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乳がんについての基本、症状、検査、ステージ、遺伝についての情報

目次

乳がんとは

乳がんは、乳頭から放射状に張りめぐらされていて、母乳をつくる機能がある乳腺にできるがんです。しこりや痛みなどの自覚症状やマンモグラフィ、超音波(エコー)検査による乳がん検診で発見されることが多いのが特徴です。

乳がんは乳腺にできる悪性腫瘍

乳房には、15~20個の乳腺が放射状に張りめぐらされています。この乳腺にできる悪性腫瘍が乳がんです。乳腺は母乳(乳汁)を分泌するための組織で、乳汁を運ぶ乳管、乳汁を作る小葉に分かれています。

この乳管、小葉などの細胞が異常に増殖した状態が乳がんです。がん細胞が乳管や小葉といった上皮細胞の中にとどまっているものを「非浸潤がん」、がん細胞が乳管や小葉の周囲に広がったものを「浸潤がん」といいます。

非浸潤がんは命の危険はありませんが、浸潤がんの多くは、目に見えないほど微小のがんが広がっている危険性があるため、抗がん剤治療、ホルモン治療などの全身を対象にした治療を行う必要があります。

組織型による分類では、90%は乳管にできる乳管がん、約5%が小葉から発生する小葉がん、そのほか粘液がん、髄様がんなど特殊な型のがんに分けられます。ただ、組織型によって、治療法や病気の経過はかわりません。

全体の6~7%は若年性乳がん

年齢別には30代から増え始め、50歳前後から60歳代前半に多いのが特徴です。比較的若い20~30歳代で発症する「若年性乳がん」の人(全体の6~7%)もいます。また、乳がん全体の0.5%と非常に少ないものの、男性も乳がんになるケースがあります。男性乳がんは比較的進行が早い傾向があります。

乳がんの症状

乳がんが見つかるきっかけは主に、マンモグラフィ検診と、しこり、ひきつれや痛みなどの自覚症状による自己発見です。日本乳癌学会の「全国乳がん患者登録調査報告(2011年次症例)」によると、自覚症状があって検診を受けた人も合わせると61.6%が自己発見で見つかっています。自覚症状がないうちにマンモグラフィ検診で見つかった人は28.4%で、検診による発見率も年々増えています。

視診・触診

視診はまず医師が乳房を形や左右や皮膚の状態を観察し、乳頭に分泌物や湿疹がないかを見ます。触診は実際に乳房や脇に触れ、くぼみやしこりの場所、大きさ、硬さ、首やわきの下のリンパ節の腫れの有無を確認します。

マンモグラフィ検査

マンモグラフィは乳房専用のX線撮影装置で、撮影した画像を見て視触診ではわからないほど小さなものも含めた病変の有無、石灰化などが確認をします。石灰化とは、乳房の一部にカルシウムが沈着することです。

灰化があっても良性であることがほとんどですが、1か所に石灰化が集中しているようなときには悪性の可能性があります。撮影の際は乳房をはさんで薄く延ばすため、人によっては痛みを感じる場合があります。また若年の女性だと乳腺密度が高い傾向にあり、発見がしにくいです。

超音波(エコー)検査

超音波検査は、超音波を乳房に当てて乳房内にしこりがあるかどうかをみるのに有効な画像検査です。特に、閉経前の人は乳腺の密度が高く、マンモグラフィでは病変の有無がわかりにくいため、密度にかかわらず病変の有無が確認できる超音波検査が役立ちます。正常な乳腺は白く、腫瘍部分は黒く映ります。

診断

検査でがんの疑いが強いとき、あるいは、良性か悪性か判断がつかないときには、穿刺吸引細胞診、あるいは、針生検(組織診)といった病理検査でがんなのかどうか、がんだとしたらどうい性質を持っているのかを調べます。

