・HER2陽性浸潤性残存乳がん患者に対する術後化学療法に対するカドサイラの有効性を検証
・1486人が参加したハーセプチンとの比較試験結果
・カドサイラは再発リスクを50%減少した
2019年2月14日、医学誌『The New England Journal of Medicine』にてHER2陽性浸潤性残存乳がん患者に対する術後化学療法としての抗HER2抗体チューブリン重合阻害薬複合体であるトラスツズマブ エムタンシン(商品名カドサイラ;以下カドサイラ)単剤療法の有効性、安全性を比較検証した第III相のKATHERINE試験(NCT01772472)の結果がGerman Breast Group (GBG) Research Institute・Gunter von Minckwitz氏らにより公表された。
本試験は、術前化学療法として抗HER2抗体薬であるトラスツズマブ(商品名ハーセプチン;以下ハーセプチン)±アンタキサン系抗がん剤併用療法後の術後に乳房または腋窩に残存する浸潤性病変が確認されたHER2陽性早期乳がん患者(N=1486人)に対して術後化学療法としてカドサイラ単剤療法を投与する群(N=743人)、またはハーセプチン単剤療法を投与する群(N=743人)に無作為に振り分け、主要評価項目として同側浸潤性乳房腫瘍の再発、同側浸潤性乳がんの局所再発、対側浸潤性乳がん、遠隔再発、全死因死亡イベントがないとして定義された浸潤性病変のない生存率(DFS)を比較検証した非盲検下第III相試験である。
本試験が実施された背景として、術前化学療法後の術後に乳房または腋窩に残存する浸潤性病変が確認されたHER2陽性早期乳がん患者の予後は、残存病変のない患者に比べて不良である。また、2つの第III相試験において、ハーセプチン治療歴のあるHER2陽性進行性乳がん患者に対するカドサイラ療法は、カペシタビン+ラパチニブ併用療法、主治医選択の化学療法に比べて治療成績が有効であると示されている。以上の背景より、HER2陽性浸潤性残存乳がん患者に対するカドサイラ療法の有用性を検証する目的で本試験が実施された。
本試験に登録された患者背景は下記の通りである。年齢中央値はカドサイラ群49歳(24-79歳)に対してハーセプチン群49歳(23-80歳)。人種はカドサイラ群で白人74.2%(N=551人)、アジア人8.7%(N=65人)、黒人2.8%(N=21人)に対してハーセプチン群で白人71.5%(N=531人)、アジア人8.6%(N=64人)、黒人2.6%(N=19人)。
ホルモン受容体ステータスはカドサイラ群でエストロゲン受容体陰性/プロゲステロン受容体陰性または不明が28.1%(N=209人)、エストロゲン受容体陽性/プロゲステロン受容体陽性が71.9%(N=534人)に対してハーセプチン群でエストロゲン受容体陰性/プロゲステロン受容体陰性または不明が27.3%(N=203人)、エストロゲン受容体陽性/プロゲステロン受容体陽性が72.7%(N=540人)。
術前化学療法の種類はカドサイラ群でハーセプチン単剤療法80.8%(N=600人)、ハーセプチン+ペルツズマブ併用療法17.9%(N=133人)、ハーセプチン+他のHER2抗体薬併用療法1.3%(N=10人)に対してハーセプチン群でハーセプチン単剤療法80.2%(N=596人)、ハーセプチン+ペルツズマブ併用療法18.7%(N=139人)、ハーセプチン+他のHER2抗体薬併用療法1.1%(N=8人)。以上のように両群間における患者背景に大きな偏りはなかった。
中間解析ではカドサイラ群で91件、ハーセプチン群では165件の浸潤性病変または死亡イベントが発症し、その時点における結果は下記の通りである。主要評価項目である3年浸潤性病変のない生存率(DFS)はカドサイラ群88.3%に対してハーセプチン群77.0%、カドサイラ群で浸潤性乳がんの再発リスクを統計学有意に50%減少した(ハザード比:0.50,95%信頼区間 0.39~0.64,P<0.001)。
また、初回の浸潤性病変イベントにおいて遠隔再発はカドサイラ群10.5%に対してハーセプチン群15.9%、カドサイラ群で遠隔再発率が低率であった(ハザード比:0.60,95%信頼区間 0.45~0.79)。
一方の安全性として、グレード3以上の治療関連有害事象(TRAE)発症率はカドサイラ群25.7%に対してハーセプチン群15.4%であった。なお、最も多くの患者で確認されたグレード3以上の治療関連有害事象(TRAE)はカドサイラ群で血小板数減少5.7%、高血圧2.0%、ハーセプチン群で高血圧1.2%、放射線関連皮膚障害1.0%であった。
また、治療関連有害事象(TRAE)による治療中止率はカドサイラ群18.0%に対してハーセプチン群2.1%であった。なお、最も多くの患者で確認された治療中止に至った治療関連有害事象(TRAE)はカドサイラ群で血小板数減少4.2%、血清ビリルビン値上昇2.6%、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼレベル上昇1.6%、アラニンアミノトランスフェラーゼレベル上昇1.5%、末梢感覚神経障害1.5%、駆出率減少1.2%であった。
以上の第III相試験の結果よりGerman Breast Group (GBG) Research Institute・Gunter von Minckwitz氏らは以下のように結論を述べている。”HER2陽性浸潤性残存乳がん患者に対する術後化学療法としてのカドサイラ単剤療法は、ハーセプチン単剤療法に比べて浸潤性乳がんの再発または死亡のリスク(DFS)を50%統計学有意に減少させました。”