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GIST(消化管間質腫瘍)の手術、抗がん剤等の治療について

目次

治療方針

限局性GISTの手術と補助療法

限局性のGISTの標準治療は手術で、切除することでしか根治の可能性はありません。小さい腫瘍は腹腔鏡手術も可能ですが、原則は開腹手術で切除します。完全切除により半数以上の患者さんは根治しています。

手術の安全性に特に懸念がない場合は、最初の治療が手術になります。

懸念がある場合、具体的には、腫瘍径10cm以上の胃GISTや、切除時に接触する他の臓器に影響をおよぼすことが予想される、あるいは腫瘍破裂の恐れがある場合などは、イマチニブによる6カ月、または9カ月の術前補助療法で腫瘍をある程度小さくしてから切除し、再発予防目的の術後補助療法としてもイマチニブの服用を推奨しています。

術後は、リスク分類に基づき治療方針が決まります。リスク分類は複数ありますが、日本では主に「Modified NIH」を用い、高リスクまたは腫瘍破裂のGISTの場合はイマチニブによる術後補助療法を行います。

中・低リスクのGISTを完全切除した後は、通常は定期的なCT検査による経過観察となります。また、手術時に切除が不完全だったり、転移が発見された場合もイマチニブによる薬物療法を行います。

切除不能・再発・転移GISTの治療

再発、または転移があるGISTの標準治療は薬物療法です。診断時に転移が確認され切除不能と判断された場合、手術から術後補助療法の間に再発や転移が確認された場合、または最初の手術での不完全切除のGISTが薬物治療の対象に含まれます。なお、GIST手術後の最初の再発はほとんどが腹腔内(肝臓または腹膜)です。

薬物療法の1次治療薬は、KITチロシンキナーゼ阻害活性を有するイマチニブ(商品名グリベック錠)で、成人は1日400mgまでの内服が保険適用されています。定期的なCTまたはPET検査による効果判定で、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、または病勢安定SD)の効果が得られた場合は、そのまま内服を継続します。

腫瘍が増大し病勢進行(PD)した場合、そのGISTはイマチニブ耐性と判定され、2次治療薬のスニチニブ(商品名スーテントカプセル)に切り替えます。スニチニブでも効果なしと判定された場合は3次治療薬のレゴラフェニブ(商品名スチバーガ錠)に切り替えます。

いずれにしても耐性の診断は慎重に行い、切り替えのタイミングを決定する十分な根拠が提示される必要があります。さらに、レゴラフェニブでも効果が得られない場合は、効果ありの経験がある薬剤に戻って再治療を試みる、新薬の臨床試験に参加する、積極的治療をせずに経過観察、あるいは緩和ケアなど、全身状態や希望を考慮しつつ選択することになります。

薬物治療の有用性を享受するための留意点

薬物治療では、腫瘍が小さくなることはもちろん望ましいのですが、基本的に、大きくさせないことを目的としています。状態が許す限り服用を継続して血中濃度を維持し、腫瘍量を少なく保つことで長期間にわたり効果が続くと考えられています。

薬物治療には必ず有害事象が伴います。保険適用されているGISTの治療薬はいずれも内服薬ですので、効果を過不足なく発揮させるためには、有害事象が許す限り休薬しない、保険適用量の上限量を服用すること、分割してでも規定の1日用量を服用することが重要です。

また、有害事象が発現した際の対処法や、発現を予測しての予防法を知っておくことも、休薬せずに服用を継続することにつながります。イマチニブで最も多い有害事象である浮腫(むくみ)は、食塩摂取量が影響をおよぼすことから、日々の食事での減塩が必要です。

浮腫の重症度に応じて利尿剤が処方されることもありますが、まずは自身で減塩を意識したコントロールを心がけましょう。皮疹が発現することもありますが、軽度の場合は抗ヒスタミン薬やステロイドの外用薬でコントロールすることができます。

