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【メルマガコラム】檸檬 [Vol.102]

オンコロの中島です。

私が乳がん治療中に、印象に残っているエピソードをお話したいと思います。

化学抗がん剤治療中は、個人によって副作用の出方は違いますが、なるべくQOL(Quality Of Life:生活の質)を崩さず、通常の生活を送ることが大切といわれています。自分の経験からすれば、アピアランスの点で外出は億劫なものになっていました。それでも治療のために通院はせねばならず、必要な買い物は治療後の帰宅時に済ませることが多かったように覚えています。

副作用はそれほど強くあらわれなかったと感じていますが、脱毛は避けられない問題でした。抗がん剤の副作用として頭髪が抜けるイメージが大きいと思いますが、治療が進むにつれて睫毛やまゆげも失うことになります。

味覚の変化も副作用のひとつです。
自分の場合は、10円玉を口の中に入れているような、鉛の味を喉の奥に感じる時期がありました。

その日も通院の帰り道、地元のショッピングモールの大型スーパーマーケットに立ち寄り、食欲が落ちてしまった中でも口にできそうな食品を探していた時に、今でも忘れられない
シーンがあります。

その若い女性は、頭に帽子を目深にかぶり、近くにお住まいだったのでしょうか、ジャージ姿の軽装でレジに並んでいました。私たちは目が合った2秒間ほどで、お互いがお互いを理解したように強く惹きつけられました。存在してあたりまえな、普通だったら気にもかけない人のパーツ、ここで指す眉毛やまつ毛がなくなると、不思議なものでみな同じような顔つき、表情になるのです。彼女も私も同じ表情をしていました。

心の中で「あなたも、治療中なんだね、がんばってるね」と心の中で話しかけた2秒間でした。その手に握りしめられた3つの檸檬たちは、きっと彼女がその時に口にしたかった味であり、きっと彼女の味覚障害を和らげてくれた味に違いありません。

今でもそのスーパーで買い物をしていると、彼女のことをふと思い出します。

でも、もうお互い気がつくことはないでしょう。あの時の檸檬が、彼女に栄養と元気を与え、眉毛やまつげを取り戻しているはずです。普通の生活に戻ったんだ、と。

現在治療中の方たちも、いまできること、いま食べたいもの、いま見たいもの、ほんの些細な事が、きっと明日につながる糧となり、あの時の彼女が手にした檸檬のように、元気と希望を与えてくれる、そう願っています。

中島 香織

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