・治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者が対象の第2相試験
・Tucatinib+トラスツズマブ+カペシタビン併用療法の有効性・安全性を比較検証
・プラセボ群に対して、Tucatinib群で病勢進行または死亡のリスクを46%統計学有意に改善
2020年2月13日、医学誌『The New England Journal of Medicine』にて治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者に対する経口HER2阻害薬であるTucatinib+トラスツズマブ+カペシタビン併用療法の有効性、安全性を比較検証した第2相のHER2CLIMB試験(NCT02614794)の結果がMD Anderson Cancer CenterのRashmi K. Murthy氏らにより公表された。
HER2CLIMB試験とは、トラスツズマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブ エムタンシン、ラパチニブなどの抗HER2抗体治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者(N=612人)に対して21日を1サイクルとして1日2回Tucatinib300mg+1日目にトラスツズマブ8mg/kg+1~14日目に1日2回カペシタビン1000mg/m2併用療法を投与する群(N=410人)、または21日を1サイクルとしてプラセボ+1日目にトラスツズマブ8mg/kg+1~14日目に1日2回カペシタビン1000mg/m2併用療法を投与する群(N=202人)に2対1の割合で無作為に振り分け、主要評価項目として無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目として全生存期間(OS)、脳転移のある患者における無増悪生存期間(PFS)などを比較検証した第2相試験である。
本試験が開始された背景として、抗HER2抗体治療後に病勢進行したHER2陽性転移性乳がん患者における治療選択肢は限られている。経口HER2阻害薬であるTucatinibは、HER2チロシンキナーゼを選択的に阻害する経口薬であり、HER2陽性転移性乳がん患者に対する有用性がある可能性が第Ib相試験で示唆されている。以上の背景より、本試験が開始された。
本試験に登録された患者背景は下記の通りである。
年齢中央値
Tucatinib群=55.0歳
プラセボ群=54.0歳
人種
Tucatinib群=白人 70.0%、黒人 10.0%、アジア人 4.4%
プラセボ群=白人 77.7%、黒人 6.9%、アジア人 2.5%
ECOG Performance Status
Tucatinib群=スコア0 49.8%、スコア1 50.2%
プラセボ群=スコア0 46.5%、スコア1 53.5%
ホルモン受容体ステータス
Tucatinib群=陽性 59.3%、陰性 39.3%
プラセボ群=陽性 62.9%、陰性 37.1%
脳転移の有無
Tucatinib群=あり 48.3%
プラセボ群=あり 49.5%
前治療歴中央値
Tucatinib群=4レジメン(2‐14)
プラセボ群=4レジメン(2‐17)
前治療歴の種類
Tucatinib群=トラスツズマブ 100%、ペルツズマブ 99.8%、トラスツズマブ エムタンシン 100%、ラパチニブ 5.9%
プラセボ群=トラスツズマブ 100%、ペルツズマブ 99.5%、トラスツズマブ エムタンシン 100%、ラパチニブ 5.0%
以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。主要評価項目である1年無増悪生存率(PFS)はTucatinib群33.1%(95%信頼区間:26.6%-39.7%)に対してプラセボ群12.3%(95%信頼区間:6.0%-20.9%)、Tucatinib群で病勢進行または死亡(PFS)のリスクを46%(HR:0.54,95%信頼区間:0.42-0.71,P<0.001)統計学有意に改善した。また、無増悪生存期間(PFS)中央値はTucatinib群7.8ヶ月(95%信頼区間:7.5-9.6ヶ月)に対してプラセボ群5.6ヶ月(95%信頼区間:4.2-7.1ヶ月)を示した。
また、脳転移のある患者群における1年無増悪生存率(PFS)はTucatinib群24.9%(95%信頼区間:16.5%-34.3%)に対してプラセボ群0%、Tucatinib群で病勢進行または死亡(PFS)のリスクを52%(HR:0.48,95%信頼区間:0.34-0.69,P<0.001)統計学有意に改善した。また、無増悪生存期間(PFS)中央値はTucatinib群7.6ヶ月(95%信頼区間:6.2-9.5ヶ月)に対してプラセボ群5.4ヶ月(95%信頼区間:4.1-5.7ヶ月)を示した。
副次評価項目である2年全生存率(OS)はTucatinib群44.9%(95%信頼区間:36.6%-52.8%)に対してプラセボ群26.6%(95%信頼区間:15.7%-38.7%)、Tucatinib群で死亡(OS)のリスクを34%(HR:0.66,95%信頼区間:0.50-0.88,P=0.005)統計学有意に改善した。また、全生存期間(OS)中央値はTucatinib群21.9ヶ月(95%信頼区間:18.3-31.0ヶ月)に対してプラセボ群17.4ヶ月(95%信頼区間:13.6-19.9ヶ月)を示した。
一方の安全性として、全グレードの有害事象(AE)発症率はTucatinib群99.3%に対してプラセボ群97.0%、グレード3以上の有害事象(AE)発症率はTucatinib群55.2%に対してプラセボ群48.7%を示した。Tucatinib群で20%以上の患者で確認された全グレードの有害事象(AE)は下痢80.9%、手足症候群63.4%、吐き気58.4%、倦怠感45.0%、嘔吐35.9%、口内炎25.5%、食欲減退24.8%、頭痛21.5%、AST上昇21.3%、ALT上昇20.0%。Tucatinib群で5%以上の患者で確認されたグレード3以上の有害事象(AE)は手足症候群13.1%、下痢12.9%、ALT上昇5.4%。
以上のHER2CLIMB試験の結果よりRashmi K. Murthy氏らは以下のように結論を述べている。”複数治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者に対する経口HER2阻害薬Tucatinib+トラスツズマブ+カペシタビン併用療法は、無増悪生存期間(PFS)、脳転移を有する患者群における無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を統計学有意に改善しました。”