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【乳がん体験談】がんに対する社会の認識を変えたい

岡崎裕子さん(42歳)
陶芸家。2児の母親。乳がんサバイバー。
岡崎裕子さん オフィシャルページ http://yukookazaki.com/

2歳、5歳の2人のお子さんの母として育児に邁進し、横須賀のアトリエで陶芸家として作品を生み出しつつ、メディアやCMにも出演するなど、マルチに活躍していた40歳で乳がんに罹患した岡崎さん。臨床試験のために受けた遺伝子検査でHBOC(Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome:遺伝性乳がん卵巣がん症候群 *1)であることがわかりました。2019年2月3日に都内で開催されたイベント「CancerX Summit 2019」で初めてHBOC乳がんであることを公表された岡崎さんに、オンコロ メディカル・プランニング・マネジャーの川上がお話を伺いました。

*1 HBOCについて詳細は、特定非営利活動法人日本HBOCコンソーシアムの「HBOCとは」をご参照ください。

目次

診療ガイドライン解説で乳がんを学ぶ

川上:乳がんは、どのようにしてわかったのですか?

岡崎:2017年の春頃、左胸にしこりがあることに気づいたのですが、ちょうど、下の子(当時2歳)の断乳を進めていたこともあり、そのために乳腺が張っているのかな、と思いました。ところが小さくならないため、乳腺科も併設されていた近くの産婦人科クリニックを受診しました。エコーで診ていただいた際に、すでに乳がんの疑いが濃厚で、乳腺外科の先生が来る曜日に針生検をしましたが、その時点でがんの可能性が極めて高いのでどの病院に紹介状を書いて欲しいか考えてくるように言われました。

幸い親戚に医療関係者がいたので、すぐに電話で相談したところ、乳がん患者さんのための乳癌診療ガイドライン(2016年版)を読むよう助言されました。周囲と相談の上、がん研有明病院を受診することに決めました。

川上:がんの疑いから、受診、診断まで、多くの方が一番不安に思う時期であり、溢れる情報に迷子になってしまう時期でもありますが、最初に「患者さんのためのガイドラインの解説」を手にすることができたのは良かったですね。

岡崎:はい、乳がんについて、いろいろと勉強しました。最初のクリニックで乳がんは進行度よりもサブタイプのほうが予後に影響すると言われました。
詳細な検査の結果、診断は乳がんステージⅡb、でした。実は、それ以前に人間ドックで肝臓にエコーで血管腫が見つかったことがあり、自分では、もしかしたらその影は乳がんの肝臓への転移で、遠隔転移があるならステージⅣではないか?という想像もしていたため、ステージⅡbと言われた時は、あまりショックはありませんでした。

それよりも、病理検査の結果が「トリプルネガティブ(以下、トリネガ)」であることを告げられた時のほうがショックでしたが、先生から「トリネガでも元気に過ごしておられる方がたくさんいますよ」との言葉を聞き、不安が和らぎました。

*トリプルネガティブ
乳がんのサブタイプの1つで、がんの発症と増殖が、3つの要素、女性ホルモン2種
(エストロゲンとプロゲステロン)とHER2タンパクと関係しないタイプの乳がんのこと

治療開始後すぐに鈴木美穂さんと出会う

川上:トリネガということで、治療は、化学療法と手術、放射線治療を勧められたのかと思いますが、治療方法の選択や治療に入るにあたって、不安や迷いはありましたか?

岡崎:私は診察の前に、わからないこと・先生に聞きたいことについて、聞き忘れのないようメモをして臨んでいました。先生は、どんな質問にも丁寧に対応してくれ、治療内容に関しては、ほぼ不安なく向き合うことができたと思います。ただ、化学療法は未経験でしたから、育児や日常生活、仕事にどのような影響があるのかが想像できず、漠然とした不安はありました。

川上:治療に入る前に、患者会などを通して、がん体験者の方との交流はありましたか?

岡崎:それはなかったのですが、化学療法を1クール実施したあと、共通の友人が乳がん経験者でマギーズ東京共同代表の鈴木美穂さんを紹介してくれました。乳がんと向き合ってきた先輩として、美穂さんがさまざまなことにチャレンジしている姿は、先が見えない不安を抱えていた私にとって、先を照らす明るい光となってくれました。

臨床試験とHBOC

川上:また、良いタイミングで、良い方に会うことができましたね。

岡崎:はい。私はとても恵まれていると思います。実は、私の小学校時代からの親友が、TBSの医療ジャーナリストとして、HBOCのドキュメンタリーを追っていたんです。彼女から、乳がんやHBOCについて、色々教えてもらいました。私の乳がんの罹患年齢や、身内にも乳がん、卵巣がんの経験者がいることから、がん研の主治医も、遺伝性であることを疑っていましたし、自分でもそうではないか、との考えはありました。

治療方針に関わると聞いていたので、自費負担(検査の金額は約25万円)で遺伝子検査を受けようと思っていました。ところが、ちょうど良いタイミングで、主治医からHBOCの方を対象とした臨床試験の説明があり、その試験に参加する意思のある患者であれば、この検査が無料で受けられると知り、検査を受けて、HBOCであることがわかりした。結果的に、化学療法が奏効して、がんがほぼ消失したので、臨床試験に入ることはありませんでした。

*たくさんの作品が生み出されているアトリエでお話を伺いました

がんを公表しなかった理由

川上:岡崎さんは、先日の「CancerX Summit 2019」で初めて乳がんを公表された、とのことでしたが、当初は周囲には公表されていなかったのですか?

