京都大学医学部附属病院 乳腺外科は、以前からがんの抗がん剤治療に伴う副作用の臨床研究に注力されている。
現在、京都大学医学部附属病院 乳腺外科と京都乳癌研究ネットワークが開発した「弾性圧迫グローブ・ストッキング」が患者さんの「手足のしびれ」の予防に有効か検証するための臨床研究にかかる費用をクラウドファンディングで今月末まで支援公募を実施している。
京都乳癌研究ネットワーク(以下、KBCRN)のメンバーでいらっしゃる、京都大学医学部附属病院 腫瘍内科特定病院助教・川口 展子(かわぐち のぶこ)先生に、本臨床研究にかける想いをおうかがいした。
目次
生活の質(QOL)の向上を
乳がん治療における、抗がん剤治療は、手足の痺れが副作用としておよそ7割*1の患者さんで生じています。
痺れの症状は、日常生活を送る上で重要な問題です。手の痺れは、ものを掴みにくいなどの手先の作業が困難となり、足の痺れは、裸足で小石の上を歩いているような痛みも伴うこともあります。
当院とKBCRNは共同で、化学療法誘発性末梢神経障害の軽減に取り組んでいます。
当グループでは4年前に抗がん剤投与中に手足を冷却することにより、パクリタキセルを用いた治療で生じる痺れの副作用の軽減の論文*2を発表いたしました。
抗がん剤投与時に手足の血液の流れを少なくし、抗がん剤を手足にまわりにくくすることが痺れの対策として重要と考えておりました。
しかしながら、海外で凍傷になった事例が起こり、冷却用グローブとソックスの使用を中止した施設もあり、当院でも中止を余儀なくされました。
冷却に代わる痺れの副作用軽減として、このたび弾性圧迫グローブ・ストッキング(Elastic Compression Gloves and Stockings、以下ECGS)の臨床研究を、痺れの副作用があるタキサン系を使用して治療されている、乳がん患者さんに向けて進めるべく計画をしております。
「冷やすこと=血流を鈍くさせること」が末梢神経障害の予防になるのであれば、肌を締め付けることも同様の意味を持つと考え、ECGSを用いて、少しでも患者さんの苦痛を取り除くことを願っております。
*1日本がんサポーティブケア学会、がん薬物療法に伴う末梢神経障害のマネジメントの手引き2017年版
*2京都大学リリース「抗がん薬副作用のしびれ、冷やして予防」
臨床研究の実用化を目指して
ECGSは、強めの圧迫の織目で作られており、ストッキングはひざ下まで伸ばすことができます。
忙しい抗がん剤室でも、看護スタッフの補助なく患者さんご自身での着脱に時間はかかりませんし、管理が簡便です。
臨床研究では、紙のアンケートのほか、専用アプリに最低週1回の痺れの副作用の状況を患者さんに入力していただき、状況を共有させていただきます。
痺れの評価には、モノフィラメントテスターを用いた触覚の検査を、タキサン系抗がん剤治療開始時・中間・終了時の計3回に分けて、3カ月間、触覚の検査を実施します。具体的には、太さの違う毛を埋め込んだ歯ブラシ状の棒先を、指先に触れさせ、どれぐらいの強さを感じられるか、計測していきます。
また、ペグボードによる巧緻性検査(手先の作業)を、モノフィラメントテスターと同様の間隔でデータを取っていきます。
(向かって左より、弾性圧迫ストッキング・グローブ、ペグボード、着圧計、モノフィラメントテスター)
クラウドファンディングでの支援のお願い
臨床研究には多額な費用がかかります。
1日も早く患者さん方の副作用を軽減させることを推進するために、本臨床研究の想いに共感いただいた方々より、資金を募っております。
残すところわずかな日数となってまいりましたが、第二目標金額まであと一歩です。ご支援の輪が広がることを願っております。
クラウドファンディングサイト:
READYFOR 「乳がんの抗がん剤治療における、手足のしびれ予防を目指す臨床研究を」
プロジェクト実施内容
今回の臨床研究は、乳がんの患者さんの抗がん剤開始後、約3カ月後までのしびれの症状を主に評価し、弾性圧迫グローブ・ストッキングの有効性を評価します。
タキサン系の抗がん剤(パクリタキセル、nab-パクリタキセル)での治療を予定している乳がん患者さん計480名にご参加いただき、しびれ予防対策の有無としびれの状況についてご本人の症状や検査所見を調査していきます。
このクラウドファンディングで集まったご支援金を、2025年8月31日までに行う臨床試験のデータ管理費用に充てることをもって、本プロジェクトの終了とさせていただきます。
今回のクラウドファンディングでは、まずは第一目標金額として、抗がん剤治療開始後から約3か月後までの「しびれの症状」データの収集・解析に必要な金額の2,000万円を目指します。(2021年8月24日達成)
多くの皆様のご協力をいただき、第一目標金額を達成しました。長期的な効果の検証を進めるため、抗がん剤治療終了から2年後までのデータの収集・解析に必要な500万円を上乗せした2,500万円を目指します。
さらにご支援をいただくことができた場合は参加施設数を増やす、また、各施設に配布する弾性圧迫グローブ・ストッキングの数を増やすことにも活用したいと考えています。
支援募集期間
2021年8月31日(火)23:00まで
研究参加施設
・大阪赤十字病院
・関西医科大学附属病院
・京都大学医学部附属病院
・京都大学大学院医学研究科
・神戸市立医療センター中央病院
・埼玉医科大学国際医療センター
・神鋼記念会神鋼記念病院
・田附興風会医学研究所北野病院
・天理よろづ相談所病院
・東京都立駒込病院
・日本赤十字社和歌山医療センター
・博愛会相良病院
・兵庫県立尼崎総合医療センター
研究資金使途
■第一目標金額(2021年8月24日達成)
抗がん剤開始後、約3カ月後までのデータ収集・解析にかかる費用 1,626万円
(内訳)
・主要評価項目の評価完了に要するデータ集積に要する費用
・主要評価項目の評価データの確認作業に要する費用
・倫理委員会資料作成費用
(決済手数料5%+運営手数料7%+キュレーターフルサポート料5%)
■第二目標金額(2021年8月31日 23:00まで支援受付中)
長期的な効果の検証を進めるため、抗がん剤治療終了から2年後までのデータの収集・解析に必要な500万円を上乗せした2,500万円を目指します。
クラウドファンディングサイト:
READYFOR 「乳がんの抗がん剤治療における、手足のしびれ予防を目指す臨床研究を」
京都大学医学部附属病院腫瘍内科特定助教 2003年京都大学医学部卒業、京都大学医学部附属病院にて研修。
大阪赤十字病院、国立がん研究センター東病院を経て京都大学大学院博士課程へ進学、戸井雅和先生、佐治重衡先生に師事。
博士号取得後、標的治療腫瘍学特定研究員として石黒洋先生に師事。
2017年より武藤学先生に迎えられ現職、オックスフォード大学留学より帰学し復職。
京都乳癌研究ネットワーク(KBCRN)では当初からのメンバー。
KBCRNは戸井雅和先生(京都大学医学部付属病院乳腺外科教授)を代表理事として、乳がん治療に関するコンセンサスを形成するための活動(研究会や臨床研究等)を行い、乳がん治療成績の向上とQOLの向上に貢献している。