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がんゲノム医療の現状とこれから。がん医療の何が変わるのか?

2019年2月4日に開催された肺がん医療向上委員会(日本肺癌学会)主催の「第22回肺がん医療向上委員会セミナー」に前回に引き続き参加しました。今回も講演内容を交えつつ、感想レポートを書かせていただきます。

目次

肺がん医療向上委員会とは?


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肺がん医療向上委員会とは、肺がん医療の正しい情報を発信するため、学会、医師だけでなく、メディカルスタッフ、製薬関連企業、医療機器関連企業、更にはヘルスケア企業、一般企業、メディア、そして患者・家族を代表する団体、組織も加わり、異なる業態・業種の方々が一体となって、このミッションを取り組むことを目的とした委員会です。

第22回目のテーマは、「がんゲノム医療の現状とこれから。がん医療の何が変わるのか?」でした。講師は、後藤 功一先生(国立がん研究センター東病院 呼吸器内科長)でした。がん治療経験の有無にかかわらず、このテーマにご興味がある方は多いのではないでしょうか。今回はがんに詳しくない方も読んでいただければと思います。

過去と現在の肺がん治療の変化


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さまざまながんがある中で、死亡率が男性1位、女性2位(2017年推計値)である肺がん。肺がんは組織別に分類されます。約85%が非小細胞肺がん、約15%が小細胞肺がんに区別されており、非小細胞肺がんは、扁平上皮がん非扁平上皮がんに分かれます。非扁平上皮がんの中には、腺がん、大細胞がんなどがあります。

従来は、病理組織診断を行い、組織型に合わせて治療方針が決められており、手術→放射線療法→薬物療法(化学療法)と病状により決められていました。また、抗がん剤での治療に関しては、対象は選択せずに治療ガイドラインに沿って薬の選択がされていました。

現在も病理組織診断に伴い治療法が決まることに関しては変わっていません。しかし、それに加えて「遺伝子変異タイプ」により治療方針が決められています。その背景として、肺がんは遺伝子変異の数が多く、基礎研究の時に特定の遺伝子に効果があることがわかったためです。治療方針として、遺伝子変異タイプを調べ、そのタイプに合わせて治療薬を決めるという選択が取られるようになりました。診断技術の進歩の結果、肺腺がん患者の寿命は5年程度伸びています。

臨床試験の課題と解決の近道
「LC-SCRUM-Japan」


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肺がんの治療には、いいことばかりではなく課題もあります。遺伝子の中には、ドライバー遺伝子というがんの発生、増殖、生存に直接関わる遺伝子があります。日本人肺腺がんの患者さんに多いドライバー遺伝子として、EGFR(53%)、KRAS(9.4%)、ALK(3.8%)があり、それ以外は、すべて2%以下と言われています。

患者の多い遺伝子変異タイプに関しては、臨床試験が行われ承認されているお薬があります。しかし、2%以下の遺伝子変異タイプに関しては、そもそも対象者が少ないため、特定の遺伝子変異タイプの患者を対象には、必要な症例数の患者さんが集まらないことや有効性の確認に苦労することから、臨床試験自体がなかなか実施されていないという現状があります。その課題を解決しようと、「LC-SCRUM-Japan」というプロジェクトが2013年に発足されました。

LC-SCRUM-Japanとは、全国の医療機関が協力して遺伝子スクリーニング(遺伝子検査をして目的の遺伝子変化を見つけること)を無償で実施し、希少な肺がんの患者さんを見つけ、新しいお薬の開発につなげるという産業連携がんゲノムスクリーニング事業です。希少な肺がんの患者さんに有効な治療薬をいち早く届けること、さらに日本の臨床試験を活性化し、国際競争力を高め、その結果、「個別化治療」を推進していくことを目標に、現在も全国複数の医療機関と17社の製薬会社が協力し合い取り組んでいます。

