IDH分化症候群とは、急性骨髄性白血病(AML)の治療にIDH阻害剤を用いた時に起こる、時に致死的な合併症です。IDH(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子の変異は、様々ながんで見つかっており、急性骨髄性白血病では、およそ20%の患者さんがIDH1または2遺伝子に変異を持っています。この変異型IDHの働きを抑える薬の開発が急性骨髄性白血病を中心として始まっており、その過程で、このような合併症が起こることが分かってきました。赤血球、白血球、血小板などの血液細胞は、骨髄中の造血幹細胞が増殖、分化することで作られます。急性骨髄性白血病は、造血幹細胞から、成熟した血液細胞に分化する途中の細胞ががん化したものです。IDH遺伝子に変異が起こると、この「造血幹細胞から血液細胞への分化」が抑えられるため、未成熟な細胞が増殖(蓄積)してがん化します。IDH阻害剤で治療すると、抑えられていた「造血幹細胞から血液細胞への分化」が再開するため、未成熟のまま溜まっていたがん細胞が成熟した血液細胞へと分化し、成熟した元がん細胞は、正常な血液細胞と同様に数日で寿命を迎え死んでいきます。このように、IDH阻害剤は、細胞分化を再開させることで効果を表しますが、同時に、これまで蓄積していたがん細胞が一度に分化、成熟するため、大量の成熟細胞が作られ全身に様々な合併症を引き起こします。これをIDH分化症候群と呼び、症状としては、「白血球(好中球)の増加」、「原因不明の発熱」、「呼吸困難」、「低酸素」、「肺浸潤」、「胸水」、「心膜液」、「体重増加」、「発疹」などがあります。急性骨髄性白血病の一つである「急性前骨髄球性白血病(APL)」の治療でも同様の合併症が起こり、APL分化症候群と呼ばれています。
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