穿刺吸引細胞診は、皮膚の上から病変部に直接細い針を刺し、注射器で吸い出した細胞を染色し、顕微鏡で観察する検査です。針生検は、局所麻酔をし、穿刺吸引細胞診よりも太い針を刺して病変部の組織の一部を採取し、それを染色して顕微鏡でみる病理検査です。医療機関によっては細胞診と針生検を両方行いますが、針生検のほうがより正確な診断が可能なので、穿刺吸引細胞診を行わず針生検のみで診断する場合もあります。

針生検は、使う機器によって、コア針生検と吸引式乳房組織生検(機器名によってマンモトーム生検、バコラ生検とも呼ばれる)の2種類あります。コア針生検は、ばねの力を利用して組織を採取する方法を用います。

1度に採取できる組織は通常1本分なので、コア針生検で判断がつかない場合には、吸引力を利用して1度に複数の組織が採取できる吸引式乳房組織生検を行います。それでも診断が確定しなければ、手術で病変の一部か全部を採取する外科的生検を行う場合もあります。

乳がんのステージ(病期)

乳がんのステージ病期)は腫瘍の大きさ、リンパ節やほかの臓器への転移の有無によって、0期~Ⅳ期に分類されます。治療法の選択肢は、がんの大きさ、広がり方と形態、病理検査で調べたがんの性質などによって変わります。

ステージ(病期)は、自分の病気の状態や予後(治療の見込み)を知り、治療法を決めるうえで重要な指標です。乳がんの病期は、腫瘍の大きさと広がり、そして、周辺のリンパ節やほかの臓器への転移の有無などによって、0、Ⅰ、ⅡA、ⅡB、ⅢA、ⅢB、ⅢC、Ⅳ期まで8段階に分けられます。0期は非浸潤がん、Ⅰ期以上は浸潤がんで、Ⅳ期に近いほど進行した状態です。

乳がんの治療は、手術、放射線療法といった局所療法、薬を使った全身療法を組み合わせて行うことが多く、何通りもの選択肢の中から決めます。治療法については、日本乳癌学会が「乳癌診療ガイドライン」として標準化しています。標準化された治療(標準治療)は、多くの臨床試験の結果をもとに検討され、専門家の間で合意が得られている現時点で最善の治療法です。日本乳癌学会では、がんの体験者と一緒に「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」を作成しており、ホームページ(http://jbcs.gr.jp/)からどなたでも閲覧可能です。

どの治療法を選ぶかは、病期、病理検査によってわかるがんの性質、患者さん本人の体の状態(閉経の状況、臓器機能が良好に保持されているか)、ご本人の希望などによって変わります。

なお、腫瘍のある乳房が赤く腫れる「炎症性乳がん」や「ほかの臓器に転移がある」と診断されたときには、最初に薬物療法を受けることになります。乳がんの性質を知る指標については、にゅがんの薬物療法の項で詳しく説明しますが、まずは、担当医に病理検査や画像診断の結果を聞き、自分の病期やがんの性質について知っておきましょう。

複数の選択肢がある場合には、治療の目的、内容、リスク、利益、治療期間や費用について詳しい説明を受け、担当医ともよく相談し、納得して選ぶことが大切です。

家族性・遺伝性とは

がんのほとんどは、喫煙、食生活、運動不足など生活習慣や環境が原因ですが、乳がんの中には遺伝性のものが5~10%あるといわれます。これまでの研究で、遺伝的に乳がんを発症しやすい人の多くは、細胞ががん化しないように細胞を修復する役割の遺伝子BRCA1、BRCA2のどちらかに異常(変異)があることがわかっています。

BRCA1、BRCA2のどちらかに変異があると、変異のない人よりも若い年齢で乳がんと卵巣がんを発症しやすく、両側の乳房が乳がんになったり、同じ側の乳房内に別の乳がんができたりするリスクがあります。

乳がんの患者さんにBRCA1、BRCA2に変異があるかどうかは、遺伝子検査と遺伝カウセリングをセットで行っている医療機関(http://hboc.jp/facilities/index.html または、http://www.hboc.info/where/)で調べられます。保険診療ではなく、自費で約20万円かかります。遺伝性の乳がんだとわかったときにはショックを受けることもあり、親や姉妹、子どもなどの身の回りの家族にも関わる問題なので、遺伝カウセリングとセットで受けることが大切です。

