2018年2月12日、医学誌『The Lancet Oncology』にて転移性悪性黒色腫(メラノーマ)患者に対する抗体薬物療法、免疫薬物療法、化学療法の有効性とBMI(Body Mass Index)の関係性について後ろ向きに複数コーホートを解析した試験の結果がUniversity of Texas MD Anderson Cancer Center・Jennifer L McQuade氏らにより公表された。
本試験は、抗体薬物療法、免疫薬物療法、化学療法の治療を受けた転移性悪性黒色腫(メラノーマ)患者(N=2046人)を対象に、BMI別の全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)を比較検証した後ろ向きに複数コーホート試験である。
本試験のコーホートは6つのコーホートより成っており、その内訳は下記の通りである。抗体薬物療法としてはBRAF 阻害薬ダブラフェニブ(商品名タフィンラー;以下タフィンラー)+MEK 阻害薬トラメチニブ(商品名メキニスト;以下メキニスト)併用療法(N=599人)、BRAF 阻害薬ベムラフェニブ+MEK 阻害薬コビメチニブ併用療法(N=240人)が投与された無作為試験。免疫薬物療法としてはイピリムマブ(商品名ヤーボイ;以下ヤーボイ)+ダカルバジン併用療法(N=207人)が投与された無作為試験、ペムブロリスマブ(商品名キイトルーダ;以下キイトルーダ)単剤療法またはニボルマブ(商品名オプジーボ;以下オプジーボ)単剤療法またはアテゾリズマブ(商品名テセントリク;以下テセントリク)単剤療法(N=331人)が投与された後ろ向き試験。化学療法としてはダカルバジン(N=320人,N=221人)が投与された2つの無作為試験。
また、上記6つのコーホートはWHO基準肥満度分類により下記4つに分類されている。低体重(BMI値18·5 kg/m2未満)、普通体重(BMI値18·5–24·9 kg/m2)、過体重(BMI値25–29·9 kg/m2)、肥満(BMI値30 kg/m2以上)。なお、本試験で低体重に分類される患者は2%未満であるため解析対象として除外されており、その内訳は下記の通りである。
普通体重群36%(N=694人)、過体重群37%(N=711人)、肥満群27%(N=513人)。また、先述の通り低体重1%(N=27人)の患者が本解析対象より除外されており、さらに5%(N=101人)の患者は体重、身長の情報が不明のために除外された。なお、本試験に登録された患者の内男性は60%(N=1155人)であった。
本試験の各コーホート別のBMI別の全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)は下記の通りである。タフィンラー+メキニスト併用療法群の全生存期間(OS)中央値は普通体重群19.8ヶ月(17.3-29.0ヶ月)に対して過体重群25.6ヶ月(20.2-未到達)、肥満群33.0ヶ月(26.7-未到達)、普通体重群に比べて肥満群では41%(ハザードリスク比0.59)死亡のリスクを統計学的有意に減少した(P=0.02)。また、タフィンラー+メキニスト併用療法群の無増悪生存期間(PFS)中央値は普通体重群9.6ヶ月(9.0-12.1ヶ月)に対して過体重群11.0ヶ月(9.2-14.9ヶ月)、肥満群15.7ヶ月(11.0-20.4ヶ月)、普通体重群に比べて肥満群では25%(ハザードリスク比0.75)病勢増悪または死亡のリスクを減少した(P=0.56)。
ベムラフェニブ+コビメチニブ併用療法群の全生存期間(OS)中央値は普通体重群21.5ヶ月(16.3-28.4ヶ月)に対して過体重群22.3ヶ月(16.7-34.1ヶ月)、肥満群未到達(21.3-未到達)、普通体重群に比べて肥満群では38%(ハザードリスク比0.62)死亡のリスクを減少した(P=0.44)。また、ベムラフェニブ+コビメチニブ併用療法群の無増悪生存期間(PFS)中央値は普通体重群9.0ヶ月(7.3-12.9ヶ月)に対して過体重群13.3ヶ月(9.0-20.0ヶ月)、肥満群15.2ヶ月(11.1-22.1ヶ月)、普通体重群に比べて肥満群では34%(ハザードリスク比0.66)病勢増悪または死亡のリスクを統計学的有意に減少した(P=0.06)。
