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【PR】CGPの発展を目指して-がん治療の道しるべ

提供:バイエル薬品株式会社

がん医療の第一線で活躍する専門医の方々にがんゲノム医療の現状や課題、仕組みづくりについて語り合っていただく本シリーズの第2回は、「包括的がんゲノムプロファイリング検査(CGP)」の運用に焦点を絞り、CGPを治験や研究に有効活用するうえでの課題や解決策を話し合いました。

中川 和彦 先生:近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 教授
加藤 元博 先生:東京大学大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻小児医学講座 教授
下井 辰徳 先生:国立がん研究センター 希少がんセンター/同中央病院 腫瘍内科 医長
司会/川上祥子:がん情報サイト オンコロ編集部

CGPを早期に実施した場合のメリットとデメリットとは?

――患者さんたちからは、標準治療の終了後ではなく、もっと早い段階からの実施を希望しているという意見もありますが、「包括的がんゲノムプロファイリング検査(以下CGP:Comprehensive Genomic Profiling)」を行うタイミングについてどのようにお考えですか。

中川 肺がんでは、がんゲノム医療に基づいた診療体系が構築されていることもあって比較的早期に一度に複数の遺伝子変異を調べている施設が多いようです。対象となる遺伝子を一つずつ検査している施設もあるようですが、そうした施設を含め、現行の保険診療で1回の実施しか認められていないCGPの機会を残しておきつつ、可能なかぎり遺伝子に関する包括的な情報を得て治療に結びつけられるよう患者さんと話し合いながら取り組んでいます。

加藤 小児がんは標準治療が確立していないことも多く、CGPの実施にあたっては日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会、日本癌学会の3学会合同で作成された『次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス』を参考にしています。そのガイダンスには「診断時にゲノム所見に基づく診断の補助や治療方針の決定、あるいは有効性の期待できる治療薬の選択を目的として、診断や予後予測を目的とした遺伝子パネル検査の実施を考慮する」と記載されており、当科も臨床的に検査が必要なタイミングで行えていると考えています。希少がんにおいても同様の状況ではないでしょうか。

下井 ええ。希少がんもほとんどの場合、標準治療がないため、初回治療や2次治療の段階でCGPの説明を行っています。患者さんがCGPを説明する時期が遅いと感じられることがあるのなら、それは担当医の考えによるものなのかもしれません。

――CGPを早期に実施した場合、どのようなメリットやデメリットがありますか。

中川 発がんの原因となる原因遺伝子について早期に知ることは極めて重要です。分子標的治療の登場により治療状況は一変し、がんの遺伝子変異がある人にとって適応となる分子標的薬は生存期間を延長する効果がとても高いことがわかりました。これは医師にとっても成功体験となり、非常に強い確信へと変わっていきました。すなわち、早い時期に遺伝子変異を知り、分子標的薬にアクセスできることは患者さんにとって大きなメリットになると。さらに、耐性の機序が解明され、それを克服する新たな治療なども次々と開発されています。「標準治療が終了してから」という保険適用の条件は、科学的・合理的な側面から設定されたものではなく、財政面からの制約なのでしょう。早期にCGPを実施するデメリットがあるとすれば検査費用に50万円前後のコストがかかることでしょうか。

早期に遺伝子変異を知り治療薬を使えることは患者さんにとって大きなメリットになる

加藤 コストは大きな課題ですね。幸い、多くの人が「子どもは国の宝」だと考えていることや小児科では患者さんの自己負担がないことから検査費用を理由に諦めることなく、CGPを実施できています。個々の患者さんに応じた最適なタイミングで何度でもCGPを実施することができればよいのでしょうが、日常診療の中でこの高価な検査をどう活用していくのかということを走りながら考えている段階で、実施時期や回数に制限があるのはやむを得ない産みの苦しみだと認識しています。

 ただ、DPC(包括医療費支払い制度)下でCGPの算定ができないことは早急に改善していく必要があります。外来化学療法が中心となっている成人のがんではあまり問題にならないかもしれませんが、小児がんの化学療法は主に入院で行われ、入院による治療はDPCの適用となるため、21年7月現在、CGPを実施する際の費用は病院の持ち出しになってしまうからです。日本臨床腫瘍学会や日本小児血液・がん学会では国に対して要望書を提出しており、近日中に解決することを望んでいます。

