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乳がんの新薬ベージニオ(アベマシクリブ)の治療を受ける前に知っておきたいこと

目次

乳がんの新薬ベージニオとは

ベージニオ(一般名アベマシクリブ)

ベージニオとは、サイクリン依存性キナーゼであるCDK4およびCDK6を阻害することでがん細胞が増えることを抑える経口分子標的薬です。2018年11月30日に発売され、乳がんの治療薬として使用されています。一般名はアベマシクリブといいます。

ベージニオの適応は「ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」とされています。ベージニオの添付文書の注意書きには「本剤の術前・術後薬物療法としての有効性及び安全性は確立していない」とされており、通常、臨床試験以外で手術前後に使用されることはありません。

また、適応上は「手術不能」または「再発された」「ホルモン受容体陽性HER2陰性」の乳がん患者となりますが、「閉経前」の方で「ホルモン療法を受けられてない方」に対する臨床試験結果はありません。(後述)

一方、単剤で使用されることはなく、治療期に応じて既存のホルモン製剤を併用して使用することになります。

類薬に、2017年12月に発売されたイブランス(一般名パルボシクリブ)があり、実診療ではこの2剤のうちどちらかを使用することになりますが、2剤の違いは「併用するホルモン製剤」「使用方法」「発現する副作用の種類」が異なります。

乳がんの新薬パルボシクリブ(イブランス)の治療を受ける前に知っておきたい7つのこと

サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬 ベージニオの作用機序

ベージニオ(パルボシクリブ)は、サイクリン依存性キナーゼであるCDK4およびCDK6を特異的に阻害することでがん細胞が増殖するのを制御する経口分子標的薬です。

サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)は、細胞周期を制御するメカニズムを不能とする酵素です。

1つの細胞が2つに分裂が進む過程を細胞周期と呼びます。図のように、S期→G2期→M期→G1期という順番で細胞分裂が繰り返され、無限に細胞分裂しないように細胞周期のG1期で抑制しています。しかしながら、CDK4及びCDK6が関与することにより細胞周期の制御を不能とし、無制限に細胞増殖します。

CDK4およびCDK6はサイクリンDという蛋白質に依存する蛋白リン酸化酵素複合体であり、それ故、サイクリン依存性キナーゼと呼ばれます。

進行乳がん患者の約70%はホルモン受容体が陽性を示しているため、ゴセレリン(商品名ゾラデックス)、リュープロレリン(商品名リュープリン)などのホルモン療法に効果を示すが、中にはホルモン療法に効果を示さなかったり、又は一度は効果を示したものの時間の経過とともに病勢が進行してしまう可能性があります。

ホルモン療法に効果を示さない原因の1つとして蛋白質複合体であるサイクリンDの存在が考えられています。サイクリンDは乳がん患者50%以上に発現することが確認されており、サイクリンDが過剰発現する患者の大半はエストロゲン受容体陽性であることがわかっています。

故に、サイクリンD に依存する酵素であるCDK4/6を阻害するCDK4/6阻害薬は、進行再発乳がんの治療成績向上を期待されています。

補足:CDK4およびCDK6とサイクリンDと複合体となることにより癌抑制遺伝子Rbをリン酸化を阻害し、結果、転移因子E2Fが活性化、DNA複製が開始され細胞周期がS期に移行、細胞増殖・腫瘍増殖を促進されます。

ベージニオの臨床試験成績

ベージニオの有効性

ベージニオは、日本も参加した以下の臨床試験にて有効性を科学的に証明されています。

・ホルモン療法を受けた後に疾患進行を認めたホルモン受容体陽性HER2陰性進行乳がん患者対象の第3相試験(MONARCH 3 試験:NCT02246621)

・ホルモン療法歴のない閉経後ホルモン受容体陽性HER2 陰性再発閉経後乳がん患者(MONARCH2試験:NCT02107703)

故に、「ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」の効能・効果にて製造販売承認を取得しいるものの、実診療ではホルモン受容体陽性またはエストロゲン受容体陽性のHER2陰性乳がん患者を対象として使用されます。

閉経後のホルモン受容体陽性HER2陰性進行乳がん患者対象のベージニオの第3相試験

ベージニオ(アベマシクリブ)は、『ホルモン受容体陽性HER2陰性の局所進行又は転移性乳癌患者を対象としたフルベストラント単剤又はCDK4/6阻害剤abemaciclibとの併用の無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(MONARCH3試験)』にて、有効性が立証されました。

ホルモン受容体陽性HER2陰性進行乳がん患者で、ホルモン療法歴のある方669名が、「ベージニオ+フェソロデックス(フルベストラント)併用療法(ベージニオ併用群)」または「プラセボ(偽薬)+フェソロデックス併用療法(プラセボ群)」を実施する群に2:1の割合で割り付けられました。主要評価項目無増悪生存期間PFS;病態が進行するまでの期間とほぼ同義)となります。

治療は28日を1サイクルとし、「ベージニオ150mg1日2回とフェソロデックス500mg(第 1 サイクルの 1 及び 15 日目並びに第 2 サイクル以降の 1 日目;筋注)」または「プラセボとフェソロデックス」を使用し、病勢進行や副作用などによる継続中止となるまで継続されました。

