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腎細胞がんを対象とするマルチキナーゼ阻害薬スニチニブ術後療法の第3相試験
再発ハイリスク患者の腎摘出後服用で再発・進行リスク低下、プラセボとの有意差達成 NEJM
複数の受容体チロシンキナーゼを阻害する分子標的薬スニチニブ(商品名スーテント)が、腎細胞がん(RCC)の腎摘出後再発リスクの高い患者を対象とする術後療法で無病生存期間(DFS)を延長し、進行・再発リスクを約26%低下させることが示された。
2016年10月7日から11日までデンマークで開始された第40回欧州臨床腫瘍学会(ESMO)のプレジデンシャルシンポジウムで、フランスCHU Bordeaux Hopital St. AndreのAlain Ravaud氏らが第3相試験(S-TRAC、NCT00375674)の結果を発表し、2016年10月10日のNew England Journal of Medicine(NEJM)にも論文が掲載された。
スニチニブリンゴ酸塩(スーテントカプセル)は、日本で2008年6月に発売されたマルチキナーゼ阻害薬で、根治切除不能または転移性の腎細胞がん(RCC)、イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍(GIST)、並びに膵神経内分泌腫瘍(NET)を効能・効果として承認されている。
腎摘出術後補助化学療法 スーテントvsプラセボ
2007年9月19日から2011年4月7日、米国、欧州、中国、韓国など21カ国、99施設で実施された無作為化二重盲検前向き試験で、ステージ3以上、リンパ節局所転移ありの一方、または両方に該当する局所性明細胞腎細胞がん(RCC)で、全身薬物療法歴がなく、腎摘出術後3週間から12週間の患者615人が登録され、スニチニブ群に309人、プラセボ群に306人が割り付けられた。スニチニブ1日50mg、またはプラセボを連日4週間経口投与後、2週間休薬するスケジュールを1年間反復した。スニチニブは、毒性に応じて投与中断、または1日37.5mgへの減量を可能とした。主要評価項目は第三者機関判定の全解析対象無病生存期間(DFS)、副次評価項目は試験者判定の全解析対象無病生存期間、再発ハイリスクの条件を満たす患者集団の無病生存期間、全生存期間(OS)、安全性、および生活の質(QOL)など患者自己評価項目であった。
ハイリスク集団の無病生存期間がプラセボ群より2.2カ月延長、再発・進行リスクが26%低下~
データカットオフの2016年4月7日までに、スニチニブ群の170人、プラセボ群の212人が治療を完了し(各完了率55.6%、69.4%)、治療期間中央値はともに12.4カ月であった。スニチニブ群の136人、プラセボ群の92人は病勢進行や有害事象など何等かの理由で治療を中止していた。
主要評価項目である第三者機関判定の全解析対象無病生存期間(DFS)中央値は、スニチニブ群(6.8カ月)がプラセボ群(5.6カ月)と比べ有意に延長し、ハザード比(HR)は0.76であった。副次評価項目である第三者機関判定のハイリスク解析対象の無病生存期間中央値もスニチニブ群(6.2カ月)がプラセボ群(4.0カ月)と比べ有意に延長し、ハザード比は0.74であった。
副次評価項目である全生存期間(OS)は、データカットオフ時点で中央値特定には至らず、死亡率はスニチニブ群20.7%(64人)、プラセボ群20.9%(64人)であった。
安全性~スーテント投与で手足症候群、高血圧等が増加~
治療に関連するグレード3以上の有害事象の発現患者割合は、スニチニブ群(63.4%)がプラセボ群(21.7%)より高く、グレード5(各1.6%、1.6%)は同じで、重篤な有害事象(各21.9%、17.1%)も同程度であった。有害事象を理由とする用量減量の患者割合もスニチニブ群(34.3%)がプラセボ群(2.0%)より高く、投与中断の患者割合(各46.4%、13.2%)、治療中止の患者割合(各28.1%、5.6%)もスニチニブ群が高かった。スニチニブの毒性に起因する死亡はなかった。スニチニブ群に認められたグレード3以上の主な有害事象は、手掌足底発赤知覚不全(手足症候群)、高血圧、血小板減少症などで、プラセボ群では疲労、高血圧などであった。
スニチニブの腎細胞がん術後療法での適応拡大は可能か?
局所性腎細胞がん(RCC)で腎摘出術を受けた場合、術後最大40%の患者は転移を伴って再発すると報告されている。術後療法が再発リスクを低下させるというデータは、これまで限られたものしかなかったことを踏まえ、Ravaud氏はスニチニブが術後療法の新たな選択肢になり得ると結論した。摘出術後RCCの標準治療が確立されていない現状では、本試験結果が臨床現場に投げかける意義は大きいとしている。
これに対し、英BartsがんセンターのThomas Powels氏は時期尚早とコメントしている。「本試験のほかにも無病生存期間(DFS)が延長するという一貫したデータが得られなければ、自分が担当する患者の術後補助療法にスニチニブは薦められない。しかも、極めて近いデザインで行われた別の試験(ASSURE)ではDFSも全生存期間(OS)も有意差を達成しておらず、多くの不確かさが残っている。DFSは重要なエンドポイントであるが、ゴールドスタンダードであるOSには必ずしも反映しない。ポジティブな生存シグナル、あるいはDFSのメタアナリシスが必要で、同様の術後腎細胞がんを対象とする他の試験が実施され、それらの結果報告を楽しみにしている」(ESMO Press Release 2016.10.10)
記事:可知 健太 & 川又 総江