血管新生に働く血管内皮細胞増殖因子受容体2(VEGFR2)を標的とするモノクローナル抗体ラムシルマブ(商品名サイラムザ)は、日本では胃がん、大腸がん、および非小細胞肺がんの治療薬として承認されているが、膀胱がんで最も多い尿路上皮がんの二次治療として、タキソイド系化学療法薬のドセタキセルと併用することにより、ドセタキセル単剤よりも増悪リスクを低下させることが示された。
化学療法単剤を上回る無増悪生存(PFS)期間をもたらす併用療法であることを初めて実証した大規模第3相試験(RANGE、NCT02426125)で、2017年9月8日から12日までスペイン・マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)のLate Breaking Abstract(LBA)枠で発表され、同年9月12日のLancetオンラインに論文が掲載された。
目次
RANGE対象:プラチナ一次治療後14カ月以内、免疫チェックポイント阻害薬の治療経験者は24カ月以内に増悪した尿路上皮がん患者530例
米国や欧州、日本、台湾、オーストラリア、メキシコなど23カ国、124施設で実施されているRANGEは、プラチナ製剤を含む化学療法の一次治療で14カ月以内に局所進行、または転移が認められた切除不能の尿路上皮がん患者を対象とする無作為化二重盲検試験で、対照群はドセタキセル単剤群、試験薬群はドセタキセル×サイラムザ併用群である。対象には、プラチナ製剤を含む化学療法終了後、24カ月以内に免疫チェックポイント阻害薬単剤の治療で再発した患者も含め、登録患者は計530例で、サイラムザ併用群は263例、ドセタキセル単剤群は267例であった。サイラムザは10mg/kg、ドセタキセルは75mg/m2を21日ごとに静注し、ドセタキセルは最長6サイクル、状況に応じて最長10サイクルまで投与を反復した。
その結果、2015年7月に登録が開始され、本中間解析のデータカットオフである2017年4月21日時点で、サイラムザ併用群の19%(49/263例)、ドセタキセル単剤群の13%(36/267例)が治療を継続していた。追跡期間の中央値は5.0カ月(20週間)で、治療期間中央値はサイラムザ併用群が12.1週間、ドセタキセル単剤群は9.9週間、ドセタキセルの投与サイクル数中央値はそれぞれ4サイクル、3サイクルであった。ドセタキセルの投与を6サイクル以上実施できた患者の割合(各36%、32%)、およびドセタキセルの相対的用量強度(各98.35、98.8%)は両群同等であった。そして、ドセタキセルの投与終了後、サイラムザ併用群でサイラムザ単剤の投与を継続した64例において、追加投与サイクル数中央値は3サイクル、ドセタキセル単剤群でプラセボ単剤の投与を継続した60例において、追加投与サイクル中央値は2サイクルであった。
サイラムザ併用で12カ月無増悪の患者はおよそ1割と推定
主要評価項目である無増悪生存(PFS)期間中央値は、試験者判定でサイラムザ併用群(4.07カ月)がドセタキセル単剤群(2.76カ月)と比べ有意に延長し(p=0.0118)で、増悪リスクは24.3%低下した(ハザード比[HR]=0.757)。治療後12カ月の無増悪生存(PFS)率はサイラムザ併用群(11.9%)がドセタキセル単剤群(4.5%)より2倍以上上昇することが予測された。
独立委員会判定でもほぼ同程度の結果が得られ、PFS期間中央値はサイラムザ併用群(4.04カ月)がドセタキセル単剤群(2.46カ月)と比べ有意に延長し(p=0.0005)、増悪リスクは32.8%低下した(HR=0.672)。
年齢や性別、人種、転移部位、リスク因子数、前治療などに基づくほとんどの層別解析でも、サイラムザ併用群の増悪リスクはドセタキセル単剤群より低下することが確認された。
サイラムザ併用で奏効率24%、病勢コントロール率63%
奏効率は初回解析対象の計437例(サイラムザ併用群216例、ドセタキセル単剤群221例)で算出された。試験者判定、独立委員会判定によるサイラムザ併用群の奏効率(各24.5%、22.2%)は、ともにドセタキセル単剤群(各14.0%、12.7%)に2倍近くに迫り、試験者判定で完全奏効(CR)に達したのは、サイラムザ併用群9例、ドセタキセル単剤群3例であった。完全奏効(CR)と部分奏効(PR)、および病勢安定(SD)を含めた患者の割合(病勢コントロール率)も、サイラムザ併用群(63.4%)がドセタキセル単剤群(56.1%)より高かった。
