米国立がん研究所(NCI)のFatima Karzai氏らのグループは、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者を対象とするプログラム細胞死受容体リガンド1(PD-L1)標的抗体デュルバルマブ、およびポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬オラパリブ(商品名リムパーザ)の併用療法を実施する第1/2相臨床試験について(NCT02484404)、2017年2月の米国臨床腫瘍学会泌尿器癌シンポジウム(ASCO-GU)で中間解析結果を発表した。
Karzai氏らが発表したのは患者数10人と小規模な予備的データであったが、前立腺がんマーカーである前立腺特異抗原(PSA)値は8人で低下し、うち5人は基準値より50%以上低下した。主要評価項目である無増悪生存(PFS)期間中央値は7.8カ月であった。「特に患者選抜基準を設けていない試験だが、デュルバルマブとオラパリブ(リムパーザ)の併用投与の忍容性は良好」とKarzai氏。現在は登録患者が25人となり、腫瘍バイオプシーと血液サンプルを採取してバイオマーカーの評価を実施しているという。
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PD-L1抗体デュルバルマブとPARP阻害薬オラパリブ(リムパーザ)の併用療法の試験
副次評価項目は全奏効率、安全性、PSA反応、奏効持続期間などで、探索的解析として循環血中の腫瘍細胞レベルと臨床転帰との相関関係を評価している。
登録された10人の年齢中央値は65歳で、9人は活動性状態を示すECOGスコアが1(激しい活動は制限されるが歩行可能で、軽い作業は可能な状態)であった。1人がアンドロゲン合成酵素阻害薬アビラテロン(商品名ザイティガ)、4人はアンドロゲン受容体シグナル阻害薬エンザルタミド(イクスタンジ)の治療歴があり、5人は両方の治療歴があった。さらに、4人は自家細胞免疫療法シプリューセル-T(商品名Provenge)、1人は前立腺がんワクチンPROSTVACを受けた経験があり、1人は両方を経験していた。また、5人はタキソイド系化学療法薬ドセタキセル(商品名タキソテール)を転移巣の治療目的で投与されていた。
デュルバルマブとオラパリブ(リムパーザ)の併用療法の結果、PSA値の低下率は15%から99%であった。うち4人は低下率が94%、79%、73%、59%であった。PSA反応は前治療の数によらず、また、転移が骨のみ、あるいは骨と軟部組織/内臓の患者でも認められた。DNA修復経路の遺伝子変異の有無も関係しなかった。
PARP阻害でDNAを障害するとPD-L1阻害による抗腫瘍効果が補完されるか?
オラパリブ(リムパーザ)は、損傷したDNAを修復する酵素PARPを阻害する分子標的薬で、生殖細胞系BRCA遺伝子変異陽性の遺伝性乳がん卵巣がんを対象に2014年12月、米国食品医薬品局(FDA)により承認された。また2016年2月、BRCA遺伝子、またはATM遺伝子変異陽性の去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の適応でFDAにより画期的治療薬に指定された。
本試験は、PARP阻害薬によりDNA修復を阻止し、DNAの障害を亢進すると、免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍効果が増強するかどうかを確認する意味で実施されている。散発性のmCRPC患者の約30%はDNA修復遺伝子に変異があることが報告されており、PARP阻害薬に対する感受性が高い可能性が示唆されている。イクスタンジの治療に抵抗した前立腺がん患者はPD-L1を発現しているとの報告もあるが、現状では、mCRPC患者のPD-L1を阻害した場合の安全性と有効性を評価したデータは少ない。
記事:川又 総江