・腹膜播種を伴う胃がん患者に対するティーエスワン+パクリタキセル(IP)経静脈・腹腔内併用療法の主要評価項目である全生存期間(OS)中央値は17.7ヶ月に対してティーエスワン+シスプラチン(SP)併用療法15.2ヶ月(P=0.080)であった
・副次評価項目である奏効率(RR rate)はIP経静脈・腹腔内併用療法53%に対してSP併用療法は60%を示した
・IP経静脈・腹腔内併用療法の主なグレード3または4の治療関連有害事象(TRAE)は白血球減少症、好中球減少症、貧血、そして食欲不振であった
2018年5月10日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にて腹膜播種を伴う胃がん患者に対するテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合(商品名ティーエスワン;以下ティーエスワン)+パクリタキセル経静脈・腹腔内併用療法の有効性を検証した第III相のPHOENIX-GC試験(UMIN000005930)の結果が東京大学医学部附属病院・石神浩徳氏らにより公表された。
PHOENIX-GC試験とは、腹膜播種を伴う胃がん患者(N=164人)に対してティーエスワン+パクリタキセル(IP)経静脈・腹腔内併用療法を投与する群(N=114人)、またはティーエスワン+シスプラチン(SP)併用療法を投与する群(N=50人)に2:1の割合で無作為に振り分け、主要評価項目として全生存期間(OS)、副次評価項目として部分奏効(PR)または完全奏効(CR)を達成した患者割合として定義された奏効率(RR rate)、3年全生存率(OS rate)、安全性などを比較検証した国内多施設共同の第III相試験である。
本試験に登録された患者背景は下記の通りである。年齢中央値はIP群で60歳(25-74歳)、SP群で63歳(37-72歳)。性別はIP群で男性57%(N=65人)、女性43%(N=49人)、SP群で男性50%(N=25人)、女性50%(N=25人)。ECOG Performance StatusはIP群でスコア0が73%(N=83人)、スコア1が27%(N=31人)、SP群でスコア0が72%(N=36人)、スコア1が28%(N=14人)。
化学療法の前治療歴はIP群であり23%(N=26人)、なし77%(N=88人)、SP群であり24%(N=12人)、なし76%(N=38人)。腹膜播種の進行度合いはIP群でP1が3%(N=3人)、P2/P3が97%(N=111人)、SP群でP1が6%(N=3人)、P2/P3が94%(N=47人)。胃がん種類はIP群で分化型18%(N=20人)、未分化型82%(N=94人)、SP群で分化型28%(N=14人)、未分化型72%(N=36人)。腹水の量はIP群でなし37%(N=42人)、少量(骨盤腔内)30%(N=34人)、適量(骨盤腔外)33%(N=38人)、SP群でなし58%(N=29人)、少量28%(N=14人)、適量14%(N=7人)。なお、両者の患者背景において腹水量(P=0.015)以外の違いは確認されなかった。
以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。主要評価項目である全生存期間(OS)中央値はIP群17.7ヶ月(95%信頼区間:4.7-21.5ヶ月)に対してSP群15.2ヶ月(95%信頼区間:12.8-21.8ヶ月)、IP群で死亡のリスクを28%減少するも両群間に統計学有意な差は確認されなかった(ハザードリスク0.72,95%信頼区間:0.49-1.04,P=0.080)。
副次評価項目である3年全生存率(OS rate)はIP群21.9%(95%信頼区間:14.9%-29.9%)に対してSP群6.0%(95%信頼区間:1.6%-14.9%)、奏効率(RR rate)はIP群53%(95%信頼区間:31%-74%)に対してSP群60%(95%信頼区間:12%-77%)であった。
なお、本試験では全生存期間(OS)のサブグループ解析も実施しており、腹水のない、少量(骨盤腔内)、適量(骨盤腔外)のいずれの患者群においてSP群よりもIP群で統計学的有意に延長した(P=0.001)。また、試験参加時に腹膜播種ありの患者はIP群82%(N=93/114人)、SP群78%(N=31/40人)であったのに対して、治療介入後に腹膜播種なしとなった患者はIP群76%(N=69/91人)、SP群33%(N=3/9人)であった。
一方の安全性として、両群で最も多くの患者で確認されたグレード3または4の治療関連有害事象(TRAE)は白血球減少症、好中球減少症、貧血、そして食欲不振であった。また、SP群に比べてIP群で多かったグレード3または4の治療関連有害事象(TRAE)は白血球減少症(IP群29%:SP群9%, P=0.023)、好中球減少症(IP群50%:SP群30%, P=0.028)。なお、非血液系治療関連有害事象(TRAE)においては両群間で差はなかった。
以上のPHOENIX-GC試験の結果より石神浩徳氏らは以下のように結論を述べている。”腹膜播種を伴う胃がん患者さんに対し、IP経静脈・腹腔内併用療法はSP併用療法に比べて主要評価項目である全生存期間(OS)の優越性を示すことはできませんでした。しかし、サブグループ解析の結果よりIP経静脈・腹腔内併用療法により臨床的意義ある患者さんの特徴を示しました。”