・トリプルネガティブ乳がん患者に対するカルボプラチン単剤療法の客観的奏効率(ORR)は31.4%に対してドセタキセル単剤療法は34.0%(P=0.66)である
・生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有するトリプルネガティブ乳がん患者に対するカルボプラチン単剤療法の客観的奏効率(ORR)は68%に対してドセタキセル単剤療法は33.3%(P=0.03)である
・生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有するトリプルネガティブ乳がん患者に対するカルボプラチン単剤療法の無増悪生存期間(PFS)中央値は6.8ヶ月に対してドセタキセル単剤療法は4.4ヶ月(P=0.002)である
2018年4月30日、医学誌『Nature Medicine』にてトリプルネガティブ乳がん患者に対してカルボプラチン単剤療法とドセタキセル単剤療法の有効性を比較検証した第III相のTNT試験(NCT00532727)の生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有する患者群のサブグループ解析の結果がThe Institute of Cancer Research・Andrew Tutt氏らにより公表された。
TNT試験とは、トリプルネガティブ乳がん患者(N=376人)に対してカルボプラチン単剤療法を投与する群(N=188人)、またはドセタキセル単剤療法を投与する群(N=188人)に無作為に振り分け主要評価項目として客観的奏効率(ORR)、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性などを比較検証した第III相試験である。なお、トリプルネガティブ乳がん患者(N=376人)の内、生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有する患者が43人(BRCA1遺伝子変異陽性31人,BRCA2遺伝子変異陽性12人)いる。
本試験の結果、全患者群における主要評価項目である客観的奏効率(ORR)はカルボプラチン群31.4%に対してドセタキセル群34.0%、両群間で統計学有意な差は確認されなかった(P=0.66)。
副次評価項目である全患者群における無増悪生存期間(PFS)中央値はカルボプラチン群3.1ヶ月(95%信頼区間:2.4-4.2ヶ月)に対してドセタキセル群4.4ヶ月(95%信頼区間:4.1-5.1ヶ月)、 両群間で統計学有意な差は確認されなかった(P=0.40)。
全患者群における全生存期間(OS)中央値はカルボプラチン群12.8ヶ月(95%信頼区間:10.6-15.3ヶ月)に対してドセタキセル群12.0ヶ月(95%信頼区間:10.2-13.0ヶ月)、 両群間で統計学有意な差は確認されなかった(P=0.96)。
一方、生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有する患者群における主要評価項目である客観的奏効率(ORR)はカルボプラチン群68%(N=17/25人)に対してドセタキセル群33.3%(N=6/18人)、カルボプラチン群で統計学有意な差が確認された(P=0.03)。なお、生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有しない患者群における客観的奏効率(ORR)はカルボプラチン群28.1%(N=36/128人)に対してドセタキセル群34.5%(N=50/145人)、両群間で統計学有意な差は確認されなかった(P=0.30)。
また、副次評価項目である生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有する患者群における無増悪生存期間(PFS)中央値はカルボプラチン群6.8ヶ月に対してドセタキセル群4.4ヶ月、カルボプラチン群で統計学有意な差が確認された(P=0.002)。しかし、もう一方の副次評価項目である生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有する患者群における全生存期間(OS)中央値においては両群間で統計学有意な差は確認されなかった。
なお、生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有するの患者群をBRCA1遺伝子変異を有する患者(N=31人)、BRCA2遺伝子変異を有する患者(N=12人)の2群間に分けたサブグループ解析も実施したが、臨床的意義のある結果を見出せなかった。
一方の安全性としては、カルボプラチン群、ドセタキセル群共に本試験で新たに確認された治療関連有害事象(TRAE)はなく、既存の安全性プロファイルと一致していた。
以上のTNT試験における生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有する患者群のサブグループ解析の結果よりAndrew Tutt氏らは下記のように結論を述べている。”生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有するトリプルネガティブ乳がん患者に対してカルボプラチンはドセタキセルよりも有効です。その理由は、プラチナ系抗がん剤であるカルボプラチンがDNAに結合することによって、がん細胞の増殖を抑えるよう作用するためです。BRCA遺伝子はがん抑制タンパク質を生成する遺伝子であり、この遺伝子が産生するタンパク質は傷ついたDNAを修復するよう働きます。しかし、BRCA遺伝子に変異がある場合その機能が失われ、細胞のDNA損傷が適切に修復されませんので、プラチナ系抗がん剤による破壊を受けた腫瘍細胞は修復できない可能性があるためです。”