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抗がん剤治療後の血液細胞での突然変異増加を新規測定法で確認、小児肉腫患者の末梢血細胞内に微量な突然変異が蓄積

8月4日、国立がん研究センターは、超低頻度の突然変異を正確に測定する「EcoSeq(Exzymatically Cleaved and optimal Sequencing、エコセック)」法を開発し、抗がん剤治療を行った小児肉腫患者の末梢血の細胞内に微量な遺伝子の突然変異が蓄積していることを世界で初めて明らかにしたと発表した。

この研究は、同研究所エピゲノム解析分野長の牛島俊和氏(当時、現在:星薬科大学学長)と同センター中央病院小児腫瘍科の小川千登世氏ら研究チームによるもの。研究成果は、学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」に7月27日付で掲載された。

近年、がん組織のみならず、正常組織における遺伝子の突然変異の解析も実施されるようになり、がん患者の正常に見える組織にも微量の突然変異を認めることが明らかになってきた。しかし、正常組織における遺伝子変異の検出は極めて難しい。正常細胞は106以上細胞(クローン)からなり、突然変異はそのうちの1種類に発生する。そのため、本物の突然変異か、実験上のエラーかを判別するのが困難だという。

そこで、解析する細胞の種類を少なくしたり、実験上のエラーを少なくしたり方法の開発が行われてきたが、多数の検体を解析するにあたり重要な「DNAでの解析」や「低コスト」という条件を満たす方法は存在しなかった。

今回、研究チームはこれらの問題を解決した新規の遺伝子解析方法としてEcoSeq法を開発。EcoSeqは、DNAの1つ1つの分子を分子バーコードにより区別し、低頻度な変異と実験上のエラーを区別する技術(Duplex Sequencing)をヒト検体にも応用可能に改良したもの。DNAがあれば解析が可能であるため、既存の検体の活用範囲も広がる点も特徴である。また、点突然変異のような低頻度の突然変異も検出可能であるうえ、解析するゲノム領域を制限酵素によって大幅に削減し、数の多いパッセンジャー変異に着目することでこれまでの1/10程度のコストで使用が可能となるという。


(図:EcoSeqの概念の簡略図 画像はリリースより)

さらに研究チームは、小児肉腫患者(N=20人)を対象として、抗がん剤治療を受けた患者(N=10人)と未治療の患者(N=10人)の正常血液細胞に蓄積した点突然変異の解析をEcoSeqを用いて行った。小児がん患者などでは、抗がん剤未使用例と比較して3~6倍の頻度で抗がん剤の影響と考えられる二次性白血病を発症するが、その原因は抗がん剤治療で骨髄細胞に突然変異が生じるためだと推測されていたが、その証明はされていなかったためだ。

検証の結果、抗がん剤治療歴のある患者で血液細胞内の点突然変異がより多く発見された。さらに、抗がん剤治療を受けた小児肉腫患者(N=6人)において、抗がん剤治療前と治療後1年以上経過した時点での正常な血液細胞の解析を行った結果、全患者で抗がん剤治療後により多くの点突然変異を認め、突然変異の蓄積が維持されることが明らかになった。


(図:がん化学療法後の正常に見える血液細胞での突然変異の増加 画像はリリースより)

また、治療後の血液細胞内の変異の特徴は、殺細胞性の抗がん剤による点突然変異の特徴と一致していたという。


(図:点突然変異の特徴 画像はリリースより)

今後、より多くの症例で解析を行い、二次性白血病を発症する場合の遺伝子変異の蓄積量が解明されれば、治療後の採血検査で二次性白血病の発症リスクを予測できると考えられる。また、同程度の治療効果の治療法が2種類以上存在する場合に、遺伝子変異が蓄積しにくい方の治療を選択することや、変異が蓄積しにくい治療薬の開発につながると期待される。さらに、蓄積した突然変異の量と発がんリスクの関連性や突然変異のパターンと喫煙歴や発がん物質への曝露との関連が解明されてきており、血液以外の臓器でも正常細胞における低頻度な遺伝子変異の蓄積量を解析することで、将来の発がんリスクの予測が可能になると期待される。

突然変異とは
突然変異とは、DNA上のA、G、C、Tの文字列が正常な配列から変化すること。そのうちの1文字だけが変化するのを点突然変異という。他に、何十文字、何万文字とまとめて変化する欠失や挿入という遺伝子変異もある。点突然変異の場合、作られるタンパク質の機能が大きく変化する場合があり、発がんに重要な因子と考えられている。遺伝子の欠失ではその遺伝子の機能が低下し、挿入では増強する。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

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