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BRAF V600変異陽性悪性黒色腫 初回治療にベムラフェニブ+コビメチニブが有効性示唆 The Lancet Oncol

BRAF阻害薬ベムラフェニブ(商品名ゼルボラフ)を用いた進行悪性黒色腫の初回治療で、マイトジェン活性化キナーゼ(MAPK)キナーゼ(MEK)阻害薬コビメチニブ(商品名Cotellic)を併用すると無増悪生存(PFS)期間中央値が12.3カ月。ベムラフェニブ単独療法でのPFS期間中央値(7.2カ月)はコビメチニブ併用療法の6割程度にとどまることがわかった(ハザード比HR)0.58)。
無増悪生存期間:がんの進行を抑える期間とほぼ同義

2016年7月29日のThe Lancet Oncol電子版に第3相無作為化二重盲検試験(coBRIM、NCT01689519)の最新結果が掲載された。coBRIM は米国や欧州、ロシア、イスラエルなどの193施設で2013年1月に開始され、BRAF V600遺伝子変異陽性で切除不能、ステージIIICまたはIVの悪性黒色腫患者495人が登録された大規模試験で、コビメチニブ群、もしくはプラセボ群に1:1に割り付け、ベムラフェニブと併用で投与した。1サイクルを28日としてコビメチニブは60mgを1日1回21日間経口投与(7日間休薬)、ベムラフェニブは960mgを28日間経口投与した。主要エンドポイントはPFS、副次エンドポイントは全生存期間OS)、奏効率、奏効持続期間などであった。

目次

ベムラフェニブ+コビメチニブ併用を初回治療の標準療法として支持

2013年1月8日から2014年1月31日までに、coBRIM試験でベムラフェニブと併用するコビメチニブ群に247人、同プラセボ群に248人が登録され、14.2カ月の追跡期間中央値において、無増悪生存(PFS)期間中央値はコビメチニブ群(12.3カ月)がプラセボ群(7.2カ月)と比べ有意に延長した(p<0.0001)。全体の52%の患者(255人)が死亡していた2015年8月28日の時点での最終解析で、全生存期間(OS)中央値(コビメチニブ群22.3カ月、プラセボ群17.4カ月)もコビメチニブ群がプラセボ群より有意に延長した(p=0.005)。最終解析までにコビメチニブ群の117人、プラセボ群の142人の計259人が死亡し、それぞれ109人(93%)、133人(94%)の死因は病勢進行であった。
グレード3からグレード4の有害事象はコビメチニブ群の方が多く発現し、主にγ-グルタミルトランスフェラーゼ上昇(コビメチニブ群15%、プラセボ群10%)、血中クレアチンホスホキナーゼ上昇(各12%、1%未満)、およびアラニントランスアミナーゼ上昇(各11%、6%)であった。重篤な有害事象はコビメチニブ群37%、プラセボ群28%で、コビメチニブ群に発現した主な重篤事象は発熱(2%)、および脱水(2%)であった。

最終解析において、ベムラフェニブとコビメチニブの併用療法の臨床的有益性が検証され、BRAF V600変異陽性の進行悪性黒色腫患者に対する初回治療としての標準となる可能性を著者らは示唆している。

ベムラフェニブにコビメチニブを併用することで臨床転帰が改善したことを裏付けるcoBRIM試験のデータは、2014年11月13日のThe New England Journal of Medicine誌(371巻20号)に掲載された中間解析結果でもすでに明確であった。追跡期間中央値は7.3カ月と最終解析の約半分であったが、無増悪生存率を予測するカプラン-マイヤー曲線では、50%を下回り始める時期が、コビメチニブ群は治療開始後およそ10カ月、プラセボ群はおよそ6カ月であった。そして、中間解析時点での完全寛解(CR)と部分寛解(PR)を合わせた奏効率が、コビメチニブ群(68%)はプラセボ群(45%)より有意に上回っていた。完全奏効(CR)率はそれぞれ10%、4%であった。

FDA優先審査を経てコビメチニブ承認、BRAF V600変異陽性でベムラフェニブ併用に限定

コビメチニブは2015年11月、米食品医薬品局(FDA)により承認された。BRAF V600EまたはV600K変異を有する切除不能または転移性の悪性黒色腫に対するベムラフェニブとの併用療法を適応とし、BRAF野生型の悪性黒色腫には適応されない。FDAのファストトラック(優先承認審査)指定を受け、優先審査されての承認である。

ベムラフェニブは日本では2014年12月、BRAF V600遺伝子変異を有する治癒切除不能、または転移性の悪性黒色腫の適応で厚労省により承認された。米では2011年、欧州では2012年に同じ適応症で承認されている。

悪性黒色腫は白人に多い皮膚がんであるが、日本人でも年間10万人に1人から2人が発症するといわれている。厚労省の2011年患者調査によると、日本における患者数は約4000人、男女比はほとんど同じだが、高齢になるほど増加する傾向がある。患者の約30~40%はBRAF変異陽性とされ、BRAF V600変異とはBRAF蛋白質のアミノ酸配列600番目のバリンに変異があることを意味する。がん細胞増殖のシグナルに関わるBRAFキナーゼが、変異があるために活性化していることに着目し、活性化していない正常細胞への攻撃を最小化しつつ、がん細胞の分裂・増殖を特異的に阻害する治療がベムラフェニブである。しかし、悪性黒色腫のがん細胞増殖においてはBRAF-MEK-ERKのシグナル(MAPK)経路が中心的役割を果たし、BRAF阻害薬のみの治療では耐性の獲得、あるいは他経路からのMAPK経路の活性化など、がんの方でも生き残るための方策がある。MEKシグナルを阻害するコビメチニブを追加することでがんの生き残り戦術を断つ併用療法となり得るか、今後の臨床試験報告が期待される。

Cobimetinib combined with vemurafenib in advanced BRAFV600-mutant melanoma (coBRIM): updated efficacy results from a randomised, double-blind, phase 3 trial(The Lancet Oncol; Published Online: 29 July 2016)

記事:可知 健太 & 川又 総江

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