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順天堂大学 堀江重郎医師に聞く、 泌尿器領域のがんに対するプレシジョン・メディシン② 腎臓がん、膀胱がん、精巣腫瘍 ~免疫チェックポイント阻害薬への期待とプレシジョン・サージェーリー~

第1回記事:順天堂大学 堀江重郎医師に聞く、 泌尿器領域のがんに対するプレシジョン・メディシン① 前立腺がん ~AR-V7を測定し、薬剤効果を予測する~

目次

腎がんのプレシジョン・メディシン ~PD-L1を調べることにより、薬剤効果を予測する~

堀江先生:転移性の腎がんは、今から20年ほど前から発がんのメカニズムがかなり解明されてきています。慢性骨髄性白血病に対するグリベッグなどに続き、分子標的薬が早い段階で出てきています。

その中に、VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)と、エムトール(mTOR)の2種類の薬剤があります。さらに最近免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボという薬剤が、メラノーマに次いで腎がんの治療に有効と考えられ、承認されています。

ただ、この薬剤も圧倒的に効果があるかというと、実はそこまでではありません。そこで、私たちは先ほどの血中の循環腫瘍細胞を調べ、そこにPD-L1という免疫チェックポイントに関係するがん細胞分子が出ているかどうかをみます。PD-L1が出ているがんに対しては、オプジーボの効果があると考えやすいです。ですから薬剤の選択をする際にひとつのヒントになるわけです。

プレシジョン・メディシンとは、がんそのものの遺伝子変異はもちろんのこと、転移がんの場合は原発巣、肺がんなら肺、腎がんなら腎臓、とそれぞれ違う変化がありますので、血中の腫瘍細胞を調べることが基本といえます。

可知:どの病変の組織検体の発現量について検討を行っていますか?

堀江先生:世界に発表されているものとして、もとの腎がんにおけるPD-L1の発現と、免疫チェックポイント阻害薬の効果はすでに調査済みで、原発巣は関係ないことになっています。ただ、転移している場所でどうなっているのかは、まだよくわかっていません。これは循環している細胞を調べないと分からないと思います。

可知:今年のASCO-GU(米国臨床腫瘍学会 泌尿器シンポジウム)でも、ファーストラインで免疫チェックポイント阻害薬にVEGF系のTKIを上乗せした試験結果が発表されましたが、上乗せ効果は期待できるものでしょうか。

堀江先生:TKIに免疫チェックポイント阻害薬の効果が非常に高いとの論文が発表されましたが、国内でのコンビネーション効果の検討の材料は十分にそろっていないと思います。ただし、期待されていることには変わりませんね。

膀胱がんのプレシジョン・メディシン ~遺伝子変異の研究が進まなかった領域、ただし、免疫チェックポイント阻害薬には期待~

堀江先生:膀胱がんに関しては、シスプラチンの効果があるという報告がありますが、遺伝変異が比較的多いがんなので、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できるがんとされています。

現在、「オンコロ」を通じて免疫チェックポイント阻害薬を用いてなどのさまざまな治験の募集が実施されていますよね。膀胱がんは治験がまだ少ない背景もあり、分子標的薬が今までなかったのです。

プレシジョン・メディシンの観点からみれば、膀胱がんのドライバー遺伝子が何かということがはっきりしていない段階です。膀胱がんの遺伝子変異は、肺がんに比較的近いといわれていますね。大きく分けて3つの遺伝子変異があるということは分かっていますが、詳細に調べて治療に活かすところまでは至っていない現状です。

可知:非常に興味深いですね。まず、前立腺がんも含め泌尿器全体としては、原発というよりはそこからどのように変化していったか、という点に注目されていることがわかりました。前立腺がんであったらメッセンジャーRNAを注視していくのですね。腎がんについては遺伝子の傷が多い、VEGF系のTKIやmTOR、免疫チェックポイント阻害薬といったところが発展しているのですね。

精巣腫瘍のプレシジョン・メディシン ~ウイルス関連性腫瘍であるため、今後の研究に期待~

可知:最後に泌尿器領域での症例は多くないと思いますが、精巣腫瘍の治療成績はいかがでしょうか?

堀江先生:
精巣腫瘍は主に若い方がなる腫瘍で、前立腺、腎臓、膀胱のがんよりも、少ないですね。現在、シスプラチンを用いた抗がん剤治療でほとんどの症例が解決しますが、一部のがんは薬剤に抵抗性になることもあります。

精巣腫瘍は、レトロウィルスと関係しています。レトロウイルスは人間を含む哺乳類とながく共存しているウイルスです。精巣がんもレトロウィルスが関係していると言われています。治療が難しい患者さんには免疫チェックポイント阻害薬の効果があるかもしれません。精巣腫瘍にどの程度の遺伝子変異があるのか、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬を用いて治験をすることはあり得ない話ではありませんね。

高精度手術 ~SDプリンタや手術ロボットを駆使したプレシジョン・サージェリー~

堀江先生:プレシジョン・メディシンの話題から逸れますが、プレシジョン・サージェリーと呼ばれるものもあります。

たとえば、腎がんであれば部分切除の手術をしますが、がんの一部分を見つけて過不足なく切除することが大事とされています。腎臓は非常に血管が豊富な構成の臓器であり、適切なアプローチをしないと合併症を起こしたりします。

私たちは手術前にたとえば3Dプリンタで模型をつくり、手術のシミュレーションを行います。合わせてダヴィンチ手術中にそのシミュレーションの結果を同時に見ることができます。プレシジョン・サージェリーとは、より正確な手術、その人その人に合わせたより安全な手術をするためのツールを指します。

先日、ヨーロッパ泌尿器学会では、私たちの施設のプレシジョン・メディシン、プレシジョンサージェリーを統合した最先端の泌尿器科医療であるプレシジョン・ウロロジーが取り上げられました。当院では世界各国から研修者や見学者が来ています。

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