進展型小細胞肺がん(SCLC)の一次治療としては、1980年代以降に開発されたレジメンであるPE療法(シスプラチン+エトポシド)が日本をはじめとした世界各国の標準治療である。またPE療法以外にも、国内では70歳以下でPS0~2の患者に対して2000年代以降に開発されたPI療法(シスプラチン+イリノテカン)が進展型小細胞肺がんの一次治療として推奨されている。
しかし、PI療法はPE療法と比較して下痢の副作用発現率が高い。また、イリノテカン(商品名カンプト、トポテシン)は間質性肺炎を有する患者には禁忌である。そのため、下痢と間質性肺炎の発症が懸念される患者に対してPI療法は投与されにくいのである。
さらに、国内では臨床試験(JCOG9511試験)にてPI療法のPE療法に対する全生存期間(OS)の優越性を証明したが、北米を中心として実施された臨床試験では、国内で再現されたPI療法の有効性を証明できなかった。以上のような背景から、進展型小細胞肺がん患者に対する一次治療の世界的な標準治療は未だに1980年代以降に開発されたPE療法であった。
しかし、2017年6月2日から5日までアメリカのシカゴで開催されていた米国臨床腫瘍学会(ASCO2017)にて、PE療法に代わって標準治療となる可能性のある新しい治療レジメンがエモリー大学ウインシップ癌研究所のTaofeek Owonikoko氏より発表された。
本研究は、進展型小細胞肺がん患者の一次治療としてPE+プラセボ併用療法、又はPE+PARP阻害薬(ポリ(ADP)リボースポリメラーゼ)であるベリパリブ併用療法の無作為化試験(ECOG-ACRIN 2511、NCT01642251)の結果である。卵巣がん、乳がんに対して有効性が確認されているPARP阻害薬を、肺がんの標準治療であるPE療法に上乗せすることで、PARP阻害薬の肺がんへの応用を試みている点で画期的である。
PARPとは損傷を来した細胞の修復をする遺伝子で、PARPの働きにより正常細胞だけでなくがん細胞もその生存が保たれている。PARP阻害薬はPARPの修復機能を停止させることで、がん細胞の合成致死を誘導する機序を持つが、それ以外の機序として他の悪性腫瘍薬の増強効果が確認されている。つまり、本研究ではPE療法の効果増強がPARP阻害薬へ期待されている。
本臨床試験の主要評価項目は無病悪生存期間(PFS) 、副次評価項目は全生存期間(OS)で、対象患者はPS0〜1で脳転移のない未治療の進展型小細胞肺がん患者である。臨床試験に登録された患者は128人、年齢中央値は66歳、男女比(52%/48%)、PS0/1 (29%/71%)であった。
上記背景を持つ患者に対して、PE+プラセボ併用療法(シスプラチン75mg/m2を1日目、エトポシド100mg/m2を1日目、2日目、3日目、1日2回のプラセボ100mgを7日間連続投与を1サイクルとする)、又はPE+ベリパリブ併用療法(シスプラチン75mg/m2を1日目、エトポシド100mg/m2を1日目、2日目、3日目、1日2回のベリパリブ100mgを7日間連続投与を1サイクルとする)を最大で4サイクル投与した。なお、予防的全脳照射(PCI)は主治医判断で可とし、胸部放射線治療(TRT)は不可とした。
主要評価項目であること無病悪生存期間(PFS) はPE+プラセボ併用療法群5.5ヵ月に対してPE+ベリパリブ併用療法群6.1ヶ月(HR=0.63, pRandomized trial of cisplatin and etoposide in combination with veliparib or placebo for extensive stage small cell lung cancer: ECOG-ACRIN 2511 study.(ASCO2017 Abstract 8505)
記事:山田 創