2017年9月8日から12日までスペイン・マドリードで開催されている欧州臨床腫瘍学会(ESMO)にて、転移性トリプルネガティブ乳癌患者に対するペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ;以下キイトルーダ)単剤の奏効率が腫瘍微小環境における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の発現率と相関する可能性がオーストラリアのピーター・マッカラム・キャンサー・センター所属のSherene Loi氏により報告された。
本研究は、前治療歴を有するPD-L1陽性の転移性トリプルネガティブ乳がん患者に対してキイトルーダ単剤療法を投与する群(コーホートA)、未治療のPD-L1陽性の転移性トリプルネガティブ乳がん患者に対してキイトルーダ単剤療法を投与する群(コーホートB)に分け、主要評価項目である全奏効率(ORR)を検証した第2相試験(KEYNOTE-086;NCT02447003)に、腫瘍間質における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の発現とキイトルーダの奏効率の関係を検証した報告である。
本研究に登録された患者の腫瘍標本は全体で222人、その内193人の患者が評価可能な腫瘍標本を有していた。193人の内147人の腫瘍標本がコホートAより採取され、193人の内46人の腫瘍標本がコホートBより収集されていた。また、193人の内146人の腫瘍標本が本研究のために新たに採取されものであり、腫瘍標本の主な採取部位はがんの転移部位であり、原発巣からの標本採取は47人であった。
コーホート別の腫瘍間質における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の発現率中央値は、コーホートBが17.5%(5〜61.25%) であるのに対してコーホートAでは5%(1〜10%) とコーホートBの方が高値であった。コーホート以外に腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の発現率の差が生じた腫瘍標本の背景としては、既に採取されていたものよりも新たに採取された腫瘍標本、リンパ節に転移していないものよりも転移していた腫瘍標本の方が腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の発現率中央値は高値であった。
以上のように、腫瘍間質における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の発現率別に転移性トリプルネガティブ乳がん患者に対するキイトルーダ単剤の奏効率の関係性を検証した結果、この2つの因子は治療の効果予測因子として臨床的に意義のある関係性があることが示唆された。
例えば、コーホートAにおけるキイトルーダ単剤の客観的奏効率(ORR)は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)発現率高値もしくは中央値と同等以上の群が6.4%であるのに対して低値群は1.9%であった。また、コーホートBにおけるキイトルーダ単剤の客観的奏効率(ORR)は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)発現率高値もしくは中央値と同等以上の群が39.1%であるのに対して低値群は8.7%であった。
さらに、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)発現率をキイトルーダの奏効別に検証したところ、コーホートAではキイトルーダで奏効を示した群の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)発現率が10%(5〜30%)であるのに対して奏効を示さなかった群が5%(1〜10%)であった。またコーホートBではキイトルーダで奏効を示した群の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)発現率が50%(35〜70%)であるのに対して奏効を示さなかった群が15%(5〜40%)であった。
以上の結果より、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)発現レベルの高さはキイトルーダ単剤の客観的奏効率(ORR)の高さに臨床的意義のある関係性があることが本研究結果より示唆された(調整オッズ比:1.02、95%信頼区間:1.00-1.04、p = 0.014)。