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がんの治療生活を応援するオンラインイベント「一緒に考えよう!”治ってから”ではなく”今から“できること」開催レポート

※※この投稿は会員制コミュニティ「Club CaNoW」の依頼による転載記事です。※※

がん患者さんとご家族のための会員制コミュニティ「Club CaNoW」(https://clubcanow.com/)では、専門家を招いたオンラインイベントを定期的に開催しています。第2回は6月4日、「“病が治ってから”ではなく“今から”できること」がテーマ。出席者は、腫瘍内科医の押川勝太郎先生と、医療人類学者の磯野真穂さん、そして卵巣がん経験者で「がんと働く応援団」代表理事の吉田ゆりさんがモデレーターを務めました。異なる視点でがんを捉えている3人が、患者さんたちのこれからの人生を考えるきっかけになるようなトークを繰り広げました。当日の様子をご紹介します。

プロフィール
押川勝太郎
1995年宮崎大学医学部卒業。1999年国立がん研究センター東病院で修行。2001年宮崎大学医学部第一内科抗がん剤治療部門設立。2012年NPO法人宮崎がん共同勉強会設立。現在は宮崎市の病院でがん診療に従事しつつ、毎週日曜日に「がん相談飲み会」YouTubeライブを開催。

磯野真穂
1999年オレゴン州立大学で運動生理学から心理学に専攻変更。2000~2010年日本とシンガポールで摂食障害の研究。応用人類学修士取得。途中派遣社員を挟み、博士(文学)取得。2019年乳がんを患った哲学者・宮野真生子と往復書簡を交わす。同年に書簡集『急に具合が悪くなる』(晶文社)を上梓。2010~2020年早稲田大学、国際医療福祉大学で教員を務める。

吉田ゆり
2006年千葉大学文学部卒業。複数社で人事を中心とした業務に従事。2018年「厚木 生活と仕事の相談室」を開設、がん発覚。2019年一般社団法人がんと働く応援団を設立し、現在は代表理事。既婚、2児の母。

目次

なぜ変わらない?「がん=死」のイメージ

イベントの会場は、リビングルームのようなアットホームな空間。なごやかな雰囲気の中、3つのトピックに沿って進められました。

最初のトピックは「がんサバイバーとは」。がん経験者を意味する言葉として使われていますが、磯野さんは「たくさんの病気があるのに、なぜがんにだけサバイバーという言葉が使われるのでしょうか?」と問いかけました。

押川先生がその理由の一つとして挙げたのは、世の中でがんの悪いイメージばかりが強調されてしまっているということ。「そのためがんになる前となったあとで、大きく人生が変わってしまう。治ったとしても今後の人生に強い影響を与えてしまうので、『サバイバー』という言葉が確立したのではないでしょうか」と語りました。
「恐怖を感じる人たちを支えるために生まれた言葉なのかもしれませんね」と吉田さん。

2つ目のトピックは「なぜ『がん』はセンセーショナルなのか」。5年生存率など「死」を想起させる言葉やイメージについて、3人が掘り下げて語りました。一方で、「今は治る人も多く、『がん=死』ではなくなっているのに、なぜ未だに死のイメージが付きまとうのか?」という疑問も。
押川先生は「治療がうまくいった人があまり病気をオープンにしたがらないことも理由の一つ」と見解を話しました。がんという病気のイメージが悪すぎて、治療がうまくいってもかわいそうだと思われたくない、就職に不利になるかもしれない、じゃあ言わないでおこうとなってしまうのだとか。
「がんはイメージの病気。そのイメージを変えるために何ができるかが、一つのテーマだと思います」(押川先生)

家族や友人とのコミュニケーション「話せる環境作り」がカギ

3つ目のトピックは「コミュニケーションでQOLは上がるか」。
押川先生は、「患者さんの精神的なつらさや不安には、周囲の人との関係性が大きく影響しています」と語りました。例えば、患者さんと主治医との関係。患者さんの背景や思いが伝わっていないと、主治医は医学的な観点を重視して治療を進めがち。結果的に、治療自体はうまくいっても、患者さんの幸福度につながらない場合もあるそうです。
「人と人の間にはたくさん誤解があるという前提で、互いにその誤解を解く努力をすれば期待はずれな部分をかなり修正できるのではないか」(押川先生)

磯野さんからは「お医者さんを怖がっている患者さんが多いのでは。自分の病気なのに遠慮してこんなことを言ったら嫌われるんじゃないか、ギクシャクするのではといった恐れの中で、質問したくてもできないことがある」という鋭い意見も。

さらに患者さんと家族、あるいは友人とのコミュニケーションについても、さまざまな意見が出されました。
「がんになってない側は傷つけてはいけないと思うし、なった側はびっくりさせちゃいけない、負担に思わせちゃいけないと気を遣う。その結果、会話がすごく硬直してつまらないものになるような気がします」(磯野さん)

卵巣がんを経験した吉田さんも、告知を受けた直後は気持ちの整理がつかず、周囲とのコミュニケーションがギクシャクしたとか。当時を振り返り、「話せる環境をちゃんと作ることが大事。話された側も傷つけたらどうしようとかいろいろ考えないで、『傷つけたらごめんね』と言いながら話を聞くだけでもいいのかなと思います」と話しました。

落ち込んだ時は、文字にして頭の整理を

イベント後半の質疑応答では、視聴者からたくさんの質問が寄せられました。
そのうちの1つ、「がんを告知されたばかりで落ち込み気味。先を考えることができません」という質問には、磯野さんが「この先にどんな未来を想像するのか、文字にして整理してみること」を勧めました。

押川先生も磯野さんの意見に賛同し、どんな順序で整理すればいいか具体的な方法を伝授。「書き出す作業によって頭の空回りを防ぐことができる。前に進むという感覚が重要です」(押川先生)。実際に、吉田さんもこの作業をしたことがあるそうです。「がんを告知された直後から、自分自身を理解するために書いていました。とても良かったですよ、おすすめです」と実感を込めて語りました。

ほかにも質問は続々と寄せられ、「主治医と決めた治療方針が、上司の医師の意見で変更された」「主治医から自分で治療を選ぶように言われて困っている」「がんになった人に良かれと思ってしたことが、迷惑になってしまった。どうサポートすればいいのか」などの悩みに回答しました。

最後に、押川先生が視聴者に向けて「いかにがんに自分の人生を邪魔されないようにするかという発想を持ってほしい」と発信して、イベントは幕を閉じました。がんになった事実は変えられないけれど、今できることを考え、始めてみよう――。そんな力が湧いてきた方も多かったのではないでしょうか。

イベント終了後のアンケートで「本イベントで得られた情報は、実際の治療・がんとの付き合いに役に立ちそうですか?」と尋ねたところ、87.9%が役に立ったと回答されました。
また、視聴者から「がんサバイバーの内面的な問題についての内容がとても良かった。前向きになれました」「がんサバイバーと医師と第3者と言う組み合わせが、とても良いと思いました」などのコメントが寄せられました。

ClubCaNoWでは、今後も定期的に、治療生活を応援するための会員向けイベントを企画しています。また、専門家の先生をお呼びして、治療の助けになるような医療知識をどこよりもわかりやすくお届けする医療セミナーも開催予定です。興味のある方はClub CaNoWに無料会員登録をして、ぜひご参加ください。

次回のオンラインイベントは以下を予定
7月29日(金)セミナー“がん治療医100名が選ぶ今後1~3年の乳がん治療を変える注目トピックス
7月30日(土)撮影会“あなたを輝かせるもの

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