PD-1、またはPD-L1標的の免疫チェックポイント阻害薬によるがん治療の奏効率は、腫瘍遺伝子変異の数や頻度など変異総量と相関することが発表された。米国Johns Hopkins大学Sidney Kimmel総合がんセンターのMark Yarchoan氏らが実施した解析で、累積データを用いて奏効率と腫瘍変異総量(TMB)との関係を表す相関式の確立に成功し、免疫チェックポイント阻害薬が未だ適用されたことのないがん種の奏効率を予測可能であることが示された。2017年12月21日のNew England Journal of Medicineに掲載された。
がん種による奏効率の差55%は腫瘍変異総量で説明可能
Yarchoan氏らは、腫瘍変異総量(TMB)が分かっている固形がんの27種について、免疫チェックポイント阻害薬の奏効率を調査するため、MEDLINEや米国臨床腫瘍学会(ASCO)、米国がん研究会議(AACR)、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)といった各種学会抄録の中から、PD-1、またはPD-L1標的抗体の単独療法で登録患者数10例以上の奏効率が算出された臨床試験を解析対象とし、DNAゲノム領域当たりの体細胞変異数(中央値)をX軸、奏効率をY軸にプロットした。臨床試験で用いられた免疫チェックポイント阻害薬はニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、セミプリマブ(抗PD-1抗体)、およびBMS-936559(抗PD-L1抗体)であった。
その結果、腫瘍変異総量(TMB)と奏効率は有意な相関関係を示し(p<0.001)、相関係数は0.74であった。がん種によって開く奏効率の差は55%で、これは腫瘍変異総量(TMB)が反映された可能性を示すものであった。奏効率は「10.8×Log(X)-0.7(Xは体細胞変異数)」の線形相関式で表すことができた。この相関式により、PD-1、またはPD-L1標的抗体で初めての治療を試みるがん種の奏効率が予測された。例えば、腫瘍変異総量(TMB)中央値47.3の皮膚基底細胞がんの奏効率は40.1%、腫瘍変異総量中央値7.2の肺肉腫様がんの奏効率は20.6%と算出された。毛様細胞性星状細胞腫や小腸がんの奏効率は5%未満と低く予測された。
本解析では、米国Foundation Medicine社が実施した10万人対象の包括的ゲノムプロファイリングデータ(2017年4月19日Genome Medicine誌9巻34号)で公表されている腫瘍変異総量(TMB)中央値を利用したため、奏効率の解析対象とした臨床試験の患者腫瘍組織のTMBではない。その他、多くの異なるファクターが免疫チェックポイント阻害薬の臨床効果を左右することが示唆されている。こうした前提を考慮した上でも、今回検証された奏効率と腫瘍変異総量(TMB)との強力な相関関係は、免疫チェックポイント阻害薬の適応がん種候補の選定に重要な知見となり得る。
※参考文献アブストラクトより転載。縦軸は奏効率、横軸は腫瘍変異総量であり、記事通り腫瘍返送料と奏効率が相関している。
Cutaneous squamous-cell:皮膚扁平上皮細胞がん、Noncolorectal(MMRd):DNAミスマッチ修復機構欠損+(結腸がん以外)、Melanoma:メラノーマ、Merkel-cell:メルケル細胞がん、Anal:肛門がん、Cervical:子宮頸がん、Hepatocellular:肝細胞がん、Mesothelioma:中皮腫、Sarcoma:肉腫、Uveal:陰嚢がん、Pancreatic:膵臓がん、Colorectal (MMRp):DNAミスマッチ修復機構欠損+(結腸がん以外)、Germ-cell:生殖細胞がん、Adrenocortical:副腎がん、Breast:乳がん、Prostate:前立腺がん、Ovarian:卵巣がん、Endometrial:子宮体がん、Head and neck:頭頸部がん、Esophagogastric:食道・胃がん、Small-cell lung:小細胞肺がん、Urothelial:尿路上皮がん、NSCLC (squamous):扁平上皮非小細胞肺がん、NSCLC (nonsquamous):非扁平上皮非小細胞がん、Glioblastoma:膠芽腫、Renal-cell:腎細胞がん