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がん罹患し復職した、とある子育てがんサバイバーのお金の話

ご自身やご家族ががんに罹患してしまった場合、「治療にいくらかかるのか」「公的保障で使えるものは何か」など、さまざまな情報が必要になってきます。実際、そういったお金や保障の情報は以前に比べてだいぶ集まるようになってきており、中には、情報ポータルのようにリスト化されているサイトもあるようです。

一方で、一旦治療が終わった後のお金の話は、開示するには抵抗がある方も多く、まだまだオープンな情報が少ないようです。今回は、「復職した後のお金の話」をテーマに、ご自身もがんサバイバーである一般社団法人がんチャレンジャー代表の花木裕介さん(41)より、お話を伺いました。

目次

復職後、支出が収入を上回る月が続く……

私は、2017年12月、38歳のとき、中咽頭がんステージⅣaを宣告されました。子どもは当時7歳と4歳の息子が二人。勤務先での立場は係長職でした。

約9カ月の治療・療養を経て、なんとか病巣は画像上消滅し、2018年9月に復職を果たしました。治療費や付帯費用、その他差額ベッド代などは、生命保険のがん診断一時金(オプション)により賄うことができ、なんとか赤字にはならずに済みました。

しかし、復職後の私に、次なる不安が押し寄せてきました。

まず、9カ月間休職をしていたので、休職期間がまるまる賞与の対象外となり、夏のボーナスはもちろん、冬のボーナスも半分しかもらえませんでした。さらに、復職後半年間は、体調優先ということで、残業をほとんどすることができず、残業代が出ないことから、罹患前に比べて給料が3割近く減ってしまいました。

一方で、3カ月に一回は経過観察のため、通院による検査と結果を聞きにいかなければならず、月々にすると平均1~2万円の出費がかさみます。

こうした状況につき、我が家の家計は、支出が収入を上回る月が続きました。

「このままではまずい。再発・転移のリスクに備えてこれ以上貯金を切り崩すわけにはいかない」と、その後、上司とも相談しながら少しずつ業務量と残業を増やしていきました。

がん保険に入っていなかった私は、今後、再発・転移があっても、加入している医療保険のわずかな保障しか受けられないため、万一の備えを自分でしておく必要があるのです。

最近のがん保険は、初発のみならず、再発・転移であっても、一定の間隔が空いていれば複数回一時金が受け取れるタイプのものも増えているようです。今さらですが、病気に罹患する前に保険の見直しをしなかった自分に、後悔の念を抱かずにはいられません。

感謝の気持ちを抱きつつも、自ら声をあげていく

東京都福祉保健局が2014年に行った*「がん患者の就労等に関する実態調査」によると、がんになったあと「個人の収入が減った」と回答した人は56.8%、「世帯の収入が減った」と回答した人は45.0%だったそうです。

また、がん罹患後、58.3%の人が家計を維持するために何らかの取り組みを行っていたそうで、具体的な内容は、「貯蓄を切り崩した」が50.4%と最も多く、次いで「生活水準を落とした」(23.5%)であったそうです。

*参照
がん患者による収入への影響の有無(東京都福祉保健局2014年「がん患者の就労等に関する実態調査」)

こうしたデータからも、私の状況が、決して特別なことではないことがお分かりいただけるかと思います。

現在私は41歳です。健康体であれば、「管理職に昇進して給料を上げよう」という目標も持っていたかもしれません。しかし、あいにく体にハンデを抱えている身では、現状維持が精いっぱいな部分があります。

それでも再発・転移には備えなければいけませんし、子どもたちの教育資金も確保しなければならない。

そんな背景から、復職から半年後に、勤務先に掛け合って、副業や兼業の許可を取り付けました。また、さらに半年後には、一般社団法人がんチャレンジャーも立ち上げました。

「自分と同じように心身ともに辛い思いをしているがん罹患者を支えたい」という想いと、「これからの家族の生活に向けて、少しでも蓄えを維持しておきたい」という想いを、行動に移しました。

