7月19日から7月21日、第16回日本臨床腫瘍学会学術集会(会長 九州大学 胸部疾患研究施設教授 中西 洋一氏)が開催され、7,000名を超える医師、メディカルスタッフ、そして患者関係者等が参加し、兵庫県神戸市にて開催された。2日目となる7月20日、メディカルスタッフプログラムとして「抗がん剤調剤の自動化~現状と展望~」というテーマのシンポジウムが開催された。
ゲノム医療が国の施策として推し進められており、がん治療の新薬は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など、従来の化学療法に用いられる殺細胞性薬とは違う作用機序の薬剤が多く開発されている。
従来の抗がん剤は、がん細胞だけではなく正常の細胞も攻撃する薬剤であり、そのため多くの副作用が発現する一方、分子標的薬はがん細胞だけを選択的に攻撃する機序があり、副作用も少ないと思われてきたが、特有の副作用が現れることがわかっている。勿論、従来の抗がん剤は現在も多くの標準治療には欠かせない薬剤であり、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などと併用することもある。
化学療法が行われるようになって50年以上が経過しているが、その当時と全く同じ抗がん剤が今も頻繁に使用されることはまれではなく、近年、これらの抗がん剤は取り使う医療従事者にも影響を及ぼすことが、所謂、「抗がん剤曝露」として問題提起されている。患者には治療に必要な抗がん剤が医療従事者や家族などには健康被害を引き起こす可能性がある。
抗がん剤による治療は、適切な抗がん剤を適切な量・方法で患者に投与する。必要量を適切な輸液に混合し、その後点滴等で体内に注入することが一般的な方法である。この一連の操作の中で、抗がん剤が漏れることなどで医療従事者をも汚染し、不妊や流産のリスクが上がる。これらの抗がん剤の危険に対する施策を「抗がん剤曝露対策」という。
抗がん剤曝露に対しては、日本臨床腫瘍薬学会等の薬剤師中心の学会にて活発な議論がなされているが、本セッションは「抗がん剤暴露」への対策の一つとして、抗がん剤を輸液に混合する操作をロボットにさせるという対策がある。
このセッションでは、三重大学、名古屋市立大学、山形大学、九州大学で4種類のロボットについて、それぞれを使用している施設からその性能、抗がん剤曝露対策効果、使用感などの報告があった。
九州大学で導入しているDARWIN-Chemo(ダーウィン・ケモ)。同大学が安川電機社および日科ミクロン社と共同開発された抗がん剤調整支援ロボットであり、2014年3月から導入している。
ダーウィン・ケモは、『安全性の向上(抗がん剤曝露防止)』『正確性確保(重量監査による担保)』『効率性向上(ストックトレイ方式による長時間自動運転)』『付加価値向上(薬剤師をより付加価値の高い業務へのシフト)』をコンセプトに開発された。
演者である、九州大学病院薬剤部の入佐俊弘氏は「現在、調剤誤差は約3%未満となり薬剤師の誤差5%程度と比べて遜色ないレベルとなっている一方、調整時間は薬剤師の調整時間の数倍かかっていることが課題となる」と語り、効率性向上には試行錯誤が必要である。
その他、三重大学のAPOTECAChemo、名古屋市立大のCytoCare、山形大のChemoRoと、それぞれの特徴がある抗がん剤調整支援ロボットが紹介され、これから取り入れようとしている施設、曝露対策の方法を模索している多くの施設から関心の高いセッションとなった。
(文:高橋 さくら、可知 健太)