この記事の3つのポイント
・悪性黒色腫の約3〜5%を占める眼内(ブドウ膜)黒色腫は超希少がん。現在のところ有効な治療方法が確立されていない
・ダカルバジンにMEK阻害薬セルメチニブを併用しても、無増悪生存期間が延長しなかった
・転移性眼内(ブドウ膜)黒色腫患者129名を対象としたランダム化比較試験結果
2018年3月12日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にて転移性眼内(ブドウ膜)黒色腫患者に対するMEK1/2阻害薬であるセルメチニブ(AZD6244, ARRY-142886)+ダカルバジン併用療法の有効性を検証した第III相のSUMIT試験(NCT01974752)の結果がColumbia University School of Medicine・Richard D. Carvajal氏らにより公表された。
SUMIT試験とは、前治療歴のない転移性眼内(ブドウ膜)黒色腫患者(N=129人)に対して21日を1サイクルとして1日2回セルメチニブ75mg+1日目にダカルバジン1000mg/m2を病勢進行または治療継続困難になる有害事象(AE)が発症するまで投与継続する群(N=97人)、21日を1サイクルとして1日2回プラセボ+1日目にダカルバジン1000mg/m2を病勢進行または治療継続困難になる有害事象(AE)が発症するまで投与継続する群(N=32人)に3:1の割合で無作為に振り分け、主要評価項目として盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目として全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、治療持続期間(DOR)、有害事象(AE)発症率などを比較検証した国際多施設共同二重盲検化下の第III相試験である。
本試験に登録された患者背景は下記の通りである。年齢中央値はセルメチニブ群63歳(2-86歳)、プラセボ群58歳(42ー84歳)。性別はセルメチニブ群女性43%(N=42人)、男性57%(N=55人)、プラセボ群女性59% 男性41%(N=13人)。人種はセルメチニブ群白人99%(N=96人)、その他1%(N=1人)、プラセボ群白人97%(N=31人)、その他3%(N=1人)。ECOG Performance Statusスコア割合はセルメチニブ群スコア0が74%(N=72人)、1が26%(N=25人)、プラセボ群スコア0が69%(N=22人)、1が31%(N=10人)。
原発腫瘍部位はセルメチニブ群で脈絡膜89%(N=86人)、毛様体7%(N=7人)、虹彩1%(N=1人)、不明3%(N=3人)、プラセボ群で脈絡膜91%(N=29人)、毛様体13%(N=4人)、虹彩0%(N=0人)、不明0%(N=0人)。肝転移の有無はセルメチニブ群でありの患者92%(N=89人)、なしの患者8%(N=8人)、プラセボ群でありの患者94%(N=30人)、なしの患者6%(N=2人)。
原発腫瘍診断後より試験無作為化までの期間はセルメチニブ群で18ヶ月以内55%(N=53人)、18.1ヶ月以上36ヶ月以内21%(N=20人)、36.1ヶ月以上44%(N=43人)、不明0%(N=0人)、プラセボ群で18ヶ月以内22%(N=7人)、18.1ヶ月以上36ヶ月以内19%(N=6人)、36.1ヶ月以上56%(N=18人)、不明3%(N=1人)。遺伝子変異ステータスはセルメチニブ群でGNAQ遺伝子変異陽性38%(N=23人)、GNA11遺伝子変異陽性55%(N=33人)、GNAQ遺伝子変異陽性GNA11遺伝子変異陽性7%(N=4人)、プラセボ群でGNAQ遺伝子変異陽性50%(N=9人)、GNA11遺伝子変異陽性44%(N=8人)、GNAQ遺伝子変異陽性GNA11遺伝子変異陽性6%(N=1人)。
上記背景を有する患者に対してセルメチニブ+ダカルバジン併用療法などを投与した本試験の結果は下記の通りである。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値はセルメチニブ群2.8ヶ月に対してプラセボ群1.8ヶ月、セルメチニブ群で病勢進行または死亡のリスクが22%減少(ハザードリスク比:0.78,95%信頼区間:0.48-1.27,P=0.32)するも統計学的有意な差は確認されなかった。なお、3ヶ月無増悪生存期間(PFS)はセルメチニブ群38%に対してプラセボ群26%、6ヶ月無増悪生存期間(PFS)はセルメチニブ群10%に対してプラセボ群18%である。
副次評価項目である全生存期間(OS)はプラセボ群に対してセルメチニブ群で死亡のリスク25%減少するも統計学的有意な差は確認されなかった(ハザードリスク比0.75,95%信頼区間:0.39-1.46,P=0.40)。客観的奏効率(ORR)はセルメチニブ群3%(N=3人)に対してプラセボ群0%(N=0人)、全生存期間(OS)同様に統計学的有意な差は確認されなかった(P=0.36)。なお、部分奏効(PR)を達成した3人の患者の奏効持続期間(DOR)はそれぞれ43日、56日、146日であった。
一方の安全性として、グレード3以上の治療関連有害事象(TRAE)はセルメチニブ群63%
(N=61人)に対してプラセボ群53%(N=17人)。治療関連有害事象(TRAE)のために入院した患者割合はセルメチニブ群18%(N=17人)に対してプラセボ群6%(N=2人)、死亡した患者割合はセルメチニブ群1%(N=1人)に対してプラセボ群0%(N=0人)である。
プラセボ群に対してセルメチニブ群で多く確認された治療関連有害事象(TRAE)は下記の通りである。吐き気はセルメチニブ群62%に対してプラセボ群19%、皮膚障害はセルメチニブ群57%に対してプラセボ群6%、疲労はセルメチニブ群44%に対してプラセボ群47%、下痢はセルメチニブ群44%に対してプラセボ群22%、末梢浮腫はセルメチニブ群43%に対してプラセボ群6%であった。
以上のSUMIT試験の結果より、Richard D. Carvajal氏らは以下のように結論を述べている。”未治療転移性眼内(ブドウ膜)黒色腫患者さんに対してセルメチニブ+ダカルバジン併用療法は良好な安全性プロファイルを示すも、プラセボ群に比べて無増悪生存期間(PFS)を統計学的有意な差を示すことはできなかった。”