日常診療でCGPの活用を試行錯誤している段階で実施時期や回数に制限があるのは“産みの苦しみ”

下井 CGPの目的の1つは治験の可能性を探索することですが、臨床試験には適格条件があり、誰でも入れるわけではありません。希少がんの場合は前にもお話したとおり、第3相試験や第2相試験が少ないうえに参加できる機会のある第1相試験においても適格条件として通常以上に臓器機能や体調がよいことが求められます。こういったことを考慮すると、早期にCGPを実施するメリットは大きいのです。ただ、第1相試験の治験数も少なく、対象となる人は限られるため、そこがデメリットというより課題です。一方、乳がんなどの患者数が多いがんでは、早期の段階から新薬の治験が行われており、CGPを早期に実施することによって治験につながる人が増えるメリットがあると思います。

CGPを活用した治験や治療の可能性を広げるためには?

――患者さんからは居住地域やかかっている病院によってCGPの機会が均等でなくなるおそれがあるといった懸念も示されています。国ではがんゲノム医療の均てん化も目指していますが、これに関連して病院間の連携はどうなっていますか。

中川 私が所属する近畿大学病院は「がんゲノム医療拠点病院」に指定されており、連携している病院は21年7月現在3か所です。当院で実施するCGPのうち、連携病院からの紹介は15%程度、一般病院からの紹介は25%程度、それ以外の60%は当院の通院患者さんです。連携上、支障を感じることはありませんが、CGPの大きな目標が治療の選択肢を増やすこと、治験への参加機会を増やすことを考えると、他院からアクセスできる人は少ないです。また、それ以前に日本では開発治験数が少なく、実施病院も限られていることがこの懸念に対する最も大きな課題であると考えます。当院が20年度に実施したCGP二百数十例のうち、標準的治療につながった症例は4例、治験に参加できたケースはほとんどありませんでした。

下井 私が所属する国立がん研究センター中央病院に治験を目的として紹介される患者さんの中には、標準治療が終わり最後の頼みの綱として第1相試験への参加を希望される人もいます。「治験は誰でもすぐに入れるのではないか」との認識のもと紹介されることも多いですが、待ち時間が2~3週間かかる場合もありますし、第1相試験では人体に未知の薬を使用するため、臓器機能を含めた体調の適格基準がより厳しく、体調が悪化している患者さんは、ほとんど参加できないのが実情です。

 こうした紹介例に接すると臨床試験、特に第1相試験に対する医師の理解を広めていくことが望ましいと感じます。また、各病院のエキスパートパネルの治験の考え方にも差異がみられます。私たちは該当する遺伝子変異が見つかっても過去の臨床試験でほとんど有効性がないことがわかっている治験を患者さんにすすめることはないのですが、そのようなケースでも紹介されてくることがあり、治験への参加を希望されても提案できないことがあります。

治験数が少なくCGP実施病院も限られていることが患者さんの検査や治療の機会損失につながっている

加藤 小児がんではこの分野のエキスパートパネルが可能な施設にすべての連携病院からCGPを依頼できる体制が構築されています。また、小児がんを診療する医師も限られているため、情報交換や施設間連携、集約化は従来から進んでいます。ただし、課題が2つあります。1つは、がんゲノム医療提供体制と小児がん診療体制が一致していないことです。小児がんの専門医がいる施設が必ずしも連携病院に指定されているとは限らず、速やかにCGPを受けられる環境にないこともあります。

 もう1つは、すでにほかの先生も指摘されていることですが、治験数が少ないことです。小児がんの治験は成人よりもさらに減り、また小児に対する分子標的薬の用法用量が設定されていることも少ないです。がんゲノム医療を通して小児がんの薬剤開発にかかわる課題が顕在化してきましたが、これを機に徐々に改善されてくることを願っています。

下井 希少がんの場合も専門医が全国に散らばっており、がんゲノム医療拠点病院以外の施設で希少がんを診療していることも少なくありません。希少がんは早期からCGPを提案できるがん種ですが、このような事情からCGPの提案に至らないケースもあるでしょう。患者さんから提案し、がんゲノム医療拠点病院に紹介してもらうことはできると思いますが、距離的な問題や希少がんに対するバックアップ体制など医療環境の問題により治験を受けるのに適さないこともあります。

治験数が圧倒的に少ないなか、がんゲノム医療の発展を握るカギは?

