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術前療法後に臨床的完全奏功した直腸がん患者の経過観察、良好な肛門温存率示すも遠隔転移率などが高率に

この記事の3つのポイント
・術前療法後に臨床的完全奏功を達成した直腸がん患者が対象のレトロスペクティブ試験
・経過観察(Watch-and-wait)の有効性を比較検証
・良好な肛門温存率などを示したが、遠隔転移率などが高率だった

2019年1月10日、医学誌『JAMA Oncology』にて術前療法後に臨床的完全奏功(cCR)を達成した直腸がん患者に対する経過観察(Watch-and-wait)の有効性を比較検証したレトロスペクティブ試験の結果がMemorial Sloan Kettering Cancer CenterのJ. Joshua Smith氏らにより公表された。

本試験は術前療法後の直腸がん患者(N=1070人)を対象に、術前療法後に臨床的完全奏功(cCR)を達成した患者に対して経過観察をする群(N=113人)、または術前療法後に直腸間膜全切除(TME)を実施し、その後病理学的完全奏効(pCR)達成した患者群(N=136人)に分けて、評価項目として5年全生存率(OS)、5年無病生存率(DFS)などを検証したレトロスペクティブ試験である。

本試験が実施された背景として、病理学的完全奏効(pCR)は遠隔再発率をはじめ良好な治療経過を送るための重要な指標であるが、病理学的完全奏効(pCR)を確認するためには根治的手術が必要不可欠である。また、術前療法後に臨床的完全奏功(cCR)を達成した患者に対する経過観察は標準治療でないが、患者からの要望の高い治療アプローチである。以上の背景より本試験が実施された。

本試験に登録された患者背景は下記の通りである。

年齢中央値

経過観察群=67.2歳(32.1-90.9歳)
病理学的完全奏効群=57.3歳(25.0-87.9歳)

性別

経過観察群=男性59%(N=67人)、女性41%(N=46人)
病理学的完全奏効群=男性58%(N=79人)、女性42%(N=57人)

肛門縁から腫瘍の平均距離

経過観察群=5.5cm(0.0-15.0cm)
病理学的完全奏効群=7.0cm(0.0-13.0cm)

TNM分類よるがんの大きさと浸潤T因子)の病期

経過観察群=T2が20%(N=23人)、T3が80%(N=90人)、T4が0%
病理学的完全奏効群=T2が20%(N=27人)、T3が76%(N=104人)、T4が4%(N=5人)

リンパ節転移(N因子)の病期

経過観察群=N0が35%(N=39人)、N1/N2が66%(N=74人)
病理学的完全奏効群=N0が32%(N=43人)、N1/N2が68%(N=93人)

術前療法の種類

経過観察群=単独化学放射線療法27%(N=31人)、導入化学療法42%(N=47人)、地固め化学療法29%(N=33人)、単独化学療法2%(N=2人)
病理学的完全奏効群=単独化学放射線療法61%(N=83人)、導入化学療法23%(N=31人)、地固め化学療法3%(N=4人)、単独化学療法13%(N=18人)

以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。

5年全生存率(OS)

経過観察群=73%(95%信頼区間:60%-89%)
病理学的完全奏効群=92%(95% 信頼区間:87%-98%)

5年無病生存率(DFS)

経過観察群=75%(95%信頼区間:62%-90%)
病理学的完全奏効群=92%(95%信頼区間:87%-98%)

また、経過観察群での5年肛門温存率は79%(95%信頼区間:71%-88%)。遠隔転移を発症した割合は経過観察群8%に対して病理学的完全奏効(pCR)群4%を示した。なお、経過観察群で遠隔転移を発症した患者の36%(N=22人)は局所進行を示していた。

以上のレトロスペクティブ試験の結果より、J. Joshua Smith氏らは以下のように結論を述べている。”術前療法後に臨床的完全奏功(cCR)を達成した直腸がん患者に対する経過観察(Watch-and-wait approach)は良好な肛門温存率などを示すものの、遠隔転移率などが高率でした。”

Assessment of a Watch-and-Wait Strategy for Rectal Cancer in Patients With a Complete Response After Neoadjuvant Therapy(JAMA Oncol. Published online January 10, 2019.)

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