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【PR】医師と患者で考える治療目標-がん治療の道しるべ

提供:バイエル薬品株式会社

シリーズの2回目は、薬物治療が多様化する中、患者さんやご家族はどのような思いを抱えて治療を受け、何を目標にしているのかを患者調査の結果も参考にしながら、専門家とともに探っていきます。

古瀬純司 氏:杏林大学医学部・大学院医学系研究科 腫瘍内科学 教授
長谷川 潔 氏:東京大学大学院医学系研究科 肝胆膵外科 人工臓器・移植外科 教授
司会/川上祥子:がん情報サイト オンコロ編集部

臨床医からみた薬物治療に向き合う患者の心

─本シリーズのVol.1の対談では、肝細胞がんの治療が多様化するとともに患者さんのニーズも多様化してきていることを伺いました。治療を始めるとき、患者さんたちはどのような思いを持って臨んでいるのでしょうか。

長谷川 肝細胞がんは比較的早期で見つかり、手術してから5年、10年と予後が長くなることの多いがんです。一方、手術しても再発することが多いのも特徴の1つです。私の専門領域は外科ですので、治療は手術が中心となります。手術を目的に受診される患者さんは早期のケースが多いこともあり、「治したい」という意欲に満ちている人が大半です。

古瀬 基本的にはほかのがんも同じだと思いますが、特に肝細胞がんは経過が長いがゆえに治療してきた歳月や進行度によって患者さんの治療に対する心情は異なるようです。私は薬物治療を専門としており、当科を受診される患者さんは、ほかの消化器がん(膵がん、胃がん、大腸がんなど)とは違い、薬物治療を行う以前に肝切除術や肝動脈化学塞栓療法など何らかの治療を行っている患者さんがほとんどです。薬物療法を受ける肝細胞がんの患者さんは、すでに再発、あるいは増悪を経験されていて、治療が難しい状態ということをある程度感じられているように思います。そのため、がんは完治しないことを理解し、病気とうまく付き合っていくことを考えている患者さんも少なくないように思います。

長谷川 近年、さまざまな薬剤が使えるようになったことで、手術前に薬物治療を行うことも稀にありますが、進行して薬物治療を始める患者さんの多くが完治を目標としていないというご意見には同感です。私も少なからず、そのように考える患者さんの事例を経験しています。当たり前のことですが、患者さんが置かれている状況によって治療に対するニーズや希望は変わります。このことをまず医療者は認識しておきたいですね。

経過が長いがゆえに治療の歳月や進行度によって患者さんの治療に対する心情はさまざまです。― 古瀬純司 先生

アンケート調査から考える患者が重視する治療目標とは

─がん情報サイト「オンコロ」編集部とバイエル薬品は2019年11~12月に肝細胞がんの患者さんとご家族を対象としたアンケート調査を実施しました。この調査では薬物治療を行う際の治療目標についてもお聞きしており、現在の状態にかかわらず、経口薬による薬物治療を受けることになったと仮定したうえで、9つの治療目標を設定し、それぞれの項目に対して、あてはまる度合いの強さを1つ選んでもらいました。

その結果、「完治する」という治療目標に対して「非常によくあてはまる」「多少あてはまる」を選択した人の合計は全体の67%いたものの、この割合は比較的少なく、順位としては最下位でした。また、「より長く生きる」という治療目標にあてはまると答えた人も69%と二番目に回答が少ない結果となりました。一方で、多くの人が治療目標として選んだのは「身の回りのこと(着替え・トイレ等)で家族に迷惑をかけない」(89%)、「活力があって元気でいる」(82%)、「趣味を続ける」(81%)、「パートナー(家族・友人・ペットなど)と一緒に過ごす」(80%)といった項目でした。先生がたはこの調査結果をどう評価されますか。

古瀬 どのような状況に置かれても患者さんの「長生きしたい」という気持ちは変わらないと思いますが、肝細胞がんの薬物治療では「治す」あるいは「より長く生きる」ことに治療目標を設定する人が少ないという結果には、当科を受診される患者さんの傾向とも一致しており納得しました。また、完治しないことを前提に病状を上手にコントロールして生活の質を大事にしたいとの思いが強いことにも同感です。若くして罹患した人は「何とか治したい」という気持ちになるのでしょうが、肝細胞がんでは近年、患者さんの高齢化が進んでおり、こうした背景も回答に影響しているのかもしれません。

長谷川 そうですね。外科に初診で受診される患者さんに同じ質問をした場合、違った結果になるでしょう。"生活の質にも配慮して治療を考える"ことは近年、がん医療全体にみられる動向であり、社会的ニーズでもあります。薬物治療でいえば「生活スタイルに合わせて投与経路を考慮し薬剤を選ぶ」といったことがそれにあたると思います。

古瀬 この調査結果から患者さんが「家族に迷惑をかけたくない」ことや、「家族と一緒に過ごしたい」ことを重視しているのもよくわかります。薬物治療を受けるうえで、患者さんが大切にしたい事柄にもあらためて気づかされました。

