※本記事は、基礎研究結果となり、臨床研究結果ではなくエビデンスレベルが低いことに注意してください。
2017年11月8日、医学誌『Molecular Cancer Research』にて肥満がん患者は痩せているがん患者に比べて予後が悪い理由が、アメリカ合衆国・カルフォルニア州にあるロサンゼルス子供病院・内分泌学センター所属のXia Sheng氏らの研究により明らかになった。
本研究は、脂肪細胞を含むヒト急性リンパ性白血病(ALL)細胞株に対して急性リンパ性白血病(ALL)治療薬であるアントラサイクリン系抗がん剤のダウノルビシン(商品名ダウノマイシン)を添加することで、ダウノマイシンの代謝、薬物濃度などを検証している。本研究の結果より得られた知見は下記の3つである。
1.脂肪細胞が存在することでヒト急性リンパ性白血病(ALL)細胞株におけるダウノマイシンの蓄積量が有意に減少する
2.脂肪細胞は化学療法剤を吸収し、白血病細胞株から化学療法剤を除去する。実際、ダウノマイシンを添加した白血病細胞株は生存し、特に脂肪細胞を多く含む白血病細胞株は増殖していた
3.脂肪細胞はダウノマイシンを代謝し、その酵素が化学療法剤の分子構造を変換することで白血病細胞株に対する抗腫瘍効果を低下させた
以上の研究結果を受けて、Xia Sheng氏をはじめとした本研究論文の筆者らは以下のように述べている。”脂肪細胞はダウノマイシンを毒性の低い代謝産物にすることで、急性リンパ性白血病(ALL)細胞株がダウノマイシンによる細胞障害を回避することを可能にしていてます。本研究により得られた知見は、肥満がん患者が痩せているがん患者よりも予後が悪い可能性を説明する根拠として有益でしょう。また、急性リンパ性白血病(ALL)をはじめ他のがん種の治療としてのアントラサイクリン系抗がん剤に対する肥満細胞の影響を決定的にするためには、腫瘍微小環境(TME)における薬物動態試験を実施する必要があります。”
また、アメリカ合衆国・カルフォルニア州にあるUCLA Mattel Children’s Hospital・小児科所属の共同筆者であるSteven Mittelman氏は以下のように述べている。本研究により得られた肥満細胞が化学療法剤を代謝し、不活性化するという知見は画期的であり、非常に驚くべきことでしょう。特に白血病をはじめ骨髓、肥満細胞付近で増殖する他のがん種においては、肥満細胞が化学療法剤の細胞障害を回避し、がん細胞の生存を可能にしていますのでこの知見を知っておくことは非常に重要です”
本研究以前、肥満はがん患者の予後不良因子であることは知られていたが、その理由について科学的根拠を持って説明した理論はこれまで存在しなかった。本研究により肥満細胞の存在がアントラサイクリン系抗がん剤ダウノマイシンの有効性に影響を与えることが示唆されたので、急性リンパ性白血病(ALL)をはじめダウノマイシンを用いた化学療法の有効性を検証する時には本知見が活かされるであろう。