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がん患者における新型コロナの抗体量、健常人より低値示す

6月2日、国立がん研究センターは「がん患者さんの新型コロナウイルス抗体の保有状況とがん治療と抗体量の関連について」と題した記者会見を実施。同センター中央病院副院長先端医療科長の山本昇氏らが登壇し、がん患者における新型コロナウイルスの罹患状況とリスクを評価した研究結果を発表した。

この研究は、同センターとシスメックス株式会社が共同で実施したもの。研究の背景として、がん患者は新型コロナウイルスに関して“感染しやすい”“重症化しやすい”と報告があり、海外データでは罹患リスクは1.4~6.0倍、また致死率も高いと報告されている。その原因として、がん患者は健常人と比較して重症化リスク因子を有することが多く、またがん治療による影響も考えられる。

本研究では、がん患者の抗体保有率を健常人と比較することで日本におけるがん患者の罹患リスクの検討、またがん治療と抗体量の関連を確認することでがん治療が新型コロナウイルス感染症に対する免疫応答に与える影響を検討した。調査対象は以下の通り。

調査対象
がん患者500名(国立がん研究センター中央病院に通院中の患者)
がん種の内訳固形がん489人(97.8%)、血液がん11人(2.2%)、肺がん84人、原発性脳腫瘍75人、乳がん66人、膵臓がん50人、食道がん33人、頭頚部がん29人、大腸がん27人、肉腫22人、悪性黒色腫20人、血液がん11人、その他83人
がん治療の内訳…研究参加1か月以内に何らかのがん治療を受けていた患者355人(71%)、放射線治療24人(4.8%)、外科手術35人(7%)、免疫チェックポイント阻害薬44人(8.8%)、分子標的治療薬92人(18.4%)、細胞障害性抗がん剤204人(40.8%)

健常人1,190名(国立がん研究センター職員)
職種…医師179人(15.0%)、看護師385人(32.3%)、研究者197人(16.6%)、技師113人(9.5%)、薬剤師50人(4.2%)、事務職員266人(23.4%)

(画像はリリースより)

抗体保有率に有意差は認められず、抗体量はがん患者で有意に低値

調査の結果、抗体保有率に関しては、全集団、研究参加前に新型コロナウイルス感染症に罹患していた参加者を除いた解析集団のいずれにおいても、がん患者と健常人で抗体保有率に有意差は認めなかった。一方、抗体値に関しては、がん患者は健常人と比較して、抗体量が有意に低値という結果であった。

(画像はリリースより)

治療方法と抗体値の関連に関しては、細胞障害性抗がん剤を使用中のがん患者では、有意にN-IgGが低値、免疫チェックポイント阻害薬を使用中のがん患者では有意にN-IgG, S-IgGが高値であることが明らかになった。一方で外科治療や放射線治療は、抗体量に影響を与えなかった。

(画像はリリースより)

以上を踏まえ、同研究のポイントとして以下の4点が挙げられた。

また、がん患者と健常人いずれも抗体保有率は低く、抗体保有率に差は認めなかったことから、感染対策は十分になされており、無症候性感染の頻度は高くないと考えられる。しかし、今回の調査には同センター職員、つまり医療従事者が健常人として参加しており、 医療従事者は一般的な健常人よりも抗体価が上昇している可能性があるため、抗体量の違いが、感染リスクや重症化リスクに関わっているかは明らかではないとしている。

なお、今後はがん患者に対するワクチン接種の有効性を評価するため、ワクチン接種後の抗体量の推移を検討するとともに、がん治療が新型コロナウイルス抗体の産生に与える影響を明らかにすべく、ワクチン接種後のデータに関しても公表していく予定。

以上の結果より、同センター中央病院腫瘍内科の矢﨑秀氏らは、がん患者へのメッセージとして以下を述べている。

関連リンク:
国立がん研究センター プレスリリース

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