目次
肺がんと疑われたら
肺がん検診や自覚症状によって撮影された胸部X線検査で肺がんの疑いがあるとされた場合、以下の手順で診断を行います。
①質的画像診断(CT検査等)
②確定診断(病理診断)
③病期診断(ステージの決定)
④分子診断(遺伝子変異の有無)
肺がんの質的画像診断
肺がん検診や自覚症状によって撮影された胸部X線検査で肺がんの疑いがあるとされた場合、CT検査を行います。肺病変は悪性(いわゆる‘’がん‘’)か良性かにて、その後の治療が大きく異なりますが、CT検査にて検出される肺病変の大きさが3㎝を超えるか否かにて、悪性か良性を見極める手順が異なります。これを質的画像診断といいます。
肺病変が3㎝を超える場合
必ず確定診断のための病理診断を行います。
肺病変が3㎝以下の場合
確定診断は不要な良性の可能性があるため、高分解機能CT(薄型CT)を行い、病変部を拡大して良性か悪性かを見極めます。なお、高分解機能CTが普及している現在においては、再度、CT検査を行うというよりも、医師が悪性か良性を見極めるために撮影されたCT画像を注意深く確認するといった認識で問題ありません。ただし、それでも見極めが難しい場合は、造影CTやMRI、FDG-PET/CT(PET検査)を行う場合があります。
なお、上記において、肺がんの可能性を払しょくできない場合、経過観察を行うことが肺癌診療ガイドラインで推奨されています(推奨の強さ1)。そのタイミングや方法は個人により様々となりますので、担当医にご確認ください。
確定診断(病理診断)
肺がんの確定診断は、必ず病変部から採取した組織もしくは細胞による病理診断が必要となります。肺がんは組織型、ドライバー遺伝子の有無、PD-L1の発現状況などにより治療方針が異なるため、一部を除き、治療開始前に確定診断を行うことになります。
病理組織を採取する方法は、以下、様々あります。
気管支鏡検査
気管支鏡生検は、鼻や口から気管支鏡と呼ばれる内視鏡を挿入し、腫瘍のある部位の細胞や組織を採取する検査です。喉や気管支の痛みを軽減するため、局所麻酔をかけて行います。 気管支鏡による検査が難しい場合や、気管支鏡生検で組織が採取できなかったときには、CTなどの画像を見ながら行う経皮的生検を行います。局所麻酔をし、画像で腫瘍の位置 を確認しながら、皮膚の上から肺に針を刺してがんの組織を採取します。気胸や出血などの合併症を起こすことがあるので、慎重に行うことが大切です。
胸腔鏡検査
胸腔鏡生検は、気管支鏡生検や経皮的生検で組織が採取できなかったときなどに実施する生検法です。胸に小さな穴を3カ所あけ、胸腔鏡と手術器具を挿入して、画像を見ながらがんの組織を採取します。局所麻酔か全身麻酔をした状態で実施します。胸水とは、肺がんの症状の一つで、胸腔に水がたまった状態のことです。胸水がたまっているときには、局所麻酔をしたうえで皮膚の上から肺に針を刺して胸水を採取する胸水穿刺細胞診(胸腔穿刺)を行うこともあります。胸膜生検は、局所麻酔をして皮膚から胸膜に針を刺し、がんの組織を採取する方法です。胸水穿刺を繰り返し行っても判断がつかないときに行います。
経皮肺生検
経皮肺生検とは、X線(レントゲン)、CTなどで肺の中を透視しながら、太さ約1ミリほどの針を病巣のある部位を皮膚の上から突き刺することで組織、細胞を採取する検査です。採取された検体は病理・細胞診にまわされて、確定診断がつきます。
病期診断(ステージの決定)
肺がんは病期(ステージ)により治療方針が異なるため、肺がんと確定診断された場合に病期診断は必ず行われます。
特に転移の有無を確かめるために、胸膜部造影CT(胸膜播種の有無)、骨シンチグラフィ(骨転移の有無)、頭部MRI(脳転移の有無)などの検査を行うことが通常とされていましたが、FDG-PRE/CT(PET検査)の普及により、特にリンパ節転移や遠隔転移はより正確な診断が可能となっています。
しかしながら、PET検査は疑陽性(転移していないのに陽性となること)、偽陰性(転移しているのに陰性になること)があり得るため、結果の解釈は注意が必要とされています。例えば、侵襲性の低い病理検査を追加するなどが検討されています。
分子診断(遺伝子変異の有無)
肺がん、特に肺腺がんは様々なドライバー遺伝子変異を有する方が多く、様々な希少がんにより構成されているともいわれています。
10種類のドライバー遺伝子について解析した研究では、非小細胞肺がん733名中466名(64%)にいずれかのドライバー遺伝子変異が認められており、それらを標的にした治療を受けた方では生存期間が延長したことがわかっています。
以下は、日本人の肺腺がん患者の遺伝子変異の割合と、2019年1月現在においての適応する分子標的薬を示します(それぞれの分子標的薬は術後再発予防ではなく、進行期の適応となります。)
そのため、病理診断時に可能な限りEGFR、ALK、ROS1、BRAFの遺伝子変異の有無を調べることが必要であるとされています。
一方、進行非小細胞肺がん患者にて、初回治療に免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)単剤療法を検討する場合、PD-L1陽性細胞50%以上有する必要があります。そのため、治療を検討する場合は、PD-L1発現も確認する必要があります。
※現在、キイトルーダやアテゾリズマブ(商品名テセントリク)と抗がん剤の併用であれば、PD-L1発現に問わず使用することが可能です。
これらの結果が得られるのには、通常、一週間から2週間かかります。
なお、これらの検査には腫瘍組織が必要となります。それ故、検査する項目が多いほど、腫瘍組織が足りなくなる恐れがあります。その場合、もう一度組織を採取して検査を行うべきか、治療をすぐに始めるべきかは難しい判断を伴いますので、担当医とよく相談しましょう。
※肺腺がんと非小細胞肺がんの違いが判らない方はコチラ