乳がんに罹ったことのない閉経後女性が低脂肪のバランスのとれた食習慣を定着させることで、乳がんで死亡するリスクが21%低下することが統計学的に証明された。これは、米国国立衛生研究所(NIH)が1993年に立ち上げた女性の健康イニシアチブ(Women’s Health Initiative[WHI])の研究チームが米国40施設で行った調査研究で、閉経後女性48835人を対象とする無作為化比較試験の結果である。
同研究成果は、2019年5月31日から6月4日まで米国シカゴで開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO 2019)において、米国Harbor-UCLAメディカルセンターのRowan Chlebowski氏がポスター発表する予定である。
目次
脂肪摂取割合20%を目標に食習慣改善8.5年、約20年にわたり追跡
研究チームは、1993年から1998年の間に、閉経後女性48835例(50歳から79歳)を登録した。これらの女性は、乳がんと診断されたことがなく、食事からの摂取エネルギーに占める脂肪割合が32%以上の食習慣を持つ。
試験では、それまでの食事を継続する群(通常食群)に60%、または食事介入する群(低脂肪バランス食群)に40%を無作為に振り分けた。低脂肪バランス食群は、摂取エネルギーに占める脂肪割合の目標値を20%以下とし、野菜や果物、穀物をバランスよく摂取した。この食事介入期間は8.5年継続し、以降も追跡調査を続け、追跡期間中央値19.6年における乳がんの発生、乳がんによる死亡、全死因死亡などを調べた。
食事介入終了後も低脂肪バランス食のベネフィットが持続
1993年から2013年までで(中央値19.6年)、乳がんと診断されたのは3374人であった。主要評価項目である乳がんを原因とする死亡リスクは、低脂肪バランス食群の方が通常食群と比べ21%低下した。全死因死亡リスクは低脂肪バランス食群の方が15%低下した。いずれも統計学的な群間有意差が認められた。
低脂肪バランス食群のほとんどの被験者は、摂取する脂肪割合が目標の20%に届かなかったが、25%以下にとどめることができ、同時に野菜や果物、穀物などの摂取量を増加させ、バランスのとれた食習慣を定着させた。その結果、体重は平均で3%有意に減少したが、体重減少と死亡リスクとの関連性を見いだすことはできなかった。
食事介入期間の8.5年では、低脂肪バランス食群は通常食群と比べ、乳がんの発生率は8%低く、同期間における乳がんを原因とする死亡率も幾分低かったが、群間の有意差はなかった。しかし、乳がんと診断された後の全死因死亡率は、食事介入期間(8.5年)、ならびに通算追跡期間(中央値16.1年)のいずれにおいても有意に低く、食事介入期間の死亡リスクは35%低下した。低脂肪バランス食の習慣は、短期的にも長期的にも健康上のベネフィットがあることが分かった。
代謝状態が芳しくない女性を対象とした介入試験の結果も発表予定
なお、研究チームは、糖尿病や高血圧といった代謝状態が芳しくない女性を対象として、同様の食事介入を試みる試験も実施し、同じくASCO 2019で発表する予定である。そうした代謝因子の背景を持つ女性は米国に500万人と推定され、代謝機能が正常な女性と比べて乳がんが原因で死亡するリスクは3倍高いといわれている。
皮膚がんを除くと、乳がんは米国の女性に最も多いがんで、米国がん協会(ACS)では、2019年に新たに乳がんと診断される女性は約26万8600人、乳がんによる死亡は約4万1760人と推算している。