まだ具体的な成果はあまり出てはいませんが、「可能性が広がった」という意味で、幾分気持ちにゆとりが生まれました。

もちろん、勤務先から許可をもらうことができた私は、他のサバイバーの方に比べれば恵まれているほうかもしれません。しかし、就業規則上は、副業・兼業も法人立ち上げも原則禁止です。それでも、自身の窮状を粘り強く勤務先に伝え続け、その結果として、状況を理解してもらうことができました。

「雇ってもらっているだけでも有り難い」という感謝の気持ちは常に抱きつつも、これからもこの環境で貢献していくため、迷惑をかけない範囲で自ら声をあげていく。そんな姿勢の大切さも実感しています。

がん罹患経験を、武器として捉え、活躍していける世の中へ

実は復職後、とある専門家にお金の相談をしたことがあります。「使える制度は使い切った。新しく保険にも入れない。でも、子どもたちは育てていかないといけない。何か良い方法はないでしょうか」と。

そのとき、返ってきた言葉に私はショックを受けました。「制度も全部使い切ったなら、もう仕方ないですよね。がんになった現実に合わせていくしかないんじゃないですか」とおっしゃるのです。

もちろん、復職後は、罹患前に比べて一層の節約に努めていました。レジャーも外食も半分以下に減らしていました。でも、自分だけの我慢ならいざ知らず、家族にはできるだけこれまで通りの生活を送らせてあげたい。これは果たして、ぜいたくな願いなのでしょうか。がん罹患者家族は、そういった当たり前の願いすら持つことが許されないのでしょうか。

もし今現在、がん罹患などの病気にかかっていない方は、ぜひこういう未来に備えて、保険の見直しや健康への意識を高めることなどに取り組んでいただきたいと思います。

また、私と同じように、治療後苦労をしている方には、ぜひ無理しない範囲で諦めずに行動を起こしていただきたいです。

そしていつか、すべてのがん罹患者が、その経験をハンデとしてではなく、新たなキャリアとして、武器として、社会でさらなる活躍ができる日が来ることを願いつつ、私も行動をし続けたいと思っています。

花木 裕介氏 プロフィール:

一般社団法人がんチャレンジャー 代表理事/
がん罹患者に関わる方専門の産業カウンセラー/
厚生労働省委託事業「がん対策推進企業アクション」におけるがんサバイバー認定講師
2017年12月、38歳のとき、中咽頭がん告知を受け、標準治療抗がん剤、放射線)を開始。翌8月に病巣が画像上消滅し、9月より復職。
がん判明後より、ブログ『38歳2児の父、まさかの中咽頭がんステージ4体験記!~がんチャレンジャーとしての日々~』を開始し、現在も執筆中。
2019年2月、「青臭さのすすめ 〜未来の息子たちへの贈り物〜(はるかぜ書房)」を出版。
周囲の寄り添いを通じて、がんという病気に挑戦したり、がんに罹患しながらも人生に挑戦したりする人を後押しするべく活動している。

花木裕介氏 体験談:
https://oncolo.jp/mystory/human67

【ZOOMオンラインセミナーのご案内】

■タイトル:『「がん保険」未加入だった私が直面した、がん罹患後のお金の不安』

■日時:7月31日(金)21時~21時45分

■参加費:無料

■スピーカー:花木裕介 氏(一般社団法人がんチャレンジャー 代表理事)

■内容:がん保険に入っていなかったことで、罹患後の私(花木)がどのような不安を抱えてきたのか。

周囲のニーズもあり、この2年間の葛藤をできる限りお伝えすることにしました。

保険の見直しを考えている方はもちろん、今後のために話だけは聞いておこうという方、保険会社の方もお気軽にご参加ください。

■お申し込み:以下のフォームより、「7月31日オンラインセミナー希望」と書いてお申し込みください。

https://www.gan-challenger.org/contact

※お問い合わせも上記(一般社団法人がんチャレンジャー)まで。

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