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悪性胸膜中皮腫の初回治療 標準療法と血管新生阻害薬オフェブの併用で増悪リスク半減

ニンテタニブ(商品名オフェブ)は、特発性肺線維症の治療薬として日本では2015年8月から販売されている抗線維化薬である。悪性胸膜中皮腫の初回治療として、標準的な併用化学療法ペメトレキセド×シスプラチン)にオフェブを追加して投与した結果、標準療法のみの対照群と比べ増悪リスクが46%低下した。これは、未治療で切除不能の悪性胸膜中皮腫患者(上皮型、または二相型)を対象とする第2/3相無作為化二重盲検試験(LUME-Meso、NCT01907100)の第2相パートの中間解析結果で、2017年9月11日のJournal of Clinical oncology(JCO)に掲載された。

目次

標準化学療法6サイクルに併用、オフェブカプセル服用期間は最長33.2カ月

LUME-Mesoの第2相試験は、2013年9月から2014年12月、オーストラリア、カナダ、欧州、および米国の18施設で87例が登録され、ペメトレキセド×シスプラチンの標準療法と併用してオフェブ、またはプラセボを投与した(各44例、43例)。1サイクルを21日として標準療法を6サイクル反復し、オフェブ200mg、またはプラセボは各サイクルの2日目から21日目まで1日2回経口投与した(各オフェブ併用群、標準療法単独群)。併用療法期間に病勢進行が認められなかった場合は、オフェブ、またはプラセボ単剤の投与継続を可能とした。

登録患者集団の年齢中央値は67歳で、79%が男性、組織型は89%が上皮型であった。70%の患者は過去にアスベスト(石綿)曝露の経験があった。

追跡期間の中央値は29.0カ月で、治療期間中央値はオフェブ併用群7.8カ月、標準療法単独群5.3カ月であった。標準療法の投与サイクル中央値は両群ともに6サイクルで、オフェブ併用群、標準療法単独群ともに50%超える患者がペメトレキセドとシスプラチンを6サイクル投与された。オフェブ併用群(44例)のオフェブ用量強度は92.2%、ペメトレキセド、およびシスプラチンの用量強度はそれぞれ95.8%、96.5%、標準療法単独群(41例)のプラセボ用量強度は98.0%で、ペメトレキセド、およびシスプラチンの用量強度はそれぞれ98.8%、98.1%であった。

全解析対象の12カ月全生存率はオフェブ併用群73%、標準療法単独群65%

主要評価項目である無増悪生存(PFS)期間中央値の最新データ(データカットオフ2017年1月19日)では、オフェブ併用群(9.4カ月)が標準療法単独群(5.7カ月)と比べ有意に延長し(p=0.010)、増悪リスクは46%低下した(ハザード比[HR]=0.54)。PFSの延長に伴い、全生存期間OS)中央値はオフェブ群(18.3カ月)が標準療法単独群(14.2カ月)より延長する傾向を示し(p=0.319)、死亡リスクは23%低下した(HR=0.77)。

年齢や性別、ECOG活動度スコア、喫煙歴、アスベスト曝露経験の有無、または転移病変数などすべての因子別解析でも無増悪生存(PFS)期間、および全生存期間(OS)の中央値は、いずれもオフェブ併用群の方が標準療法単独群より延長した。

上皮型集団の12カ月無増悪生存率はオフェブ併用群31%、標準療法単独群8%

上皮型の悪性胸膜中皮腫患者集団(オフェブ併用群39例、標準療法単独群38例)ではオフェブ併用の有益性が顕著に表れた。PFS期間中央値は、オフェブ併用群(9.7カ月)が標準療法単独群(5.7カ月)と比べ4.0カ月有意に延長し(p=0.006)、増悪リスクが51%低下した(HR=0.49)。OS中央値もオフェブ併用群の延長傾向が強まり(各20.6カ月、15.2カ月)、死亡リスクが30%低下した(p=0.197、HR=0.70)。

なお、二相型の悪性胸膜中皮腫患者は合計わずか10例と少なかったため、信頼性の高いPFSやOSの解析結果を示すことはできなかった。

奏効率は、オフェブ併用群が56.8%(25/44例)、標準療法単独群が44.2%(19/43例)で、両群ともすべて部分奏効(PR)であった。

標準療法へのオフェブ追加による毒性増強なし

グレード3以上の有害事象はオフェブ併用群(79.5%)が標準療法単独群(53.7%)より多く認められ、そのうち、好中球減少症はオフェブ併用群の発現率(43.2%)が標準療法単独群(12.2%)より4倍近く高かったものの、発熱性好中球減少症(各4.5%、0%)は低かった。

治療中止理由となった有害事象の発現率は、オフェブ併用群(6.8%、3例)が標準療法単独群(17.1%、7例)の半分以下で、オフェブ併用群の3例はそれぞれ上腹部痛・嘔吐、AST上昇・血中アルカリホスファターゼ上昇、好中球減少症・形成不全・クレブシエラ肺炎であった。下痢を理由とする中止例はなかった。

オフェブの血管新生阻害作用で懸念される関心有害事象は特に増加することなく、むしろオフェブ併用群の方が少なかった。すなわち、出血(オフェブ併用群11.4%、標準療法単独群12.2%)は同等で、消化管穿孔(各0%、2.4%)、血栓塞栓症(各9.1%、17.1%)、静脈血栓塞栓症(各6.8%、14.6%)はオフェブ併用群が少なかった。動脈血栓塞栓症は両群ともに認められなかった。

以上、悪性胸膜中皮腫の初回標準化学療法にオフェブを追加することの臨床的意義が明確に認められ、忍容性も良好であった。特に、上皮型の悪性胸膜中皮腫に対する有用性の高さが期待されたことから、第3相パートでは上皮型と診断された患者に限定し、2016年5月から登録を開始している。

血管新生シグナル阻害と胸膜中皮腫細胞への直接作用で複数分子標的治療

悪性胸膜中皮腫の発症にはアスベスト(石綿)曝露が関与することが知られており、潜伏期間が長く、早期発見が難しい。胸痛や咳の症状や胸水が出現しても肺がんと鑑別しにくい場合も多く、確定診断された時には病期が進行していることも少なくない。外科的切除が不可能な状態で行う全身化学療法の標準となっているのは、ペメトレキセド×シスプラチンの併用療法である。LUME-Mesoでは、同併用療法の治療成績を向上させることを目的として、血管新生や線維化のシグナル伝達を阻害するマルチキナーゼ阻害薬オフェブを組み合わせた。

オフェブを選択した根拠は、血管内皮増殖因子(VEGF)標的抗体ベバシズマブ(商品名アバスチン)を標準療法に併用した臨床試験で、無増悪生存(PFS)期間延長や全生存期間(OS)延長といった生存ベネフィットが得られたという有効性データにある。オフェブはVEGF受容体(VEGFR)のシグナルのみならず、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、さらにはSrc、Ablキナーゼをも阻害するマルチキナーゼ阻害薬で、悪性胸膜中皮腫の治療標的分子複数を阻害するため、アバスチンよりも併用パートナーとしての有用性が高いと期待した。VEGFのシグナルは胸膜中皮腫の病態生理に重要な役割を果たすことは以前からわかっており、SrcとAblのキナーゼは中皮腫細胞の遊走に関与している。また、胸膜中皮腫はFGFを過剰発現すると報告されている。しかも、静注するアバスチンより、内服のカプセル剤であるオフェブは患者、医療者双方の投与負担も少ないことも大きなメリットである。

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