主に職業的なアスベスト(石綿)曝露で潜伏期間を経て発症することが知られている悪性胸膜中皮腫は、標準療法であるペメトレキセドとプラチナ製剤による併用化学療法が効かない、または効いた後に再発した場合、承認されている二次治療以降の治療法がない。
2017年9月8日から12日までスペイン・マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)では、こうした治療選択肢のない患者に対する二次・三次治療としての免疫療法により、およそ半数の患者は病勢進行することなく12カ月を経過したとする中間結果が発表された(Abstract LBA58_PR)。
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フランスで実施中の無作為化非盲検試験、主に再発後二次治療としての免疫療法
1種から2種の標準療法で再発した患者を対象とする二次・三次治療として、がん免疫療法薬であるニボルマブ(商品名オプジーボ)の単剤療法、またはオプジーボ×イピリムマブ(商品名ヤーボイ)の併用療法を実施した第2相試験(IFCT-1501 MAPS2、NCT02716272)は、2016年4月から8月に、20施設で125例をオプジーボ単剤群、またはオプジーボ×ヤーボイ併用群に1:1に割り付け、オプジーボは3mg/kgを2週ごとに、ヤーボイは1mg/kgを6週ごとに静注した。
登録された125例のうち、80%は男性患者で、年齢中央値は71.8歳、83.2%は上皮型の悪性胸膜中皮腫であった。69.6%の患者は治療歴が1種で、本試験での免疫療法を二次治療として受けた。
有効性の中間解析対象は、オプジーボ単剤群54例、オプジーボ×ヤーボイ併用群54例で、主要評価項目である12カ月間の病勢コントロール率(DCR:完全奏効[CR]+部分奏効[PR]+病勢安定[SD]の患者の割合)は、それぞれ44.4%、50.0%であった。
オプジーボ×ヤーボイ併用療法の全生存期間中央値がどこまで延長するか期待
2017年7月31日をデータカットオフとする追跡期間中央値は15カ月で、無増悪生存(PFS)期間中央値はオプジーボ単剤群が4.0カ月、オプジーボ×ヤーボイ併用群が5.6カ月、全生存期間(OS)中央値は、単剤群が13.6カ月で、併用群は中央値特定には至らず、少なくとも15カ月を超えることは明確になった。12カ月間の全生存率はそれぞれ51%、58%であった。奏効率(CR+PRの患者の割合)はそれぞれ18.5%、27.8%であった。
腫瘍組織のPD-L1発現判定対象は計99例で、発現レベル1%超の陽性率は41.4%で、発現レベル50%超の強発現は3例のみであった。PD-L1発現レベルとPFS、またはOSとの関連性は認められなかった。
安全性許容可能、第3相試験に向けて妥当性検証
グレード3、またはグレード4の有害事象の発現率は、オプジーボ×ヤーボイ併用群(各22.9%、3.3%)の方がオプジーボ単剤群(各12.7%、0%)の方が高かったが、予期しない安全性の問題は認められなかった。治療関連死は併用群の3例であった。
本試験演者でフランスParis-Diderot大学のG. Zalcman氏は、プログラム細胞死受容体1(PD-1)標的のオプジーボと細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)標的のヤーボイによる免疫チェックポイント2つを阻害する併用免疫療法で、今回の無増悪生存(PFS)期間と全生存期間(OS)の意義は重要とし、この併用療法を悪性胸膜中皮腫を対象として米国食品医薬品局(FDA)が希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)に指定したことを支持するデータでもあると強調した。
ESMO代表としてコメントしたスイス・チューリッヒがんセンターのRolf Stahel氏は、バイオマーカーとしてのPD-L1について言及した。「肺がんとは異なり、一般に腫瘍の変異が少ない胸膜中皮腫はPD-L1発現レベルも低いが、PD-1標的抗体のオプジーボを含む免疫療法に反応したことは、免疫細胞の浸潤や炎症状態が関連した可能性もある」と語り、また、「今回の奏効率は遺伝子変異の度合いが高い他の固形がん患者を対象とする試験報告と同程度まで達している」と評価した。今後、比較対照試験を実施することにより、二次・三次療法としての免疫療法の位置付けを明確にする必要があるとし、第3相試験の実施を後押しした。