本試験の結果、プラセボ群に対してベージニオ併用療法群が無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが証明されました(PFS中央値:ベージニオ併用投与群16.4カ月vsプラセボ群9.3カ月、HR:0.58、p<0.0001)。

また、全生存期間OS)中央値はベージニオ群では未到達、プラセボ群25.6 ヵ月となっています。(追跡調査中)

ホルモン療法歴のあるホルモン受容体陽性HER2陰性進行乳がん患者対象のベージニオの第3相試験

ベージニオ(アベマシクリブ)は、「全身治療歴のないホルモン受容体陽性HER2 陰性の閉経後局所再発又は転移性乳癌患者を対象とした非ステロイド性アロマターゼ阻害剤(アナストロゾール又はレトロゾール)単剤又はCDK4/6 阻害剤LY2835219 との併用の無作為化二重盲検プラセボ対照第III 相試験(MONARCH2試験)」にて、有効性が立証されました。

ホルモン受容体陽性HER2陰性進行乳がん患者で、ホルモン療法歴のない方493名が、「ベージニオ+非ステロイド性アロマターゼ阻害剤(フェマーラ(レトロゾール)又はアリミデックス (アナストロゾール))併用療法(ベージニオ併用群)」または「プラセボ(偽薬)+フェマーラ又はアリミデックス併用療法(プラセボ群)」を実施する群に2:1の割合で割り付けられました。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS;病態が進行するまでの期間とほぼ同義)となります。

治療は28日を1サイクルとし、「ベージニオ150mg1日2回とフェマーラ2.5㎎又はアリミデックス1㎎(1日1回)」または「プラセボとフェマーラ又はアリミデックス」を使用し、病勢進行や副作用などによる継続中止となるまで継続されました。

本試験の結果、プラセボ群に対してベージニオ併用療法群が無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが証明されました(PFS中央値:ベージニオ併用投与群28.2カ月vsプラセボ群14.8カ月、HR:0.54、p<0.0001)。また、全生存期間(OS)中央値は追跡調査中となります。

アベマシクリブ(ベージニオ)の副作用

アベマシクリブ(ベージニオ)は、以下のような副作用が発生します。

MONARCH2試験(ベージニオとフェソロデックス(フルベストラント)併用)にて認められた主な副作用は、下痢(86.4%)、好中球減少症(46.0%)、悪心(45.1%)、感染症(42.6%)、疲労(39.9%)等でした。(承認時)

MONARCH3試験(ベージニオとフェマーラ(レトロゾール)又はアリミデックス (アナストロゾール))にて認められた主な副作用は下痢(81.3%)、好中球減少症(41.3%)、感染症(39.1%)、悪心(38.5%)、嘔吐(28.4%)、貧血(28.4%)等でした。(承認時)

ベージニオは、使用した多くの方で下痢の副作用が発現するのが特徴です。特に、11.7%の方に重篤の下痢は認められているため注意が必要となります。また、20%以上の方に、悪心、嘔吐、食欲減退、腹痛といった消化器の副作用が現れています。

好中球減少(44.0%)、貧血(28.8%)、白血球減少(25.1%)、血小板減少(13.4%)、リンパ球減少(7.2%)等の骨髄抑制の副作用や、ALT(GPT)増加(14.3%)、AST(GOT)増加(13.3%)等を伴う肝機能障害の副作用が現れています。間質性肺疾患も2.7%のかたに現れていますので、注意が必要となります。

脱毛は「遠くからではわからないが近くで見ると正常よりも明らかな50%未満の脱毛(Grade1)」が20%程度の方に発現しています。

ベージニオとイブランスの違い

サイクリン依存性キナーゼ4/6薬ベージニオとイブランスは、有効性面において、直接比較した臨床試験はありませんが「ほぼ同等」といわれています。

ベージニオとイブランスの違いとしては「使用方法」と「毒性(副作用)」があります。

使用方法による違い

ベージニオは連日内服(1日2回)となり、イブランスは3週間連日内服(1日1回)後に1週間休薬を繰り返すことになります。

毒性(副作用)の違い

ベージニオとイブランスは発現する副作用の特徴が異なります。

イブランスは血液毒性(好中球減少など)の発現頻度が高く、PALOMA-2試験では78%(Grade3は66%)、PALOMA-3試験でも82%(Grade3は66%)の方に好中球減少が認められ、ベージニオの頻度よりも高いものとなります。その一方で、ベージニオは非血液毒性、特に下痢が特徴となっています。その他、脱毛の頻度は同程度となります。

ベージニオ(アベマシクリブ)の製品概要

製品名

ベージニオ(Verzenio)

一般名

アベマシクリブ(Abemaciclib)

用法用量

内分泌療法剤との併用において、通常、成人にはアベマシクリブとして1回150mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。

効能効果

ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌

*効能又は効果に関連する使用上の注意
本剤の術前・術後薬物療法としての有効性及び安全性は確立していない。

主な副作用

下痢(81.3%)、好中球減少症(41.3%)、感染症(39.1%)、悪心(38.5%)、嘔吐(28.4%)、貧血(28.4%)※承認時

薬価

50mg:3258.7円、100mg:5949.2円、150㎎:8460.1円

製造承認日

2018年9月21日(2018年11月30日、上市)

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