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厚生労働省 人道的見地からの治験の骨子を大筋合意 年度内に開始予定

 9月17日、厚生労働省は「人道的見地からの治験」(拡大治験)の実施に向け、具体的な骨子案をまとめました。人道的見地からの治験とは、治験の適格性に合致にしない患者やスケジュール的に治験に参加できなかった患者に対しての措置として、拡大治験として治験薬を使用できるようにする制度となります。先に施行が決定している患者申出療養の補完的制度となり、がん患者や難病患者等が未承認薬を使用できる機会が広がる可能性があります。少し難しい内容となりますが、オンコロでは患者向けの情報としてお知らせ致します。

 拡大治験参加の骨子は以下の通りです。
【制度の対象範囲】
 原則として、未承認薬投与によるベネフィットが高いと考えられる新薬の国内開発の最終段階である治験(以下、「主たる治験」)の実施後あるいは実施中(組み入れ終了後)に実施する。または、生命に重大な影響がある重篤な疾患であって、既存の治療法に有効なものが存在しない未承認または適応外の治療薬を対象とする。
 →拡大治験が要望される可能性が高いのは「先駆け審査品目」、「希少疾病用医薬品指定品目」、「未承認薬検討会議での開発要請品目」となり、この定義の対象となるがん種も多いと考えられます。また、治験の組み入れが終了しても参加できる可能性があるといった意義も大きいと思います。

【法的位置づけ】
・被験者の安全性の観点から、治験の枠内で実施する。主たる治験の治験実施計画書を元に、安全性に主眼を置いた、プラセボ群を置かない実薬単群非盲検試験を基本とする。
 →通常の治験と同じように安全性のための検査は実施され、プラセボ(偽薬)を服用することはないようです。

【制度の運用の流れ】
 ①実施中の治験情報を公的機関HPに公開する。
 ②主たる治験に参加を希望する患者は主治医を通じて治験実施企業に照会する。
 ③主治医と主たる治験を実施している医療機関の治験責任医師との組入れの可能性等を検討する。
  - 主たる治験に参加できる可能性ありの場合、主たる治験に参加
  - 主たる治験には参加できないが、拡大治験には参加を希望したい場合、該当理由を治験実施企業に依頼(④へ)
 ④治験実施企業にて参加が承諾された場合、治験実施医療機関に転院。拡大治験を実施。
 治験実施企業にて参加が承諾されない場合でも、厚労省の検討委員会に検討依頼要望書を提出することにより、参加是非の再度検討される可能性あり。
 →原則として、主治医を通して治験実施医療機関に相談する流れとなります。個人見解としての懸念点は、治験情報のHP情報となります。現状、JAPIC-CTI等では、実施医療機関を掲載していないことが殆どです。拡大治験のホームページは別に設けるようですが、その運用が気になります。また、認知度の問題があります。情報の海の中、この制度に着地できる患者さんがどの程度いるかが気になるところです。いずれにせよオンコロでは、こういった制度に認知に協力していきたい次第です。

【費用負担】
 治験薬の経費については、妥当な範囲で患者負担も可とする。患者負担をする場合は、企業は一定の考え方に基づいて算定し、説明同意文書に記載するとともにその額の考え方を公表する。また、通常の治験で支払われる負担軽減費は支給しない(最終的には企業が決定)。
 →治験薬に値段をつけて公表するといった点は気になる点です。海外で承認されている薬剤対象の患者申出制度であれば、海外薬価を元にに算出することは可能ですが、本制度は海外で承認されていない場合も含まれますので、どういった算定になるのでしょうか。。。また、治験薬の価格を決めるとなると、医療経済性としての倫理観が求められ、企業としては非常に悩ましい事項であると言えます。

【補償】
 補償については最低限は行うべきである。しかしながら、よりリスクの高い患者の組み入れ又は多くの患者の組入れによる保険負担増大等により当該制度の実効性が担保できなくなる恐れがあることから、企業による裁量が必要でないか。
 →治験に入る方と同じ補償内容ではなく、若干補償内容が弱くなるイメージでしょうか。最終的には企業による裁量とのことです。

 今度、どのように実行されていくか不透明な点は多いですが、日本も海外と同様の本制度が実施されるということは大きな一歩だと考えています。

 参考:人道的見地からの治験参加の骨子(案)(薬事・食品衛生審議会 薬事分科会 資料29-2)
 参考:患者申出療養について その2(薬事・食品衛生審議会 薬事分科会 資料29-3)

記事:可知 健太

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