遺伝性の乳がんの場合、乳房温存手術が可能でも乳房切除術を選択したり、反対側の乳房や卵巣の検査を定期的に行うなど、治療方針にも大きく関係します。また、卵巣がんと反対側乳がんの予防のために、卵巣・卵管、あるいは健康な側の乳腺の予防切除を選択できる病院も出てきてます。ただし、予防切除とその後の乳房再建手術は自費診療です。

乳がんが遠隔転移した場合

再発とは、乳がんができ始めたころから体のどこかにあった微小ながん細胞が、初期治療でも死滅せずに、あとになって出てきた状態です。手術した側の乳房やその周囲の皮膚やリンパ節に再び腫瘍ができることを「局所再発」、肺、肝臓、骨など離れたところに発生することを「遠隔転移」といいます。乳がんの場合、10年以上経ってから再発する人もいます。

局所再発したら手術へ

温存した乳房内に再びがんが発生したときには、乳房切除術で乳房をすべて切除します。再び乳房温存手術ができるのは、再発腫瘍の大きさと広がりが非常に小さく、初回治療が不十分だったなど限られた場合のみです。
 
乳房切除術後2年以上経ってから周囲の皮膚や胸壁に再発し、ほかの臓器に転移がなく切除が可能であれば、手術で再発腫瘍とその周辺を取り除きます。放射線療法を受けたことがなければ、術後に放射線治療も行います。

局所再発でも、手術から再発までの期間が短く(一般的には2年以内)、炎症性乳がんのように皮膚や胸壁全体が赤みを帯びている場合には、先に抗がん剤治療、ホルモン療法分子標的薬治療といった薬物療法を行い、効果があれば手術や放射線療法を行います。

遠隔転移では薬物療法を

肺、肝臓、骨など乳房から離れた部分への遠隔転移の場合には、すでに全身にがん細胞が広がっているので、手術などで取り除くのは難しい状態です。長くがんと共存することを目指し、薬剤による全身療法を行ってがんの進行を抑え、症状を和らげていきます。

薬物療法は、ホルモン感受性、HER2タンパク発現の有無といったがん細胞の性質、患者さんの体の状況(閉経の状況、臓器機能)、本人の希望によって選択します。乳がんの薬には、アンスラサイクリン系薬剤、タキサン系薬剤に加え、植物由来の薬剤であるビノレルビン、代謝拮抗剤のゲムシタビン、カペシタビンなどがあり、一つの薬が効かなくなったら、別の薬剤の投与を検討します。

HER2陽性乳がんの人は、タキサン系薬剤に分子標的薬を併用した薬物療法が行われます。トラスツズマブ、ペルツズマブ、T-DM1、ラパチニブなどの抗HER2薬を単独、あるいは組み合わせて治療を継続します。

ホルモン感受性ありの人は再発・転移した場合でも、抗エストロゲン薬とLH-RHアゴニスト製剤、アロマターゼ阻害薬を単独、あるいは組み合わせて、ホルモン療法を継続するのが基本です。ホルモン感受性あり、HER2陽性の人は、ホルモン療法単独のほか、抗HER2薬とホルモン療法、あるいはホルモン薬、抗がん剤と抗HER2薬を併用する場合もあります。

骨転移の場合には、乳がんの薬物療法のほかに、骨転移治療薬のゾレドロン酸やデノスマブを投与し、場合によっては放射線療法や整形外科的な手術を行います。脳転移では主に放射線療法が行われ、病巣が1個でほかの臓器に転移がない場合には手術を考慮します。

薬物療法の進歩により、再発・転移しても仕事、家事、育児など、これまで通りの生活を長期間続けられる人が増えています。

再発・転移を告知されたときには、強いショックを受けるかもしれません。担当医とよく相談し納得して再発治療を受け、自分らしく生きることが大切です。

本コンテンツは認定NPO法人キャンサーネットジャパンが出版する「もっと知ってほしい 乳がんのこと」より抜粋・転記しております。

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