なお、試験デザイン上、奏効率の優越性は、全生存期間(OS)の優越性が確定した場合に公式に認められることになっている。OS中央値はまだ特定していない。
また、免疫チェックポイント阻害薬の治療歴を有する患者集団における奏効率は、サイラムザ併用群が36%(5/14例)、ドセタキセル単剤群が11%(2/19例)であった。
サイラムザ併用でも安全性レベル保持、生活の質に無影響
グレード3以上の有害事象の発現率はサイラムザ併用群(60%[156/258例])とドセタキセル単剤群(62%[163/265例])の間に差はなく、サイラムザ併用群がドセタキセル単剤群より5%以上高い発現率のグレード3事象は認められなかった。しかも、グレード3以上の貧血の発現率はサイラムザ併用群(3%[7例])の方がドセタキセル単剤群(11%[28例])より低く、グレード3以上の好中球減少症は同等であった(各15%[39例]、14%[36例])。
サイラムザなど血管新生阻害薬投与時の特定関心イベントで、サイラムザ併用群(258例)の発現率がドセタキセル単剤群(265例)より高かった有害事象は、いずれもグレード1またはグレード2の鼻出血(各14%、5%)、高血圧(各11%、5%)、血尿(各10%、6%)、および蛋白尿(各9%、3%)であった。
投与の中断や省き、用量の減量といった投与調節の理由となった有害事象を発現した患者の割合は、サイラムザ併用群(34%[88/258例])とドセタキセル単剤群(31%[82/265例])の間に差はなく、主な事象は発熱性好中球減少症(各4%、4%)であった。投与中止の理由となった有害事象の発現率(各15%、7%)はサイラムザ併用群の方が高く、サイラムザ併用群では主に敗血症(2%)による中止であった。
治療期間中、または治療中止・終了後30日以内の試験薬との因果関係の否定できない死亡は、サイラムザ併用群8例(3%)、ドセタキセル群5例(2%)で、サイラムザ併用群は8例中4例(2%)が敗血症により死亡した。ドセタキセル単剤群で敗血症による死亡例はなかった。
二次治療にもかかわらず、生活の質(QOL)の評価指標で患者自身が申告したスコアは両群ともに悪化することはなかった。
プラチナ製剤と免疫療法が効かない尿路上皮がんの標準療法は?
転移性尿路上皮がんの標準療法として、現在の全身化学療法では5年生存率が5%程度である。一次治療とは別の化学療法自体が二次治療になり得るが、それでも生存期間中央値は7カ月程度が一般的である。プラチナ製剤が不適格の患者を対象として米国で用いられている免疫チェックポイント(PD-1/PD-L1)標的抗体ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)、またはアテゾリズマブ(海外商品名Tecentriq)でも、奏効率は15%から20%と報告されている。二次治療として有力な選択肢がない現実がある。
ESMO演者でLancet論文著者のDaniel P. Petrylak氏(米国Yaleがんセンター)は、RANGEの試験データに基づくと、プラチナ製剤に反応しない進行、または転移のある尿路上皮がんで免疫チェックポイント阻害薬の治療でも進行、または再発した患者、あるいは免疫チェックポイント阻害薬が不適格とされた患者では、サイラムザとドセタキセルの併用療法が標準治療として妥当」と結論した。
一方、スイスKantonsspital GraubundenのRichard Cathomas氏はESMO声明の中で、Petrylak氏によるデータの解釈をそのまま認めるには注意が必要であり、RANGEのみのデータでは結論を出すには早すぎるとした。そのうえで、サイラムザを追加することで奏効率が上昇したことは、尿路上皮がんの治療としては一定の成果であり、血管新生阻害作用というメカニズムが治療の一部に寄与する可能性は否定しなかった。「ただ、無増悪生存(PFS)期間中央値の1.3カ月の延長というのは、統計学的有意差は証明されているものの、実臨床ではどう捉えるかが疑問。別の癌種の臨床試験でも過去に例があるように、無増悪生存(PFS)の改善が全生存期間(OS)のベネフィットに反映するかどうかは、見届けるまでまだわからない」と語った。