた勝者が存在する。その製薬会社とはIovance社である。腫瘍浸潤Tリンパ球療法(TIL)を開発中であるIovance社が演題名「非小細胞肺がんに対する腫瘍浸潤Tリンパ球療法(TIL)であるLN-144、LN-145、持続的な完全寛解を示す」を2020年4月14日に公開すると、株価は17%上昇し、企業価値は数十億ドル向上した。同試験の組み入れ人数は20例であり、2人が完全寛解(CR)を達成していることから、完全寛解率は少なくとも10%に達すると推察している。
しかしながら、同試験の奏効率の判定基準、測定タイミング、持続期間などの詳細については何も開示されていない。実際、同試験の試験デザインはシングルアームでありながら、抗PD-1抗体薬ニボルマブ(商品名オプジーボ)、インターロイキン‐2(IL-2)、化学療法を併用しているため、Iovance社のTILにおける臨床ベネフィットを判別するのは難しいだろう。
この演題の代わりに、AACR 2020で最も興味深い細胞療法の演題になり得るのは、Gracell社が開発中のCD7を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法であるGC027の臨床試験の結果であろう。ほとんど知られていないGracell社は、物議を醸したCellular Biomedicine Groupの元最高経営責任者が設立した中国の会社で、既にシリーズBで8,500万ドルの資金を調達しているバイオベンチャーである。そして、キメラ抗原受容体T細胞(CART)療法を1日で製造できる画期的な基盤技術を開発したと主張している。
GC027に関する薬理学的な問題として、T細胞性腫瘍を標的にするGC027が自身を標的として攻撃するOff-target作用(fratricide)をどのように回避するのかについては、現時点では明らかにされていない。すべては来週(4月27日以降)、明らかになるだろう。
AACR Iは4月27日から28日までバーチャルミーティングで開催され、抄録全文は4月27日午前12時1分に公開される。
■出典
Evaluate Vantage; AACR 2020 preview – no Tigit, but plenty of novel mechanismsches