悪心や嘔吐、下痢といった消化器の有害事象に対して自身が対処できることは、例えば内服時の水を多めにする、内服のタイミングを変えてみるなど、工夫することで軽減することも可能です。スニチニブやレゴラフェニブでは、皮膚変色や手足皮膚症候群が発現することが多いため、あらかじめ手足を保護するなど、早期からの予防的処置で休薬を回避できる可能性があります。

また、GISTとは別の疾患に対する薬剤を服用している場合は、多剤併用による薬物相互作用によって有害事象が悪化する場合もありますので、担当医に相談し、情報をあらかじめ確認しておくと安心です。GISTの薬物療法に限らず、薬剤の有害事象は服用開始後早期に発現するパターンが多く、重症度も時間の経過とともに低下していくのが一般的です。

しかし、グレード2以上に重症化して有害事象が発現した場合は必ず担当医に報告し、受診を経て休薬や中断など、対処法を決定しましょう。

各薬物(抗がん剤)治療の特徴

イマチニブが承認された2005年以降、2008年にスニチニブ、2013年にはレゴラフェニブと、GISTを対象とする分子標的薬が相次いで保険適用で使えるようになりました。作用機序が少しずつ異なるこれらの薬剤を有効性で比較することはできず、承認取得の順番を考慮し、特性がそれぞれ違うことを認識すべきです。

幹細胞因子受容体KITのチロシンキナーゼを阻害するイマチニブの治療成績は、奏効率は50%から70%、持続的な病勢安定を含めた病勢コントロール率は85%から90%とされています。

術後補助療法としての効果の指標である無再発生存期間は、術後補助療法を行わないプラセボ群と比べ有意に延長し、再発リスクをおよそ60%低下させることが報告されています。

KITの他、PDGFRAや血管増殖因子受容体(VEGFR)など複数のチロシンキナーゼを阻害するマルチキナーゼ阻害薬のスニチニブでは、イマチニブが効かなくなった後、効果が得られるのはおよそ40%、腫瘍が小さくなるのはおよそ7%とされています。イマチニブが耐性、または不耐容と判定された患者を対象とする第3相試験では、薬物治療を行わないプラセボ群と比べ増悪、または死亡のリスクを70%近く低下させることが報告されています。

レゴラフェニブは腫瘍形成に関わるKIT、BRAFなどを阻害するのに加え、遺伝子変異のあるKITにも阻害活性を発揮します。イマチニブとスニチニブによる治療後に増悪した切除不能、または転移性のGIST患者を対象とする第3相試験では、薬物治療を行わないプラセボ群と比べ増悪、または死亡のリスクを70%以上低下させることが報告されています。

薬物治療で効果がなかった時の治験・臨床研究参加の意義

保険適用の薬物治療が効かなくなった後の積極的治療法は、臨床試験への参加が最後の選択肢です。新薬開発のための第1相試験に参加することで、以前に効果があった標準治療薬を再投与するのと同程度の予後改善効果があることが報告されています。

特に患者数の少ない希少がんの治療薬の開発は困難を極め、長い時間がかかります。臨床研究まで開発が進む薬剤は多数ありますが、実際に第3相試験まで開発が進み、承認申請までたどり着くのはほんの一握りです。

新薬創出を実現するためには、研究開発者や医療者のみならず、患者さんの理解を得て臨床試験を実施し、データを積み上げていく必要があります。

現在、日本で行われているGISTを予定適応症とする開発薬はTAS-116で、第2相試験が行われています。これまでとは異なる熱ショック蛋白9(HSP9)という分子に対する標的薬です。

イマチニブ、スニチニブ、そしてレゴラフェニブの治療が効かなかった切除不能の転移性GIST患者40例に投与したところ、完全奏効(CR)や部分奏効(PR)は認められませんでしたが、34例の6カ月以上にわたり大きくならずに安定し、病勢コントロール率は85%に達しました。投与開始後3カ月間の無増悪生存割合は73.4%でした。

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