米国立がん研究所(NCI)が開発したがん治療の有害事象に対する患者自己評価システムツール「PRO-CTCAE:Patient-Reported Outcomes version of the Common Terminology Criteria for Adverse Events」は、放射線治療に伴うほとんどの毒性症状についても測定指標として適用できることが確認された。ただ、放射線はがん局所病変に照射されるため、照射領域の解剖学的部位別に特異的な症状項目を策定することで、より正確な評価システムとして活用できることが示された。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のSusan A. McCloskey氏らのグループによる研究成果で、International Journal of Radiation Oncology Biology・Physics誌(2018年102巻1号)に掲載された。
がん治療の臨床試験や臨床研究では、発現する有害事象を正確にグレード化して治療候補のリスク-ベネフィットバランスを明確にする必要がある。症状を伴う毒性の評価は、医療者側によるグレード化と患者自身の感覚が乖離することも少なくないことから、患者の主観的な自己評価を取り入れた症状のグレード化を加味して測定する必要性が認識されてきた。それを受けて米国立がん研究所(NCI)は、有害事象の症状78項目、124問の質問に患者が回答する評価システムPRO-CTCAEを開発した。日本語版も公開されている(コチラ)。
McCloskey氏らは、がんの放射線治療の最終週にある患者389例を対象として、解剖学的に7つに分けたがん病変照射部位ごとの毒性症状に関する調査を実施した。具体的には、患者が放射線治療期間中に経験した毒性症状の質的内容を語り、次に、PRO-CTCAEを元に作成した照射部位別の毒性症状40項目のチェックリストに症状の有無を記入した。患者によって定性的に表現された毒性症状、患者の20%以上が「有」と記入した症状項目、そして、PRO-CTCAEの症状項目になかった毒性症状に基づき、文献や専門家の知見などを含めて解析し、解剖学的照射部位別の毒性症状として基準を満たす症状を一覧表にまとめた。
登録患者389例の照射7部位の内訳は、脳が46例、頭頸部が69例、乳房が134例、胸部が30例、腹部が27例、女性骨盤が36例、男性骨盤が47例で、平均年齢は62歳、女性患者が62%を占めた。
患者の回答から、PRO-CTCAEの78項目の症状のうち53項目が放射線治療による症状と合致することが分かった。PRO-CTCAEに含まれている症状項目だが、チェックリストには含まれていなかった症状は、腹部、脳、男性骨盤への放射線照射による皮膚熱傷、脳照射によるめまいだった。PRO-CTCAEには含まれていないがインタビューで患者が定性的表現で語った症状は、脳照射によるドライアイや眼刺激感、頭頸部照射による嚥下痛、口・のどの痛み、粘液分泌過多、男性骨盤照射による尿閉症状であった。
これらのことから、現行のPRO-CTCAE に含まれていない口・のどの痛みといった上記のいくつかの症状を追加する、または特徴に応じた表現の最適化といった詳細の整備が必要であるが、放射線照射の解剖学的7部位別に毒性症状を評価するPRO-CTCAE は、薬剤によるがん治療の毒性評価とともに臨床試験における安全性情報として高い有用性が期待された。なお、UCLAの放射線腫瘍学部門では、解剖学的部位別項目を含むPRO-CTCAEを既に運用している。