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【疫学】
胃がんは日本人に最も多くみられるがんです。2014年に新たに胃がんと診断された患者は男性90,600程度、女性40,100人程度と予想されています。男女とも50歳代から増加し、罹患率、死亡率ともに女性より男性のほうが高いのが特徴です。
日本では早期胃がんで発見されることが多く、根治率は90%以上と高いため死亡率は低下しており、近年は死亡者数が右肩下がりで推移していることが特徴です。
【発生メカニズム】
胃がんの多くは、日常的に摂取する食事(塩分過量摂取、野菜・果物不足など)や喫煙、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染などが関わっています。これらの原因によって起こる炎症が慢性胃炎などを引き起こし、やがて胃粘膜内の細胞が、がん化すると考えられています。
【検査】
胃がんが疑われる症状(胃痛、腹部膨張、吐血、黒色便、食欲低下など)が認められたり、検診でのバリウム検査やABC検査(ピロリ菌感染の有無や胃粘膜の萎縮の程度を調べて胃がんのリスクを確認する検査)にて胃がんを疑われた場合、胃カメラにて腫瘍の有無を確認して、腫瘍と考えられる組織を採取します。それの組織を採取し、顕微鏡で詳しく観察して、診断を確定します。診断が確定したら、超音波検査、腹部CT検査、PET検査などで転移の有無があるかを確認します。
【病期(ステージ)分類】
病期(ステージ)とはがんの進み具合を分類したものです。胃がんの場合、『深達度(がん細胞が胃の壁にどれだけ食い込んでいるかの程度)』、『リンパ節への転移の広がり』及び『他の臓器に転移しているか』を組み合わせて決定します。
【治療方針】
病期(ステージ)に応じて治療方針が決定します。ステージ1の胃粘膜にとどまっているものや胃壁へ食い込んでいてもがんが小さい(1.5㎝以下)場合、内視鏡治療を行います。内視鏡治療が実施できないステージ1やステージ2~3は手術により取り除きます。ステージ2~3では術後に薬剤治療を行います。ステージ4は薬剤治療が中心となります。
【内視鏡的治療】
内視鏡的治療は早期胃がんの場合に実施します。現在、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という手法となります。体への負担が少なく、胃の機能も維持できるメリットがありますが、人工的な胃潰瘍となるため2か月間程度胃潰瘍の薬を使用しなければなりません。
【手術】
胃切除と同時に周辺のリンパ節を取り除きます。胃を切除すると、食べ物を撹拌して一時的に貯めて少しずつ腸に送り出すという機能が損なわれるため「ダンピング症候群」が起こります。このため、手術後3か月後は食事に注意する必要があります。
【術後補助化学療法】
手術では肉眼的にがんを切除することができても、肉眼ではわからないがんが存在している可能性があります。それらを死滅させるために手術後に薬物治療を行うことがあります。これを術後補助化学療法といいます。基本的にステージ2~3の方が実施する治療方法です。
2015年3月時点、日本で推奨される抗がん剤はテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(通常S-1、商品名「ティーエスワン」)という内服薬です。
術後の回復に応じてこの内服薬を開始して、「4週間内服→2週間休薬」のサイクルを8回(約1年間)内服します。
【薬物療法】
手術不可能と判断された場合は薬物療法が中心となります。治療中は自覚症状、触診、CTなどの検査を定期的に行い、治療効果を判断します。効果がある場合は原則治療を継続します。効果がない場合でも比較的元気であるのであれば、治療法を変更して、2次治療や3次治療を続けることが推奨されています。
【参考】
NPO法人キャンサーネットジャパン
> 出版物のご紹介:http://www.cancernet.jp/publish
「胃がん治療ガイドライン2014年5月改訂第4版」を参考にしています。