免疫チェックポイントのプログラム細胞死受容体1(PD-1)を阻害する抗体ニボルマブ(商品名オプジーボ)は、根治切除不能の悪性黒色腫の治療薬としては日本で2014年9月から用いられ、従来の治療法では見られない革新的な治療成績が報告されている。一方で、十分な効果が得られない、あるいは、最初は奏効しても再発する患者も一定数いる。そうした難治性の悪性黒色腫患者では、抗腫瘍免疫を回避するPD-1/PD-L1経路に治療抵抗性を持たせる何等かの仕組みがありそうだ。
そこで、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)標的抗体BMS-986016をオプジーボに併用する治療を行ったところ、中間解析ではあるが一定の奏効率が得られ、さらにその奏効率は、腫瘍関連免疫細胞のLAG-3発現レベルが高い集団が低い集団より高いという概念実証(Proof of Concept[POC])に成功した。2017年6月2日から5日に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)で報告された(Abstract9520)。
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PD-1阻害薬オプジーボにLAG-3阻害薬BMS-986016の追加でT細胞の細胞傷害活性を強化
米国や欧州で行われている進行性固形がん患者を対象とする第1/2a相非盲検用量漸増コホート拡大試験(CA224-020、NCT01968109)の中で、PD-1/PD-L1標的治療が効かない、または治療後に再発した悪性黒色腫患者は55例が登録され、オプジーボは240mg、BMS-986016は80mgをいずれも2週ごとに静脈内投与し、併用療法を行った。有効性解析対象は48例であった。
その結果、主要評価項目である奏効率は12.5%(6/48例)であった。LAG-3発現レベルが1%以上であった患者集団の奏効率(20%[5/25例])は、1%未満であった患者集団の奏効率(7.1%[1/14例])と比べ3倍近く高かった。グレード3からグレード4の有害事象の発現率は9%であった。
したがって、PD-1/PD-L1標的治療に抵抗性を持つ悪性黒色腫患者では、LAG-3標的抗体BMS-986016とPD-1標的抗体のオプジーボの併用療法により耐性克服が実現する可能性が示唆された。
難治性悪性黒色腫におけるLAG-3の役割解明に道、効果予測バイオマーカーの研究にも寄与
リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)は、エフェクターT細胞や制御性T細胞の表面に発現する免疫チェックポイント受容体蛋白質で、T細胞の応答、増殖、活性化などを制御していることから、PD-1/PD-L1経路を介した抗腫瘍免疫回避に影響をおよぼす可能性が予測されていた。非臨床試験では、LAG-3を阻害することでT細胞の細胞傷害機能が回復し、腫瘍増殖抑制作用が確認されている。バイオマーカーの研究対象分子でもある。また、抗腫瘍免疫応答の効率的、合理的な活性化に導くため、LAG-3と補完的に働く免疫経路も同時に標的とする治療法も提案されている。
複雑で巨大なネットワークで影響し合う免疫チェックポイントの研究はまだまだ進む
腫瘍組織では、制御性T細胞、骨髄由来免疫抑制細胞、ナチュラルキラーT細胞など、抗腫瘍免疫を抑制するように働く多彩な免疫抑制担当細胞が互いに影響し合い、がんが生存、増殖する手助けをしている。免疫細胞に発現するPD-1は、リガンドであるPD-L1との相互作用を介して、免疫抑制機能を発揮するための抑制性シグナルを伝達している免疫チェックポイント分子の1つで、これに結合してそのシグナルを阻害するのがオプジーボである。また、PD-1とは違う免疫チェックポイント分子である細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)を阻害するのがイピリムマブ(商品名ヤーボイ)である。
CD4陽性T細胞に発現していることが1990年に確認されたLAG-3は、そのシグナル伝達は不明な点も多いが、腫瘍浸潤T細胞や制御性T細胞、慢性感染で疲弊したT細胞などに発現し、PD-1やCTLA-4などと同様、免疫抑制因子としての役割を果たすことがわかってきた。また、CD4陽性Th1細胞、またはCD8陽性T細胞に発現していることが2002年に確認されたT細胞免疫グロブリンとムチンを含有する蛋白質(TIM-3)も、エフェクターT細胞の活性化を抑制し、PD-1が共存する腫瘍局所で抗腫瘍免疫活性を弱めている可能性が示されている。その他にも複数の受容体、膜蛋白質などが抗腫瘍免疫を抑制する方向に働く免疫チェックポイント分子として見いだされている。
現在は、複数の免疫チェックポイント阻害薬が承認、発売されるとともに、新たな免疫チェックポイントの研究に基づき、新たな治療薬候補の開発が全世界で進められるなど、免疫チェックポイントの基礎研究と臨床研究は飛躍的に前進している。
記事:川又 総江