小細胞肺がんの手術療法(外科治療)
肺がんは一般的に画像診断や腫瘍組織を顕微鏡で確認する病理診断からがんの病期や進行度を診断します。肺がんの病期がI期あるいはII期であれば、手術が優先して行われます。III期以上であっても組織型によっては手術が行われる場合もあります。
しかし、小細胞肺がんは手術適応になる病期はI~IIA期です。がんの大きさが3cm以下でリンパ節転移がない状態のI期。またはがんの大きさが4~5cmでリンパ節転移がないIIA期に手術が行われます。限局型の小細胞肺がんI期で、リンパ節転移がある場合でも手術療法を選択する場合がありますが、本当に手術をする効果があるかどうかについてはまだ明らかになっていません。
小細胞肺がんの手術方法としては、肺葉切除術とリンパ節郭清術が標準的です。腫瘍の状態によっては片側の肺を全て切除する一側肺全摘術が行われたり、高齢者で体力が低下している場合は腫瘍とその周囲の組織だけを取り除く区域切除術が行われたりします。
以前は背中から胸にかけて30cm~40cmほどの切開をして肋骨の間の筋肉を切開し、肋骨の一部を切除して直接肺を見ながら腫瘍とリンパ節を切除する開胸術が一般的に行われてきました。開胸術は直接肺を見て手術ができることや手術にあまり時間がかからないことがメリットですが、患者への身体の負担が大きいというデメリットがあります。
最近では内視鏡を使った胸腔鏡下手術が主流になっています。胸腔鏡下手術は内視鏡で手術する部位をモニター画面に映し出し、モニター画面を医師が確認しながら体にあけた穴から細長い棒状の手術器具を入れて腫瘍やリンパ節を切除する手術方法です。
切除した肺を取り出すために5cmほどの切開を要しますが、その他には手術器具を身体に入れる1cm程度の小さな傷が3か所ほどできるだけなので切開創が小さく、患者への身体の負担が少ないのが特徴です。入院期間の平均は10~14日程度です。
手術後に薬物療法や放射線療法を追加することが一般的です。これは一部に手術後のがん細胞の確認で初めて小細胞肺がんと分かるケースがあること、手術時点で見つかっていない微小ながん細胞が存在する可能性があるためです。
手術前には患者が手術に耐えられるかを判断するために、肺機能検査や心機能検査を実施して他の病気を合併していないかも併せて確認します。手術後は残った肺で呼吸や循環を保っていく必要があるため、手術前の検査が重要になります。
また手術前に禁煙することも必要なことです。喫煙は血液中のヘモグロビンを、酸素を運搬しないヘモグロビンへと変化させてしまいます。そのため喫煙者は手術後に低酸素血症を起こすリスクが高くなるのです。合併症のリスクを抑えるためには、手術2週間前からの禁煙はもちろんのこと、残った肺を守るために術後も必ず禁煙を守りましょう。
肺がんの手術は体に大きな負担がかかるものであり、さまざまな合併症が起こり得ます。出血、感染症(創部、肺炎、膿胸など)、無気肺、肺水腫、乳び胸、反回神経麻痺、気管支ろうなどの他、手術一般の合併症として、深部静脈血栓症、肺梗塞、心筋梗塞、脳梗塞なども当然起こり得ます。
※気管支ろうとは、手術後に縫合した部位から空気が漏れるものです。自然に治る場合もありますが、菌が入って感染することもあり、治らない場合は手術が行われます。
合併症予防のためには手術前から禁煙をするとともに、呼吸訓練や痰を排出する練習をすることが大切になります。手術後は看護師や理学療法士と一緒に呼吸訓練やリハビリを行って合併症予防を行います。
■参照
・オンコロBOOKシリーズ「小細胞肺がんと診断されたら知っておきたい治療のはなし」
・筑波大学オープンコースウェア「肺がんの手術療法」
・特定非営利法人日本肺癌学会「肺癌診療ガイドライン2019年版」
・東京慈恵会医科大学附属柏病院「肺がんの基礎知識」