――がん種で事情は異なりますが、CGPの目的の1つである治験が圧倒的に少ないことが共通の課題のようですね。今後、日本のがんゲノム医療をどのように発展させていくのが望ましいでしょうか。

加藤 理想はすべてのがん患者さんが必要な検査を最適なタイミングで受けられるようにすることでしょう。一方でCGPの実施においては検体の適切な処理や遺伝的背景が判明し得ることへの十分な説明や心理的ケアなどCGPが滞りなく行われるために欠かせないサポート体制も十分に整っているとは言い難い状況です。治験薬へのアクセスも難しい課題であり、現状は試行錯誤しつつ進めている段階だと思いますが、患者さんも医療者も同じ方向を見ていることに近未来の展望は明るいと期待しています。

下井 保険診療の治療に必要な検査しか認めてこなかった厚生労働省が治験や研究に参加する機会を増やすための検査であるCGPを保険適用にしたのは画期的なことです。このCGPを診断早期から実施してほしいという患者さんの声もあります。ただ、高額な費用がかかるCGPが患者さんにもたらすメリットを具体的に説明できなければ「早期に誰でも実施できる」とすることは財政的に厳しいでしょう。

中川 私も保険診療下でCGPを実施できるようにしたのは国の英断だったと評価しています。がんの原因となる遺伝子変異が判明している患者さんが多くいれば、それらを標的とした治験を国内だけでなく海外からも導入しやすい環境が作られます。国を含め、皆が描いている青写真は、治験・創薬の臨床試験が数多く実施され、CGPによって多くの患者さんが臨床試験に参加し、新薬や新治療が次々と開発されていくことでしょう。しかし思いのほか治験が増えず、そのサイクルがうまく回っていないのが現状だと思います。

――そのような方向に進むにはどうすればよいでしょうか。

中川 厚生労働省は、国内外の製薬企業に対して国内での治験をもっと実施するようシグナルを送るべきではないでしょうか。また、我々医療者も患者さん(患者団体)と協働し、治験を促進する要望を政府や企業に届けることが重要です。この働きかけが “正のサイクル”を推進することにつながり、がんゲノム医療を発展させるキーポイントになると考えます。

がんゲノム医療が正のサイクルで回っていくように患者さんと医療者が協働し、治験促進の働きかけを

――本シリーズでは2回にわたり、活発な議論をいただき、誠にありがとうございました。この企画が患者さんと医療者の協働、そしてよりよいがん医療の発展に少しでもお役に立つことを願って多くの読者の皆様にお届けします。

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中川 和彦(なかがわ・かずひこ)先生
近畿大学医学部 内科学腫瘍内科部門 教授
1983年熊本大学医学部卒業。熊本大学医学部附属病院、国立がんセンター、Medicine Branch、NCI、NIHなどを経て、2007年より近畿大学内科学腫瘍内科部門教授。肺がん、化学療法などを専門とし、数多くの臨床試験を手がける。認定NPO法人西日本がん研究機構(WJOG)理事長。
加藤 元博(かとう・もとひろ)先生
東京大学大学院医学系研究科 生殖・発達・加齢医学専攻小児医学講座 教授
2000年東京大学医学部卒業。医学博士。東京大学医学部附属病院、埼玉県立小児医療センター、国立成育医療研究センターなどを経て、2021年より東京大学医学部附属病院小児科。小児血液・腫瘍、造血細胞移植、がんの分子遺伝学を専門とし、診療と研究に従事している。
下井 辰徳(しもい・たつのり)先生
国立がん研究センター 希少がんセンター/同中央病院腫瘍内科 医長
2007年岐阜大学医学部卒業。医学博士。がん・感染症センター都立駒込病院、国立がん研究センター中央病院、厚生労働省保険局医療課などを経て、2020年より国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科(現・腫瘍内科)医長。乳がん、婦人科がんのほか、希少がんの診療も担当している。

 

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