2017年11月9日、医学誌『The New England Journal of Medicine』にて術後5年間の内分泌療法を継続投与した後に中止したホルモン受容体陽性乳がん患者を対象に遠隔再発率を検証したメタアナリシス解析の試験結果が公表された。
本試験では、術後5年間の内分泌療法を継続投与した後に中止したホルモン受容体陽性乳がん患者(N=62923人)を対象に、がんの大きさと浸潤を示すT因子(Primary Tumor)、リンパ節転移を示すN因子(regional lymph Nodes)、Tumor Gradeなどの因子別に患者を分類し、Kaplan-Meier分析、Cox回帰分析によりその患者における遠隔転移再発率を検証している。
本試験の結果、遠隔再発率はTMN分類におけるT因子、N因子と非常に相関関係があることが証明された。例えばT因子がT1の状態の場合、T1N0患者における遠隔再発率が13%であるのに対してT1N1-3患者は20%、T1N4-9患者は34%であった。
またT因子がT2の状態の場合、T2N0患者における遠隔再発率が19%であるのに対してT2N1-3患者は26%、T2N4-9患者は41%であった。以上のように、遠隔再発率とT因子とN因子の状態は重要な関連性が確認された。ただし、対側乳がんにおける遠隔再発率とT因子とN因子の状態の間には臨床的意義のある関連性は確認されなかった。
一方で、T因子とN因子の条件を揃えた患者を対象にT因子、N因子以外に遠隔再発率に臨床的意義のある関連性を示す可能性のあるTumor Grade、Ki67、HER2、プロゲステロン受容体などの因子との関係性を検証している。その結果、Tumor Grade、Ki67の因子は遠隔再発率を予測する関係性が適度にあることが確認された。なお、T1N0患者におけるTumor Grade別の遠隔再発率はTumor Grade(低度)10%、中等度13%、高度17%であった。
以上のメタアナリシス解析の結果を受けて、オックスフォード大学所属で本論文のファーストオーサーでもあるHongchao Pan氏は以下のように述べている。”5年間の術後内分泌療法を継続投与後でも、乳がんは再発する危険性があることが本研究により示唆されました。T因子とN因子の状態と遠隔再発する危険性は相関性が非常に高く、T因子とN因子の状態、Tumor Gradeに応じて遠隔再発する可能性が10%から41%程度確認されました。”
今回のメタアナリシス解析より得られた知見は、ホルモン受容体陽性乳がんに対する術後療法の標準治療を再考することになるだろう。本邦の『乳癌診療ガイドライン』によれば、閉経前ホルモン受容体陽性乳がんに対する術後内分泌療法としては5年間のタモキシフェン(商品名ノルバデックス;以下ノルバデックス)投与が推奨度A、10年間のノルバデックス投与が推奨度Bである。また、治療前は閉経前であったが,ノルバデックスの5年間投与を完了し,閉経が確認された場合はアロマターゼ阻害薬の追加5年間投与が推奨度Bである。
しかし、メタアナリシス解析によれば術後5年間の内分泌療法を継続投与した後に中止したホルモン受容体陽性乳がん患者の中でも、T因子とN因子の状態、Tumor Gradeに応じて遠隔再発リスクが高まることが示唆された。つまり、乳癌診療ガイドラインにより推奨度Aとして5年間のノルバデックス投与が推奨されてはいるが、患者の状態に応じて治療方法を変更することで遠隔再発率を低下させる可能性が示唆されたのだ。