ヤーボイ+ダカルバジン併用療法群の全生存期間(OS)中央値は普通体重群10.0ヶ月(8.1-14.0ヶ月)に対して過体重群12.4ヶ月(9.1-21.9ヶ月)、肥満群未到達11.4ヶ月(9.2-24.3ヶ月)、普通体重群に比べて肥満群では46%(ハザードリスク比0.54)死亡のリスクを減少した(P=0.15)。また、ヤーボイ+ダカルバジン併用療法群の無増悪生存期間(PFS)中央値は普通体重群2.6ヶ月(2.6-3.5ヶ月)に対して過体重群2.6ヶ月(2.5-3.7ヶ月)、肥満群5.2ヶ月(2.7-8.0ヶ月)、普通体重群に比べて肥満群では37%(ハザードリスク比0.63)病勢増悪または死亡のリスクを減少した(P=0.28)。
キイトルーダ単剤療法またはオプジーボ単剤療法またはテセントリク単剤療法群の全生存期間(OS)中央値は普通体重群19.9ヶ月(14.2-31.1ヶ月)に対して過体重群28.8ヶ月(18.6-未到達)、肥満群未到達27.2ヶ月(22.0-未到達)、普通体重群に比べて肥満群では28%(ハザードリスク比0.72)死亡のリスクを減少した(P=0.84)。また、キイトルーダ単剤療法またはオプジーボ単剤療法またはテセントリク単剤療法群の無増悪生存期間(PFS)中央値は普通体重群3.8ヶ月(2.8-8.1ヶ月)に対して過体重群6.2ヶ月(4.7-17.7ヶ月)、肥満群5.7ヶ月(3.0-13.3ヶ月)、普通体重群に比べて肥満群では15%(ハザードリスク比0.85)病勢増悪または死亡のリスクを減少した(P=0.07)。
ダカルバジン(NO25026試験)単剤療法群の全生存期間(OS)中央値は普通体重群9.7ヶ月(7.8-14.2ヶ月)に対して過体重群10.6ヶ月(7.2-14.1ヶ月)、肥満群未到達9.9ヶ月(7.7-14.3ヶ月)、普通体重群に比べて肥満群では6%(ハザードリスク比0.94)死亡のリスクを減少した(P=0.49)。また、ダカルバジン(NO25026試験)単剤療法群の無増悪生存期間(PFS)中央値は普通体重群1.6ヶ月(1.5-2.1ヶ月)に対して過体重群1.6ヶ月(1.5-2.1ヶ月)、肥満群2.6ヶ月(1.5-2.9ヶ月)、普通体重群に比べて肥満群では9%(ハザードリスク比0.91)病勢増悪または死亡のリスクを減少した(P=0.51)。
ダカルバジン(CA184―024試験5)単剤療法群の全生存期間(OS)中央値は普通体重群8.3ヶ月(6.8-11.4ヶ月)に対して過体重群9.0ヶ月(7.1-10.6ヶ月)、肥満群未到達7.9ヶ月(5.3-13.9ヶ月)、普通体重群に比べて肥満群では16%(ハザードリスク比1.16)死亡のリスクを増加した(P=0.39)。また、ダカルバジン(CA184―024 試験5)単剤療法群の無増悪生存期間(PFS)中央値は普通体重群2.6ヶ月(2.6-2.7ヶ月)に対して過体重群2.6ヶ月(2.6-3.0ヶ月)、肥満群2.6ヶ月(2.4-4.5ヶ月)、普通体重群に比べて肥満群では4%(ハザードリスク比0.96)病勢増悪または死亡のリスクを減少した(P=0.79)。
そして、全コーホートにおける死亡のリスク(OS)は普通体重群に比べて肥満群で26%減少(ハザードリスク比0·74,95%信頼区間0·58–0·95)、 病勢進行または死亡のリスク(PFS)は普通体重群に比べて肥満群で23%減少(ハザードリスク比0·77,95%信頼区間0·66–0·90)を示した。なお、BMI別の全生存期間(OS)の延長は抗体薬物療法、免疫薬物療法群において統計学的有意な差があり、特に男性においてその差は顕著であった。
以上の後ろ向き複数コーホート試験の結果よりJennifer L McQuade氏らは以下のように結論を述べている。”普通体重の転移性悪性黒色腫(メラノーマ)患者よりも肥満患者の方が全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)ともに改善することが本試験より証明されました。この改善傾向は特に男性肥満患者で抗体薬物療法、免疫薬物療法による治療を受けていた患者において確認されました。”