2018年1月4日、医学誌『JAMA Onclogy』にて限局型小細胞肺がん(SCLC)患者に対する化学療法、放射線療法などの標準治療を受けることができない障壁となる臨床的、社会的な要因についてNational Cancerのデータベースに基いて検証した試験の結果がアメリカ合衆国・テキサス州にあるTexas M.D. Anderson Cancer CenterのTodd A. Pezzi氏らにより公表された。
本試験は、2004年から2013年にかけてNational Cancerのデータベースに登録された限局型小細胞肺がん(SCLC)患者(N=70,247人)に対して、初回治療としての化学療法、放射線療法などの標準治療の実施率、その実施率に関連した生存率、実施率、生存率に関連した臨床的、社会的な要因について検証した試験である。
本試験の解析対象となった患者背景は、年齢中央値68歳(19-90)、女性55.3%。初期治療として化学療法+放射線療法を受けた患者55.5%、化学療法のみを受けた患者20.5%、放射線療法のみを受けた患者3.5%、どちらの治療も受けていない患者20.0%、その他0.5%であった。
解析対象となった患者の生存率中央値は化学療法+放射線療法群18.2ヶ月(95%信頼区間:17.9-18.4)、化学療法のみの治療群10.5ヶ月(95%信頼区間:10.3-10.7)、放射線療法のみの治療群8.3ヶ月(95%信頼区間:7.7-8.8)、どちらの治療も受けていない群3.7ヶ月(95%信頼区間:3.5-3.8)であった。
以上の背景を持つ患者の検証結果は、化学療法、放射線療法などの標準治療の実施率は保険未加入である場合に低率であり、その実施率は化学療法のオッズ比は0.65(95%信頼区間:0.56-0.75,P < .001)、放射線療法のオッズ比は0.75(95%信頼区間:0.67-0.85,P < .001) を示した。
また、化学療法の実施率は保険未加入であるメディケア、メディケイドである場合、その実施率に影響を与える独立した因子ではなかった。しかし、放射線療法の場合はメディケアのオッズ比は0.79(95%信頼区間:0.72-0.87,P < .001)、メディケイドのオッズ比は0.86(95%信頼区間:0.82-0.91,P < .001)を示し、放射線療法の実施率低下に関連する独立した因子であることが示された。
以上のように、保険未加入である場合は化学療法、放射線療法などの標準治療の実施率の低下に関係した独立した因子であることが示されたが、実施率の低さが生存率の低下に関連する独立した因子であることも本試験では明らかになった。
例えば、保険未加入である場合の死亡率は19%増加(ハザード比:1.19,95%信頼区間:1.09-1.15,P < .001)、メディケイドである場合の死亡率は27%増加(ハザード比:1.27,95%信頼区間:1.21-1.32,P < .001)、メディケアである場合の死亡率は12%増加(ハザード比:1.12,95%信頼区間:1.09-1.15,P < .001)した。
化学療法による治療を受けた場合の死亡率が45%減少(ハザード比:0.55,95%信頼区間:0.54-0.57,P < .001)、放射線療法による治療を受けた場合の死亡率が38%減少(ハザード比:0.62,95%信頼区間:0.60-0.63,P < .001)するにも関わらずである。
以上の試験結果より、Todd A. Pezzi氏らは以下のように結論づけている。’National Cancerのデータベースより、生存率の低下につながるにも関わらず、限局型小細胞肺がん(SCLC)患者の中には導入療法としての化学療法、放射線療法などの標準治療を実施していない患者も存在することが分かりました。そして、放射線療法の実施は保険加入の割合に相関することが示されましたので、このような患者さんに対しては制度的な問題で解決できるよう改善していく必要があります。’
上記は米国の状況であり、国民皆保険制度の日本は患者にやさしい制度であることは確かである。