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去勢抵抗性前立腺がん Ra223『ゾーフィゴ』発売 放射性医薬品でかわる骨転移治療

7月13日、バイエル薬品株式会社は、「去勢抵抗性前立腺がんの骨転移治療におけるパラダイムシフト~新規治療薬がもたらす変化と期待~」と題した、記者向け発表を行い、横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科教授 上村 博司氏と近畿大学医学部放射線医学教室 細野 眞氏が登壇した。バイエル薬品は、6月1日にα(アルファ)線を放出する放射線医薬品であるRa(ラジウム)-233(商品名ゾーフィゴ)を「骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌」適応として発売したばかり。

目次

前立腺がんと骨転移

国立がん研究センターによると2015年の前立腺がんの予測罹患者数は98,400人。日本人男性では最も多いがん種となり、2025年には12万人に至ると予測されている。これは高齢化およびPSA検査が浸透することにもよる。

横浜市大関連医療機関21施設の2011年の前立腺がんの新患者数は年間2069名。うち、局所浸潤がんは15.9%、転移がんは13.8%となり、30% が進行がんとなった。前立腺がんはBASTON静脈叢を転移経路とするため脊椎に直接転移しやすい性質をもち、骨転移あるいは骨病変発現率は65~75%にのぼる。現に、横浜市大関連病院21施設の2011年前立腺がん新患者2069名のうち197名(9.7%)が新患時に骨転移を有していた。

骨転移は、痛みや麻痺といった症状が発現するのにくわえ、骨折しやすくなる。こういった事象を骨関連事象(SRE)といい、一旦発生すると元に戻すのが難しい。骨折部位によっては寝たきりになったり、寝たきり状態が続くと誤嚥性肺炎を発症するケースもあり、患者の生活の質QOL)を著しく低下する。更には最終的に生存にも寄与する海外データが発表されているとのことだ(DePuy V, et al.;Support Care Cancer.15,869-876,2007)。なお、高頻度に骨転移が認められるがん種としては、前立腺がんの他に多発性骨髄腫や乳がんなどがある。


Coleman RE.Cancer.1997;80(8 Suppl):1588-1549 参照・改変

前立腺がん患者の骨転移治療については、RANKL抗体デノスマブ(ランマーク)とビスホスホネート製剤ゾレドロン酸(ゾメタ)が使用される。ランマークはゾメタに対して骨関連事象発現するまでの期間を有意に延長したことが臨床試験結果で示されている一方、同時に生存期間延長には寄与しないことも示された。

このような状況下において、ゾーフィゴは、骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がん患者を対象とした第3相臨床試験(ALSYMPCA)にて、プラセボ(偽薬)に対して生存期間を延長することが示され、6月1日に上市された薬剤である。

ゾーフィゴ 世界初 アルファ線放出する放射性医薬品

ゾーフィゴは、世界初のアルファ線放出核種である223Raを医薬品として実用した放射性医薬品である。放射線療法が外部から放射線線を照射して治療するのに対し、放射線医薬品は腫瘍への親和性のある「アルファ線やベータ線を放出する核種」を体内に投与し、体の内部から放射線を照射する。従来、甲状腺がん対する131I(ヨウ素)や骨転移疼痛に対する89Sr(ストロンチウム)といったベータ線核種を医療として使用していた。

ベータ線に比べ、アルファ線は高LTE(線エネルギー付与)でありDNA二本鎖切断できる一方、飛程(放射線が飛ぶ範囲)は100μmである。よって、ベータ線より腫瘍を破壊する能力が高い一方、周辺の正常組織や骨髄に対するダメージを最小に抑えるこができることが特徴だ。

また、Ra(ラジウム)はカルシウム(Ca)と同族のアルカリ土類金属に属し、カルシウムの代わりに骨代謝が激しい部位に積極的に取り込まれる。すなわち、ゾーフィゴは骨代謝を介し骨に取り込まれ、その周辺の骨転移層に対して抗腫瘍効果を発揮する。

ゾーフィゴの有効性安全性を検証した第3相臨床試験であるALSYMPCA試験では、2か所以上の骨転移巣を有する去勢抵抗性前立腺がん患者を対象にゾーフィゴ群614名とプラセボ群307名に割り付けられた。骨転移巣2~5か所の方が15%程度、6~19か所の方が45%程度、20か所以上の方が30%程度参加しおり、ゾーフィゴおよびプラセボは4週間隔で計6回投与された。

結果、生存期間の中央値は、ゾーフィゴ群14.9か月、プラセボ群11.3か月と死亡リスクを30%軽減した(P<0.001)。また、骨関連事象発現までの期間の中央値も、ゾーフィゴ群15.6か月、プラセボ群9.8か月と発現リスクを34%軽減した(P<0.001)。その他、骨転移時に上昇するALP(アルカリホスファターゼ)の減少が示され、QOL(生活の質)の改善にも寄与する傾向が認められた。

一方、有害事象の発現率はゾーフィゴ群(64.3%)とプラセボ群(56.5%)においてほとんど認められず、有害事象による治療中止率はゾーフィゴ群(16%)はプラセボ群(21%)よりも低かった。

現在、アビラテロン(ザイティガ)やエンザルタミド(イクスタンジ)にゾーフィゴを上乗せする、またはランマークにゾーフィゴを上乗せする臨床試験が実施・検討中とのことである。

上村医師は、ゾーフィゴによる去勢抵抗性前立腺がんの治療概念は以下の通りになると述べた。

なお、放射性医薬品であるゾーフィゴはどこの医療機関でも使用できるわけではなく、がん拠点病院を中心とした最大でも400~500施設に限られるとのこと。

■乳がん対象のゾーフィゴの試験情報
骨転移のみられるHER2陰性乳がん患者 放射性医薬品ラジウム223の第2相臨床試験

記事:可知 健太

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