がん情報サイト「オンコロ」

複数治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者に対するTucatinib+トラスツズマブ+カペシタビン、無増悪生存期間と全生存期間を改善

この記事の3つのポイント
・複数治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者が対象の第2相試験
・Tucatinib+トラスツズマブカペシタビン併用療法の有効性安全性を比較検証
・脳転移のある患者を含めて無増悪生存期間全生存期間を改善した

2019年12月11日、医学誌『The New England Journal of Medicine』にて複数治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者に対する経口HER2阻害薬であるTucatinib+トラスツズマブ+カペシタビン併用療法の有効性、安全性を比較検証した第2相のThe HER2CLIMB試験(NCT02614794)の結果がMD Anderson Cancer CenterのRashmi K. Murthy氏らにより公表された。

The HER2CLIMB試験とは、複数治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者(N=612人)に対して21日を1サイクルとして1日2回Tucatinib300mg+1日目にトラスツズマブ6mg/kg+1~14日目に1日2回カペシタビン1000mg併用療法を投与する群(N=410人)、または21日を1サイクルとしてプラセボ+1日目にトラスツズマブ6mg/kg+1~14日目に1日2回カペシタビン1000mg併用療法を投与する群(N=202人)に2対1の割合で振り分け、主要評価項目として無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目として全生存期間(OS)、客観的奏効率ORR)などを比較検証した第2相試験である。

本試験が実施された背景として、第Ib相試験にてHER2陽性転移性乳がん患者に対してTucatinib+トラスツズマブ+カペシタビン併用療法は良好な抗腫瘍効果を示している。また、有害事象(AE)としては下痢、吐き気、手足症候群、疲労、嘔吐等の発現が確認されており、安全性についてもさらなる検証が必要とされていた。以上の背景より、第2相であるThe HER2CLIMB試験が開始された。

本試験に登録された患者背景は下記の通りである。年齢中央値はTucatinib群55.0歳に対してプラセボ群54.0歳。人種はTucatinib群でアジア人4.4%、黒人10.0%、白人70.0%に対してプラセボ群でアジア人2.5%、黒人6.9%、白人77.7%。ECOG Performance StatusはTucatinib群でスコア0が49.8%、スコア1が50.2%に対してプラセボ群でスコア0が46.5%、スコア1が53.5%。

ホルモン受容体ステータスはTucatinib群でエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体のいずれかまたは両方が陽性59.3%、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体の両方が陰性39.3%に対してプラセボ群でエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体のいずれかまたは両方が陽性62.9%、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体の両方が陰性37.1%。

前治療歴中央値はTucatinib群で4レジメン(2‐14レジメン)に対してプラセボ群で4レジメン(2‐17レジメン)。前治療歴の種類はTucatinib群でトラスツズマブ100%、ペルツズマブ99.8%、トラスツズマブ エムタンシン100%、ラパチニブ5.9%に対してプラセボ群でトラスツズマブ100%、ペルツズマブ99.5%、トラスツズマブ エムタンシン100%、ラパチニブ5.0%。

以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値はTucatinib群7.8ヶ月(95%信頼区間:7.5‐9.6ヶ月)に対してプラセボ群5.6ヶ月(95%信頼区間:4.2‐7.1ヶ月)、Tucatinib群で病勢進行または死亡(PFS)のリスクを46%(HR:0.54,95%信頼区間:0.42-0.71,P<0.001)統計学有意に改善した。また、1年無増悪生存率(PFS)はTucatinib群 33.1%(95%信頼区間:26.6%-39.7%)に対してプラセボ群12.3%(95%信頼区間:6.0%-20.9)を示した。

また、脳転移を有する患者群における無増悪生存期間(PFS)中央値はTucatinib群7.6ヶ月(95%信頼区間:6.2‐9.5ヶ月)に対してプラセボ群5.4ヶ月(95%信頼区間:4.1‐5.7ヶ月)、Tucatinib群で病勢進行または死亡(PFS)のリスクを52%(HR:0.48,95%信頼区間:0.34-0.69,P<0.001)統計学有意に改善した。また、1年無増悪生存率(PFS)はTucatinib群 24.9%(95%信頼区間:16.5%-34.3%)に対してプラセボ群0%を示した。

副次評価項目である全生存期間(OS)中央値はTucatinib群21.9ヶ月(95%信頼区間:18.3‐31.0ヶ月)に対してプラセボ群17.4ヶ月(95%信頼区間:13.6‐19.9ヶ月)、Tucatinib群で死亡(OS)のリスクを34%(HR:0.66,95%信頼区間:0.50-0.88,P=0.005)統計学有意に改善した。また、2年全生存率(OS)はTucatinib群 44.9%(95%信頼区間:36.6%-52.8%)に対してプラセボ群26.6%(95%信頼区間:15.7%-38.7)を示した。

一方の安全性として、全グレードの有害事象(AE)発症率はTucatinib群99.3%に対してプラセボ群97.0%、グレード3以上の有害事象(AE)発症率はTucatinib群55.2%に対してプラセボ群48.7%を示した。Tucatinib群で最も多くの患者で確認された全グレードの有害事象(AE)は下痢80.9%、手足症候群63.4%、吐き気58.4%、疲労45.0%、嘔吐35.9%、グレード3以上の有害事象(AE)は手足症候群13.1%、下痢12.9%、ALT上昇5.4%等であった。

以上のThe HER2CLIMB試験の結果よりRashmi K. Murthy氏らは以下のように結論を述べている。”複数治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者に対する経口HER2阻害薬であるTucatinib+トラスツズマブ+カペシタビン併用療法は、脳転移のある患者を含めて無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を改善しました。”

Tucatinib, Trastuzumab, and Capecitabine for HER2-Positive Metastatic Breast Cancer(N Engl J Med. 2019 Dec 11. doi: 10.1056/NEJMoa1914609.)

×
モバイルバージョンを終了