がんゲノム医療の可能性

近年、前述した事業のみならず、がんゲノム医療は可能性を広げつつあります。遺伝子検査といっても、さまざまな検査方法があります。現在も実施されておりますが、従来の非小細胞肺がんの遺伝子診断の方法は、腫瘍生体検査をした後、1遺伝子につき1検査必要でした。腫瘍生体検査→EGFR遺伝子変異検査→ALK遺伝子変異検査→ROS1遺伝子変異検査…と順番に検査をするしかなく、かなりの費用・時間・労力がかかる上に、その間にがんが進行してしまうというリスクがありました。

現在では、「次世代シーケンサーNGS)」という少ない検体量で複数の遺伝子診断ができるという患者さんや医療者の負担を減らす遺伝子解析機器があります。検査で遺伝子がわかり治療薬があればそのお薬(コンパニオン診断薬)で治療し、もしない場合もLC-SCRUM-Japanの取り組みにより、臨床試験への参加を検討することができ、より患者さんに合う治療選択肢を届けられるようになりつつあります。

また、「リキッドバイオプシー」という腫瘍から血液に流入した遺伝物質のDNA変異やその他の変化を調べる検査があり、リキッドバイオプシーと次世代シーケンサー両方を実施した際、極めて類似した結果が得られることがわかっています。つまり、血液検査でも遺伝子検査ができて正確性も生体検査に近いため、医療者や患者さんへの負担が減らすことができます。

がんゲノム医療の課題

がんゲノム医療は良い点ばかりではなく課題もあります。がんゲノム医療は今春に保険収載される予定ですが、現状は以下の条件を満たした方が適用範囲です。

・がんゲノム医療中核拠点病院もしくはがんゲノム医療連携病院
・原発不明がんもしくは標準治療のない希少がん
・標準治療が終了、または終了が見込まれる固形がん
 且つPS0~1(日常生活に支障のない患者)

つまり、肺腺がんの患者さんが保険適用で使用しようとなると、絶対条件として標準治療が終了している必要があり、その他条件も含めると、遺伝子パネル検査を受けてコンパニオン診断薬を使用できる患者さんは限られているということです。

また、検査でドライバー遺伝子が見つかる確率は約20%、治療薬が見つかる確率は約5%と低確率です。理由として、患者さんの遺伝子タイプやコンパニオン診断薬を決定する際に、エキスパートパネル(遺伝子に関する専門集団があり、会議がなされている、且つゲノム医療中核拠点病院)である必要があり、アノテーションできる医者がまだまだ少ないからです。遺伝子解析をするだけでは意味がなく、最終的には検査結果を参考に患者さんに合う治療を実施していくことが重要と後藤先生は仰っていました。

まとめ

私が学んだ4つのこと

・肺腺がんの抗がん剤治療は、従来は対象を選ばずガイドラインに沿って治療薬が選択されていたが、現在は遺伝子変異タイプを調べてタイプに合わせて治療薬を決めている。診断技術の進歩により、生存率は5年程度延びている。

・肺腺がんには遺伝子変異タイプが多く存在し、患者数が少ない遺伝子変異タイプは臨床試験自体が行われない。その課題を解決するために遺伝子スクリーニングを無償実施し、個別化治療や臨床試験の活性化をはかるLC-SCRUM-Japanが全国複数の医療機関で取り組まれている。

・次世代シーケンサーやリキッドバイオプシーのような遺伝子解析機器や血液検査技術の発展により、一度に複数の遺伝子変異タイプを調べることが可能になり、医療者や患者さんの負担を減らすことが期待できる。

・がんゲノム医療は、保険適用範囲が狭いことや検査結果をアノテーションできる医者やエキスパートパネルが少ないなど、課題も多くあるため改善していく必要がある。遺伝子解析後に患者さんに合う治療を判断できるようになることが重要である。

最後に…

まだまだ課題もあるものの、多くの可能性を秘めている日本のがんゲノム医療。海外に比べてドラッグラグがある日本で、個別化治療に向けてアジアで先陣を切って動いていることも確かで、世界でも注目されているとご講演された後藤先生も仰っていました。がんゲノム医療の発展とより多くの患者さんが自身に合う治療ができるようになることを祈るとともに、がんゲノム医療の情報を引き続きオンコロでも発信していきたいと思います。

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文:福井 澄恵

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