長谷川 私も大いに参考になりました。一方で、患者さんが置かれている状況が変わると治療に求めるものも変化することを考えると、治療の最中であっても随時、患者さんと治療目標について話し合うことが重要だと思います。

状況が変わると治療に求めるものも変化するので、治療目標について随時、話し合うことが必要です。―長谷川 潔 先生

患者と医療者で治療目標を共有する意義とメリット

─患者さんと医療者が治療目標を共有することにどのような意義がありますか。

古瀬 患者さんと治療目標を共有することは治療法や薬剤の選択に深くかかわってくるため、とても重要なことです。若い患者さんで「完治」を目標にしている場合は、手術前に薬物治療を実施し少しでも腫瘍を小さくしてから肝切除術を行い、治癒を目指すといった治療戦略が考えられます。一方、がんが進行している場合は、治すことよりもがんとうまく共存していくことを目標に、生活の質が維持できる治療を行うことになるでしょう。どのような治療の場合も、患者さんやご家族と治療目標を共有し明確にしたうえで、その目標に向かってどんな治療を行っていくのかということを、医師からよく説明し理解してもらうことが大切です。

長谷川 同時に患者さんやご家族には治療の限界も知っていただく必要があると思います。というのもそのことを知らなければ、的外れの治療目標を設定してしまうことがあるからです。それは手術の場合も同じで、私は手術で得られる効果だけでなく限界についても具体的なデータに基づいて説明しています。このプロセスを踏むことは薬物治療においても重要なことではないでしょうか。

古瀬 ええ。肝細胞がんでは多くの場合、薬物治療が必要な段階になると完治をめざすことに限界が出てきます。そのことを最初に患者さんにお話しするのは厳しい内容になるため、医療者にとっても心理的に難しいことです。しかし、この段階になっても上手にコントロールすれば肝細胞がんと付き合っていくことは可能です。希望がなくなったわけではありません。たとえば高血圧症や糖尿病は薬で治せるわけではなく、上手にコントロールすることが目標になります。当科では、切除ができない状況での薬物治療は、このような生活習慣病の治療と同じだと思っていただけるよう説明しています。そして、そのことが正確に伝わるように自分たちで説明文書を作成し活用しています。

患者さんと医師で治療目標を共有することは治療法や薬剤の選択に深くかかわるため大切です。― 古瀬純司 先生

─それはよい取り組みですね。説明文書の内容について教えていただけますか。

古瀬 当科の薬物治療一般の説明文書では、①切除ができない状況での薬物治療、②切除ができた後の薬物治療(術後補助化学療法)、③切除前の補助療法(術前化学療法)、④放射線治療との併用(化学放射線療法)の4つの方法を示し、該当するものがひと目でわかるようにしています。このうち、肝細胞がんの治療は①に該当します。説明文書では薬物治療の目的も記載し、①では「がんを完全になくすのは難しい」ことを明記しつつ、「病巣を縮小させたり、進行を一時的に抑えたりする効果があり、それによって症状を軽くすることや、より長く通常の生活をすることが期待できる」ことを伝えています。

長谷川 「治してあげたい」という思いが強い若手のドクターは特に治療の限界を告げることに抵抗があり、うまく伝えられないことも多いように思います。このような説明文書があると患者さんやご家族が理解しやすいだけでなく、誰が担当しても同じ内容を説明することが可能ですし、医師、看護師、薬剤師など患者さんを支えるチーム医療のメンバー同士も目標を共有でき、それに向かって有機的に連携することができますね。

 一方で、最初から明確に意思表示できる患者さんは少ないように感じます。医師とのやりとりを重ねていくうちに、患者さんは病状を含めて自分が置かれた状況を理解し、治療に対するさまざまなニーズが見えてくるようです。したがって患者さん・ご家族・医療者の3者でよく話し合い、治療目標を見出していくことが欠かせません。そして、それが治療意欲や満足度も確実に高めていくと思うのです。

治療意欲や満足度を高めていくうえでもよく話し合い、治療目標を見出すことが不可欠です。―長谷川 潔 先生

─ありがとうございます。薬物治療が多様化する中、よりよい治療を選択するためには、患者さん自身も治療を受けるうえで自分は何を大切にしたいのか、何を目標にするのかということをよく考え、医療者とともに話し合って決めていくことが必要なのですね。Vol.3では「治療選択の考え方」をテーマに、引き続きディスカッションを重ねていきます。

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長谷川 潔 氏(はせがわ・きよし)
1993年、東京大学医学部卒業。
東京大学医学部附属病院、同大学大学院医学系研究科肝胆膵外科、人工臓器・移植外科准教授を経て2017年より現職。
原発性転移性肝がんの外科治療が専門。
古瀬純司 氏(ふるせ・じゅんじ)
1984年、千葉大学医学部卒業。
国立がん研究センター東病院、米国・トマスジェファーソン大学留学等を経て2008年より現職。
日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の肝胆膵グループ代表。

 

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