トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するナブパクリタキセル(商品名アブラキサン)とがん免疫療法薬を併用する臨床試験が精力的に行われている。2016年12月のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)では、TNBCに対するアブラキサンを含む併用療法について議論された。2017年2月8日のOncLiveの記事を紹介する。
Nab-Paclitaxel Paired With Anti-PD-L1 Immunotherapies in TNBC Studies(OncLive,February 08, 2017)
米国Sarah Cannon研究所のDenise A. Yardley氏は2016 SABCSで、アブラキサンとカルボプラチン(商品名カルボプラチン)、またはゲムシタビン(商品名ジェムザール)の併用療法をカルボプラチン×ジェムザールと比較した第2相試験(tnAcity、NCT01881230)の結果を発表した。複数の薬剤で治療している転移のあるTNBC患者は、毒性の面を考慮すれば、神経障害や骨髄抑制の懸念が少ないアブラキサンは、他の薬剤との併用パートナーとして間口が広い」とYardley氏はコメントしている。「特に免疫療法との相性の良さが魅力的で、アブラキサンは過敏反応などを予防するステロイドの前処置を必要としないため、免疫療法のベネフィットを損ねる可能性が低い」とも語った。
アブラキサンの特徴と免疫チェックポイント阻害薬との相性
アブラキサンは、パクリタキセル(商品名タキソール)にヒトアルブミンを結合したナノ粒子静注用製剤で、乳がん、胃がん、非小細胞肺がん、および膵がんの適応で承認されている。有効成分のパクリタキセルががん細胞の微小管重合を促進し、脱重合を阻害することで細胞を増殖させないように働く。タキソールは水に難溶のため、ポリオキシエチレンヒマシ油と無水エタノールが溶媒として添加された注射液であるが、ナノ粒子化で凍結乾燥製剤化に成功したアブラキサンは、生理食塩水で用時懸濁して投与することが可能になった。タキソールで必要な溶媒を原因とする過敏反応を予防するためのステロイド前処置は、アブラキサンでは不要となり、アルコール過敏症の患者にも投与可能である。
初期に行われたアブラキサンの臨床試験では、タキソールより組織吸収性にすぐれた。そして、アブラキサンは免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果を増強する可能性が示唆され、免疫関連の毒性の重複や増悪の恐れはないと考えられた。
2016年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された転移性TNBC患者を対象にアブラキサンと免疫チェックポイント阻害薬であるPD-L1阻害抗体アテゾリズマブ(商品名テセントリク)を併用投与した第1相試験(NCT01633970)では、解析対象13人で完全奏効(CR)8%を含む奏効率46%が得られ、無増悪生存(PFS)期間と全生存期間(OS)の中央値特定には至っていない。
tnAcity第2相試験の結果
Yardley氏らは、治療歴のない転移性TNBC患者191人をカルボプラチン×ジェムザール併用群(66人)、アブラキサン×カルボプラチン併用群(64人)、またはアブラキサン×ジェムザール併用群(61人)に無作為に割り付け、1サイクル3週間として治療した。その結果、アブラキサン×カルボプラチン併用群の奏効率(72%)はアブラキサン×ジェムザール併用群(39%)、およびカルボプラチン×ジェムザール併用群(44%)より高かった。アブラキサン×カルボプラチン併用群では完全奏効(CR)が7人(11%)に、部分奏効(PR)が39人(61%)に得られた。
統計学的有意差は認められなかったが、アブラキサン×カルボプラチン併用群の生存ベネフィットも示唆された。同併用群の無増悪生存(PFS)期間中央値(7.4カ月)はアブラキサン×ジェムザール併用群(5.4カ月)、およびカルボプラチン×ジェムザール併用群(6.0カ月)より延長し、他の2群と比べ増悪リスクが約40%低下した。12カ月後の無増悪生存(PFS)率もアブラキサン×カルボプラチン併用群(27%)がアブラキサン×ジェムザール併用群(13%)、およびカルボプラチン×ジェムザール併用群(11%)より2倍以上高かった。
全生存期間中央値もアブラキサン×カルボプラチン併用群(16.4カ月)がアブラキサン×ジェムザール併用群(12.1カ月)、およびカルボプラチン×ジェムザール併用群(12.6カ月)より延長し、死亡リスクはそれぞれ34%、26%低下した。
アブラキサンを含む併用療法では骨髄抑制に起因する血液毒性が少なく、グレード3以上の治療関連の好中球減少症の発現率は、アブラキサン×カルボプラチン併用群42%、アブラキサン×ジェムザール併用群が27%、カルボプラチン×ジェムザール併用群が52%、貧血はそれぞれ13%、12%、27%、血小板減少症はそれぞれ9%、7%、28%、白血球減少症はそれぞれ6%、3%、11%であった。発熱性好中球減少症(順に5%、2%、0%)、および末梢神経障害(順に5%、7%、2%)は群間に大差は認められなかった。
2013年に開始された第2/3相試験tnAcityは、第2相部分でアブラキサンを含む2剤併用化学療法で一定のベネフィットが証明された後、オリジナルの試験デザインではそのまま第3相部分に進め、カルボプラチン×ジェムザール併用群を対照として有効性と安全性を検証することになっているが、免疫療法を組み入れた治療の有効性が報告されている昨今の状況を鑑み、化学療法のみの併用戦略を再考したという。PD-1/PD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬を組み入れた併用戦略に切り替える可能性がある。
実際、TNBC患者を対象に第2相、第3相など後期臨床段階にあるアブラキサンとPD-L1阻害抗体を併用する術前療法、もしくは一次療法の試験は複数が計画されており、あるいは実施中である。乳がん以外にも非小細胞肺がん(NSCLC)や他のがんを対象とする試験も含めると、約20本の試験が行われている。
記事:可知 健太&川又 総江