岡崎:乳がん告知を受けたとき、仕事の面ではちょうど、CMの契約をしたばかりでしたが、仕事にどのような影響があるのかまだわかりませんでしたので、敢えて公表する必要はないと考えました。

そのほか、伝えておく必要がある、ごく一部の方にだけ、お話しました。例えば治療スケジュールや副作用などで、子どもたちを預かってもらう友人や、子どもの様子も注意して観察してほしかったので、保育園と幼稚園の先生にはお話しました。

社会において、がんは、まだ死と直結するイメージがあると思うので、子どもたちが「お母さんががんになって、かわいそうに」と思われるのを避けたくて、それ以外の方には打ち明けることなく治療を終えました。ウィッグで過ごしていたときに、「もしかしたら」と気づいた方がいたかもしれませんが、特に指摘されることもなく、過ごすことができたように思います。

川上:がんが一般社会でもっと身近なものとなり、正しく理解されて、構えずナチュラルに話せるようになる時が来るといいですね。お子さんたちには、お話されたのですか?

岡崎:はい、夫と一緒に話をしました。子どもたちを必要以上に不安にさせたくなかったので、できるだけ隠し事なく過ごすようにしていました。実際、副作用も想像していたよりも軽かったように思いますし、園の送迎もお弁当作りも、ほとんどこなすことができました。子どもたちも、がんに対する先入観がないからか、意外とあっけらかんとしていて、ウィッグで一緒に遊んだりもしました(笑)。一度だけ、副作用が辛くて1日寝込んでしまい、心配する上の子と一緒に泣いたことがあったかな・・。

転院、そして乳がん・HBOCを公表

川上:さきほど、化学療法がとても奏効した、と伺いましたが、化学療法の後の治療について教えてください。

岡崎:トリネガなのでホルモン療法はなく、リンパ節転移が術前の見立てより術後の病理結果で数が少なかったのでがん研有明病院の先生からは、術後放射線治療は不要だろう、と言われました。しかし最初は放射線もすると言われていたので、本当に必要ないのか納得したくて、セカンドオピニオンを取ることにしました。

HBOCであることも考えて、聖路加国際病院を受診したところ、がん研有明病院の医師と同意見だったので、放射線治療は行わないことにしました。ただ、聖路加国際病院では、HBOCである私に対して、予防のために、乳がんではなかった右側の乳腺摘出と同時再建、卵巣摘出を勧められ、同じタイミングで全摘したままの左乳房再建もしましょう、と言っていただき転院しました。

がん研有明病院の主治医が、とても気持ちよく送り出してくださって感謝しています。2018年7月に、これらの手術を一度に受け、やっと一段落した頃、構想段階から関わっていたCancerX Summit 2019の準備も佳境に入っており、これを機に公表することを決めました。

川上:公表することでの葛藤はありませんでしたか?

岡崎:「乳がん」だけでなくHBOCについても公表するにあたって、子ども達への影響を考えずにはいられませんでした。HBOCであることがわかった当初は、自分ががんに罹患したことも公表するつもりはありませんでした。しかし、聖路加国際病院の医師に「お子さんたちが成人する頃には、この病気は怖いものではなくなっているでしょう」とおっしゃっていただき考えが変わってきました。

医療の進歩はめざましく、その恩恵を私も受けました。仮に子どもが1/2の確率で遺伝子変異を引き継いでいたとしても、乳がんは近い将来はもうこわい病ではなくなっているのではないかと思えるようになりました。それからは子どもたちに対して私ができることは、予防的乳腺・卵巣切除を含めて、自分ができる最善かつ全ての治療に前向きな気持ちで取り組み、元気に生きることだと思い直しました。また、がんに対する社会の認識が変わって欲しいと思っているのに、自分が隠しているのは矛盾していると思い至り、公表することにしました。

川上:CancerX Summit 2019が掲げるスローガンの一部、「がんを知り、立場を超えて、がんと言われても動揺しない社会へ」は、まさに岡崎さんの思いと一致していますね。

岡崎:とはいえ、公表する気持ちになるまでには、本当に悩みました。さまざまな立場の友人たちに相談し、支えてもらったことに心から感謝しています。また、家族に関わることなので、夫ともよく話しました。すべてを受け入れてくれて、共にがんと向き合ってくれた夫にも、感謝しています。

オンコロと読者にメッセージ

私は結果的に臨床試験には入れませんでしたが、その臨床試験の結果もあり、その後、そのお薬(オラパリブ)はHBOC乳がんに適応承認となりました。一歩一歩科学が進むための臨床試験の情報発信はとても重要なことだと思います。

今回、私は、乳がんサバイバーとして初めて取材を受けました。私の経験や、がんを公表したことが、少しでも誰かのお役に立てば嬉しく思います。

(文:川上 祥子)

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