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生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有するトリプルネガティブ乳がん患者に対する標準術前化学療法にアバスチン追加療法、病理学的完全奏効(pCR)を向上させる

この記事の3つのポイント
・標準術前化学療法±アバスチン療法の病理学的完全奏効率pCR rate)は生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陽性患者50.0%に対して生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陰性患者31.5%を示した。
・標準術前化学療法±アバスチン療法の無病生存率(DFS rate)は生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陽性患者の方が生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陰性患者に比べて統計学的有意に改善を示した
・標準術前化学療法±アバスチン療法で病理学的完全奏効(pCR)を達成した生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陽性患者における無病生存率(DFS rate)は統計学的有意な改善を示さなかった

2018年5月23日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にて生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有するトリプルネガティブ乳がん患者に対する術前化学療法としてのベバシズマブ(商品名アバスチン;以下アバスチン)の有効性を検証した第III相のGeparQuinto試験(NCT00567554)の結果がErlangen University Hospital・Peter A. Fasching氏らにより公表された。

GeparQuinto試験とは、トリプルネガティブ乳がん患者(N=678人)に対して3週を1サイクルとして1日目にエピルビシン+シクロホスファミド併用療法を4サイクル投与し、その後3週を1サイクルとして1日目にドセタキセル単剤療法を4サイクル投与する術前化学療法に加え、アバスチンを投与する群(N=336人)、またはアバスチンを投与しない群(N=342人)に無作為に振り分け、主要評価項目として病理学的完全奏効率(pCR rate)を比較検証した非盲検下の第III相試験である。

なお、本試験では生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異別の病理学的完全奏効率(pCR rate)の違いを検証することを目的としており、アバスチン投与群において生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を検証できた患者(N=233人)の内訳は生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陰性患者83.3%(N=194人)、陽性患者16.7%(N=39人,BRCA1遺伝子変異陽性34人,BRCA2遺伝子変異陽性5人)、またアバスチン非投与群における生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を検証できた患者(N=260人)の内訳は生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陰性患者80.4%(N=209人)、陽性患者19.6%(N=51人,BRCA1遺伝子変異陽性40人,BRCA2遺伝子変異陽性11人)であった。

本試験に登録された患者背景はアバスチン投与群、アバスチン非投与群それぞれ下記の通りである。年齢中央値はアバスチン投与群48歳±10に対してアバスチン非投与群48歳±11。Ki-67値は57±25に対して54±24。腫瘍サイズはT1が19.4%(N=45人)に対して20.8%(N=54人)、T2が58.6%(N=136人)に対して58.7%(N=152人)、T3-4が22.0%(N=51人)に対して20.5%(N=53人)。

リンパ節転移の有無は陰性率56.7%(N=131人)に対して52.4%(N=133人)、陽性率43.3%(N=100人)に対して47.6%(N=121人)。グレード分類はGrade1-2が25.8%(N=60人)に対して28.0%(N=72人)、Grade3が74.2%(N=173人)に対して72.0%(N=185人)。

閉経ステータスは閉経前が71.4%(N=157人)に対して75.9%(=183人)、閉経後が40.5%(N=94人)に対して36.2%(N=93人)。手術タイプは乳房切除が28.6%(N=63人)に対して24.1%(N=58人)、その他が71.4%(N=157人)に対して75.9%(N=183人)。病理学的完全奏効(pCR)は達成39.9%(N=93人)に対して30.4%(N=79人)、未達成した患者60.1%(N=140人)に対して69.6%(N=181人)。以上のように両群間において患者背景に偏りはなく、また病理学的完全奏効(pCR)においても統計学的有意な差は確認されなかった。

本試験の結果、主要評価項目である両群間の病理学的完全奏効率(pCR rate)は生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陽性患者50.0%に対して生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陰性患者31.5%(オッズ比2.17,95%信頼区間:1.37-3.46,P=0.001)を示した。なお、BRCA遺伝子別の病理学的完全奏効率(pCR rate)はBRCA1遺伝子変異陽性患者48.6%,BRCA2遺伝子変異陽性患者56.3%であり同等であった。

また、両群間の無病生存率(DFS rate)は生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陽性患者の方が生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陰性患者に比べて統計学的有意に改善を示した(ハザード比0.644,95%信頼区間:0.415-0.998,P=0.047)。しかしながら、病理学的完全奏効(pCR)を達成した生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陽性患者における無病生存率(DFS rate)は統計学的有意な改善を示さなかった(ハザード比0.74,95%信頼区間:0.32-1.69,P=0.472)。一方、病理学的完全奏効(pCR)を達成した生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陰性患者における無病生存率(DFS rate)は統計学的有意な改善を示した(ハザード比0.18,95%信頼区間:0.11-0.31,P<0.001)。

次に、アバスチン投与群の病理学的完全奏効率(pCR rate)は生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陽性患者61.5%に対して生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陰性患者35.6%(オッズ比2.90,95%信頼区間:1.43-5.89,P=0.004)を示した。また、アバスチン非投与群の病理学的完全奏効率(pCR rate)は生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陽性患者41.2%に対して生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陰性患者27.8%(オッズ比1.82,95%信頼区間:0.97-3.44,P=0.088)を示した。なお、各群において生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陽性患者は陰性患者に比べて統計学的有意に病理学的完全奏効率(pCR rate)が上昇したが、統計学的有意に無病生存率(DFS rate)を改善する相関性は確認されなかった。

以上のGeparQuinto試験の結果よりPeter A. Fasching氏らは以下のように結論を述べている。”生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異を有するトリプルネガティブ乳がん患者に対する標準の術前化学療法にアバスチンを加えることで病理学的完全奏効率(pCR rate)を向上させる可能性が本試験より示唆されました。しかしながら、病理学的完全奏効(pCR)を達成した生殖細胞系BRCA1/2遺伝子変異陽性患者における無病生存率(DFS rate)は相関性が確認できませんでした。”

※文中に一部誤った表記があり、正しく修正いたしました。2018.6.4

BRCA1/2 Mutations and Bevacizumab in the Neoadjuvant Treatment of Breast Cancer: Response and Prognosis Results in Patients With Triple-Negative Breast Cancer From the GeparQuinto Study(DOI: 10.1200/JCO.2017.77.2285 Journal of Clinical Oncology – published online before print May 23, 2018)

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