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AYA世代のがん治療(下) ~仕事・学業との両立、恋愛、生殖機能の温存・・・AYA世代ががんになったとき直面する問題への対処法~

※前編はコチラ:AYA世代のがん治療(上) ~ AYA世代でがんになったら どこで治療を受ければいいの?~

 AYA(Adolescent&Young Adult、概ね15~29歳)世代のがん治療、対策の遅れが問題になっています。厚生労働省は、来年度の予算概算要求の総合的がん対策の目玉の一つとして「AYA世代のがん対策の推進」を掲げていますが、AYAは、受験、就職、学業や就労の継続、恋愛、結婚、出産などさまざまな問題に直面する世代であり、小児や中高年とは異なった対策が必要です。AYA世代の人ががんになったとき直面する問題の対処法について、今年1月にAYA世代病棟を開設した静岡県立静岡がんセンター小児科部長の石田裕二さんに聞きました。

目次

仕事や学業と治療の両立を

 「AYA世代の患者さんにとって特に重要なのは、学業や仕事の継続です。AYA世代の人は職場での地位がまだしっかりと確立されていないこともあり、がんと診断されてすぐに、会社に迷惑をかけると思って仕事を辞めてしまう患者さんもいるのですが、がんで治療が必要だからといって学校や会社をすぐに辞める必要はありません」と、石田さんは強調します。

 静岡がんセンターAYA世代病棟のミッションは、「若者の力を集めて新しいがん治療を創り、再び笑顔で社会に送り出そう」です。同センターでは、がんの治療計画の作成と並行して、医師や看護師などのスタッフとAYA世代の患者が話し合いながら、いつ学校や仕事に復帰するか社会復帰に向けた計画を立てていくそうです。がん診療連携拠点病院の相談支援センターでは、ソーシャルワーカーや労働問題の専門家である社会保険労務士などが仕事の継続のための支援を行っているところが増えています。

 石田さんは、これまでがんの患者さんの学業や仕事の継続を支援してきた経験から、「大切なのは、学校や職場との関係を絶たないことです。治療の見通し、スケジュールなどを担当医に確認し、メールや電話などで、学校の先生や上司、同僚と連絡を取り続けるようにしましょう。必要に応じて、担当の医師から、職場の人に病気の状況を伝えることもできます。副作用の強い化学療法など、つらい治療も、社会復帰を目指すためと思えば乗り切れるのではないでしょうか」と話します。

イライラしたり自暴自棄になったりしたとき

 「なぜ、自分だけが病気になってこんなつらい思いをするのか」「自分は、何か悪いことをしたのか」--。AYA世代は、本来なら、仲間と同じように自分の目標に向かって人生を楽しむ時期です。それなのに、病気になって治療を受けなければならないことにいらだち、自暴自棄になる人もいます。AYA世代は、治療拒否が多い世代とも言われます。元気なら親から自立していく時期に、病気になったために親を頼らなければならないジレンマにイライラしたり悩んだりすることもあるはずです。

 「つらくなったら、同じようにAYA世代でがんになった仲間、あるいは、身近な看護師、相談室や相談支援センターのスタッフなど、誰でもいいので、いまの気持ちを伝えてみましょう。悩むのは決して恥ずかしいことではありません。誰かに話すことで、少し気持ちが軽くなることもあります。友人や周囲の人にどういうふうに病気のことを伝えたらいいのかについても、看護師や相談員などに相談してみてください」(石田さん)

AYA世代のがんサバイバー

生殖能力失うリスクがあるのかも確認を

 また、もう一つ、AYA世代の人が、がんの治療前に確認したいのが、治療によって、生殖機能を失うリスクがあるかどうかです。がんを治すための手術、薬物療法、放射線療法によって、生殖機能を失ってしまう場合があるからです。「がんと診断されただけでも気が動転しているのに、特に独身の患者さんは、将来子供が欲しいかどうかまで考えられないかもしれませんが、生殖医療が進み精子や卵子を保存する選択肢も出てきました。すべての治療で生殖能力が失われるわけではないので、まずは、自分が受けるがん治療によって生殖能力を失うリスクがあるのか確認しましょう」。石田さんは、そうアドバイスします。

 これまでは、がんの治療を優先し、生殖機能への影響についてAYA世代の患者に話をしない医師が多かったのですが、10代の思春期の患者でも、がんの治療前に、精子や卵子、あるいは卵巣の凍結保存を選択する人が徐々に増えてきています。治療を始めるまでにどのくらい時間があるかにもよりますが、担当医に相談し、がんの患者さんを対象にした生殖機能の温存を行う医療機関で話を聞くことを検討してみるとよいでしょう。生殖機能の温存を選ばなかったとしても、自分で納得して選ぶことが重要です。

 一方、難しいのは恋愛のことです。「患者さんが結婚している場合には、担当医が直接病状を説明し、パートナーの精神的なサポートも必要に応じて行いますが、相手が彼、彼女だと、医療者がそこまで立ち入ってよいのか躊躇してしまいます。患者さんの側から、大切な彼、彼女に、病気のことをどう伝えたらよいのか、がんが治る可能性が低いときに彼や彼女までサポートしてもらえるか相談していただければ、患者さんと一緒に考え、できる限りのサポートはしたいと考えている医療者は多いと思うので、積極的に相談してください」と石田さん。

 正解のない問題も多いのですが、静岡がんセンターのAYA世代病棟のように、AYA世代の患者に必要なケアを多職種が連携し提供する病院が徐々に出てきています。AYAは、病気になってもならなくても悩みの多い世代です。遠慮せずに、必要に応じて医療者に相談し、がん治療を受けながらも自分らしく生きることが大切なのではないでしょうか。

(取材・文/医療ライター・福島安紀)

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